神でもなく人だから
何気にクボヤマ視点に戻ってます。
「……何してんの?」
ルビーは、小さな窪みに身を隠す様に体操座りして塞ぎ込んでいた。ボロ切れを身につけている意外は、怪我を負っている様な印象は無かったので、ホッと一息つく。
「ふぐ、ふぇぇぇ〜〜〜」
「お、おい」
強気な性格がらしくない。
俺の姿を認識したルビーは、その赤い瞳から大粒の涙を流しながら抱きついて来る。こういう時って突き放すのは無粋だと思う。そんな理由で納得しながら、俺も優しく抱きしめて上げた。
「なんで、もっと早く来てくれないのよ……」
涙を拭く様に、俺の胸の辺りにぐりぐり顔を押し付けるルビー。彼女の俺を抱きしめる手に、より一層力が籠るのが判る。
「すまん」
プレイボーイでも何でも無い俺には、気の聞いた言葉なんて言えるはずが無い。昔みたいに取り繕った敬語での受け答えなんて、表面的で中身がスカスカだ。
そう考えて絞り出す様に出た言葉は、すまんの一言だけだった。
「ああもう。なんで、なんで……何だか、アンタの顔見たら凄く心が落ち着いて行くの」
そりゃ、神父だしな。初期の頃は、聖書をひたすら読む事でわけのわからんこのゲームの世界で心の余裕を保って来た訳だ。
「神父の性質上。精神面を保護するバフがかかるし」
そう答えると、
「違うわよ馬鹿。そう言う事を言ってるんじゃないの」
さらに俺を抱きしめる腕の圧力が増すのだった。
あ、こいつ今匂い嗅ぎやがった。
「あ、あの……色々あって汗臭いと思うんだけど」
「気にしないわ」
密着した状態で見上げて来るルビーは、えらく扇情的だった。そういや、色々忙しい、かなり多忙を極めてるってか巻き込まれ続けて来たから、こういう女の人の肌って言うのがとても懐かしかった。
まぁ、こういう絡みを見せて来る奴。
一人は昔フルプレート身につけてたし、もう一人はトゲトゲとか狂気が色々付けられた特殊な衣服を身につけていたから、それどころじゃなかったんだよな。
「は、はは……」
思い出したら、自分の女難に呆れ返って口から魂が出そうだった。
(もー! そう言う意味では私が一番先なの!)
そうやって喚き散らすフォルトゥナ。
モンチッチー共は、俺の最愛なる妹である。
(ガ—————ン!!)
フォルの叫びと共に、のど○慢大会のあの鐘の音が二回なる音が聞こえた様な気がした。
「ねぇ、ここって」
「迷宮の最深部かな、どうやってここへ来たか覚えてる?」
そんな問いに、ルビーは「やっぱり」と一言漏らして再び俺の胸に顔を埋める作業にいそしみ始めた。
「サービスカットはもう終わりだアホ」
「何よ、こんな幼気な女の子を放ったらかしておくって言うの!?」
幼気な少女は、大迷宮と呼ばれるこんな場所の最深部で五体満足で生きて行ける筈が無い。何よりも裸一貫で送り込まれた状態で、着る物を確保した上で、発狂せずに生き残れるなんて……。
あれ、意外と胆据わってないか。
「ね、ねぇ。なんか着る物無いわけ?」
過激な冒険の度重なる不幸で、羞恥心の欠片も持ち合わせていないと思っていたこの女にも、やっぱり大事な所だけを申し訳なく隠したその恰好は恥ずかしかったか。
上はボロ切れを前で結んだ、乳バンド。
下はこの角度だから見えないが、後ろから見たらほぼアウト。
そういやその恰好で体操座りしてたな……。
呼び覚ませ、意識はして無かったけどたぶん視界には入っているだろう俺の記憶。だが、抵抗虚しく意識の中に居るモ○チッチー質が大事な領域にシチューこぼしてお釈迦にしやがった。
「——ッ」
頭の中を鋭い針で刺された様な一直線の痛みが響く。
一瞬の動揺に、ルビーが心配そうにこちらを見て言う。
「ねぇ大丈夫? 顔……汗も凄いし」
「ああ、いや大丈夫。うん」
レディーは優しく扱え、との抗議が頭の中で響く中。俺は神父服の上着を脱ぐとルビーに着せてあげる。エリック神父に貰った黒い神父服は、コートタイプなので前を確り絞めておけば見られる心配も無い。
あれ、何で俺そんな変な事心配してんだ。
今更、ルビーの裸体なんぞ見飽きたっちゅうのに。
でも朧げにしか思い出せないという事は、絶対頭の中のモン○ッチー共がなにか細工をしたに違いなかった。
((ぎく))
……今度、拳骨だな。
「汗臭いのは我慢しとけ」
「ううん。……ありがと」
俺の神父服を着込みながら、ルビーは何故か顔を赤くさせていた。少し袖が余っているが、胸の辺りは俺も筋肉で割りかし胸囲がある方だから大丈夫みたいだった。
