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第十二話 バッティング

 夕食を済ませた後、俺はリビングに寝転がっていた。

 姉は隣の寝室で大学のレポートを作成している。


 ちなみに、うちには自室というものが存在しない。

 当たり前だが俺と姉は二人とも学生で、しかも新生活始まってすぐだからお金がないのだ。

 だから、家も1LDK。

 俺も姉も別に部屋は持っておらず、同じ部屋で寝ている。

 仲が良いからできる生活だ。

 まぁたまに不便な事もあるけど……。


 そんな事を考えていると、スマホにメッセージが届いた。

 千陽ちゃんからだ。

 用件は遊びに行く日時と場所の指定。

 俺も問題がなかったため、すぐに了解と送った。

 これで約束が具体的になった。


「今週末か。朝は部活があるから午後動物園と。楽しみだな~」


 千陽ちゃん、どんな服装で来るだろうか。

 制服とは違うだろうし、わくわくする。

 普通に顔も可愛いから何を着ても似合うだろう。


 と、俺も呑気な事を言ってるだけでなく、準備をしなきゃな。

 姉に言われた通りワックスを買って、セットの練習をしておこう。

 ついでに一応初デートの心構え的なのも調べておこう。

 いや、別にデート気分で臨むわけじゃないけど、女の子と一対一で遊びに行くのなんて初めてだからな?


 なんて、誰に対してかわからない説明を脳内でしていると、再びスマホにメッセージが届いた。

 今度はつなちゃんだ。


「毎日話しかけてくれてありがたいな」


 最近会っていないが、やり取りは続いているため孤独感はそんなにない。

 しかし、挨拶と同時に連続で届いたメッセージに俺は目を見開いた。


「それは……ヤバいな」


 用件は単純に『会いたい』という旨。

 そこは問題ない。

 だけど、日時がいただけない。

 丁度今決まった千陽ちゃんとのデートと被ってしまったのだ。


「ど、どうしよ」


 既読をつけたまま慌てる俺。

 先に決まった約束を守りたいのは当たり前だが、俺の中でも若干不安があった。

 それはサキュバスのキスの効果が薄れているという事だ。

 俺もつなちゃんとまた会いたいとは思っていた。

 それも、できればデートの前に。


 だけどこうやって日程が被るのはマズい。

 千陽ちゃんに時間をずらすように言うのは絶対違うと思う。

 だから、早くつなちゃんの方に断りを入れなければ。


 ぐだぐだとそんな事を考えていると、つなちゃんから電話がかかってきた。

 どうしよう!


「瑛ちゃーん。電話なってるけどー?」

「う、うん! 友達だよ! ちょっと出てくる!」

「別にそこで電話すればいいのに。もしかして私に聞かれたくないの~? まさか今度デートする女の子? え~、瑛ちゃ~ん?」

「ち、ちちち違うから! ごめん!」

「恥ずかしがっちゃって」


 隣の部屋から顔を出してきた姉のニヤニヤした笑みに俺は訂正しながら家を飛び出た。

 流石につなちゃんとの電話を聞かれるわけにはいかない。

 あの人は普通の人間じゃないのだから。


 おかしな勘違いを姉にされたまま、俺は電話に出た。


「も、もしもし?」

『遅いよ瑛大君。無視され過ぎて泣きそうだった』

「ご、ごめんなさい」

『冗談だよ~。久々に声聞けて嬉しい』

「そ、そうですか」


 久々に聞いたつなちゃんの声は透き通るように綺麗で、だけど親しみやすい柔らかさもあって耳にすっと入ってくる。

 人並外れた容姿ばかり意識していたけど、可愛い声だな。

 いや、人じゃないから人並外れているのも当たり前なんだけど。


『今週末会いたいんだけどどう? もうそろそろキスの効果薄れてきたでしょ? 上書きしておきたくない?』

「ま、まぁ」

『だよね』


 ちゅっとリップ音が聞こえる。

 その音に以前のつなちゃんとの体験を思い出して、体に何かが走ったような感覚に襲われた。

 びくっとする。


「で、でもその日は既に他の女の子と用があって」

『え?』

「あ、あの。キスの効果でちょっとモテ始めたみたいで。仲良くなった女の子と動物園に行く予定ができちゃって」

『……そう、なんだ』


 寂しそうに言うつなちゃん。

 なんだか俺がすごく酷い事を言ったみたいだ。

 でも、別にいいよね?

 つなちゃんにとって俺は精気補充のための道具だし、俺が他の女の子と遊んだからって不都合はないはずだ。


『瑛大君、モテてるんだ』

「いや、そんな大げさじゃないですけど! キスの効果も薄れてきてるみたいなので」

『ふーん?』

「えっと……あの」

『もう私は用済みって事?』

「い、いやいやいや! そんなことないです」


 マンション前でスマホに頭を下げる俺。

 通行人に変な目で見られた。

 当たり前だ。


「また会いたいし、キスしたいです!」

『瑛大君、言ってる事サイテーだよ?』

「はっ!? ほ、本当にすみません! そういうわけじゃ!」

『んー、はぁ……。そっか』


 諦めたようなつなちゃんのため息が俺の耳に届く。

 怒らせてしまったかもしれない。

 年上でハーフサキュバスと言っても相手は女の子だし、きっと踏んではいけない地雷を踏んでしまったのだ。

 やってしまった……。


『ん、わかった。週末(・・)は無理なんだね』

「は、はい」

『……バイバイ』

「あ、えっと……あ」


 何を言おうか迷っていたら電話は既に切れていた。

 どうしよう。

 本当に怒らせてしまった。


 すぐに謝罪のメッセージを送ったら、既読も返信も付いたため、なんとか関係性が切れていないことが分かる。

 俺は安堵で胸を撫で下ろした。

 こんな別れは嫌だからな。


 それにしても、なんだったんだろう。

 相変わらずつなちゃんの事はよくわからない。

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