うーん、これで自動修復機能はパーになったかもしれんが、世に腹は代えられんし、またエリック神父に作ってもらえば良いだろう。
「絶対脱がないから中に何も着てないのかと思ってたんだけど、一応カッターシャツは中に着てたのね」
「セバスが襟元のワンポイントが印象をがらりと変えるんだって言って聞かなくてな……」
前まではキヌヤのランニングシャツの上に、コートを直で着てました。だからゴーギャンストロンドと戦った時もコート脱いだだけで良かった。
あんまりハードに動くと、自動修復機能が無いシャツだとすぐに破けてしまうのだ。あと、首回り、腕周りの太さから合うサイズが少ない。
俺で少ないんだからロバストとかこの世界の身体がデカい人達は全部特注になるのだろうか。
「アハハ、なんかその恰好、疲れたサラリーマンみたいね。クールビズよクールビズ。良く駅で見かけるタイプ」
ルビーが俺の恰好を見て笑っていた。
外に出ない家事手伝いが何を言ってるんだ。
「歳、一緒だろ。誕生日的に俺の方が年下かもしれんぞ」
「でも白髪」
くそぅ……。実は密かに気にしている事を、この女はオブラートに包む事も無く言いのけて来るのである。
少し間をおいてルビーは言った。
「でも、その……悪くないわ。その位の方が甲斐性があって素敵よ」
「社交辞令いらないんだけど」
彼女は慌てだす。
「ほ、本当よ! ほら、私なよなよしてる人好きじゃないし、その……アンタ見たいなガッチリしてて、その、ハンサムだし」
「ごめん最後よく聞こえてなかった」
「うううるさい馬鹿!!!!」
顔面ビンタ、ルビーの攻撃って何気に防御性能貫通してくるんだけど。その辺どう思ってるのか知らんけど、いきなりビンタするのはダメだと思う。
「ね、ねぇ。どうするの?」
歩き出した俺の手を握りしめながら、顔を赤くしたルビーがふわっとした質問を投げかけて来る。因に俺から握ったんじゃないからな、いつのまにか握られてて、離れられてもやだから握り返した。
まぁ、悪くない暖かさだよね。
「一度上を目指さないと、ハザードの身体もまだ残ってると思うし」
「……ハザード?」
彼はまだ死んでない。
囚われてるだけだ。
根拠は無いけど、俺の中の何かがそう結論づけていた。いや、認めなかったと言う方が正しいのかもしれない。ただ、あの時交わした男同士の約束は絶対に死守すると心に決めている。
何が、こぼさない様にサポートするだ。
それなら自分を犠牲にしても良いのか。
「アンタ。ねぇちょっとアンタ。——最近ずっとそんな顔してた」
「え……?」
いつのまにか何かを噛み締めた様な顔をしていたようで、ルビーが俺の腕を揺さぶりながら不安そうな顔をして言った。
「……ねぇ、約束して」
約束?
突拍子も無い事に、思わず足が止まった。
「前の迷宮の時も、そんな顔してた。でも、全部が全部あなたの責任じゃないの」
悪い事をしてしまった犬の様に、シュンと俯くルビーの頭を優しく撫でてあげる。
「安心しろ。異世界チートで言うと、俺は最強の能力を持ってるから」
「な、何よそれ。信じていいの?」
俺の一言に、若干あきれ顔を見せたルビー。
うん、その顔が一番似合っている。
「いざという時は、任してくれ。……今回も俺は駆けつけただろ?」
「……うん」
珍しくしおらしい様子に、一度心が高鳴った気がした。だが、そんなもすぐ忘れたと言わんばかりに、俺は頭を抱えるハメになった。
適当に進んだ先が、上ではなく————迷宮核のある最深部の大部屋だったのだ。ちょっと、ナビしっかりしてよ。
何故か、フォルトゥナの声は帰って来なかった。
「ほらもうお前と居るといつもこうだよ。絶対触んなよ?」
「何よ! せっかくいい雰囲気だったのにアンタ馬鹿じゃないの!?」
「何言ってんだアホ。良いから触んなよ!」
「それ前振り? 触れって言ってるの? なら触っちゃおうかな」
「ちげーよ! ちょ、まってお願いだから止まって!」
握った手は、いつのまにか離れていた。
大部屋を照らす様に鈍く輝き蠢く丸い巨大な玉。無秩序区の迷宮で見た物よりも、ずっと大きくて、とんでもない力を内に秘めているのがヒシヒシと伝わって来た。
夫婦漫才の様な押し問答をやってる暇は無い。
"ほ、本当にルビーの力だけでこの巨大な迷宮核を消せるのか"
ロッソとの戦いで大きく力を使ってしまった今の自分に出来るのか。準備を整えた方が良いかもしれないが、このチャンスが再び来る事はあるのだろうか。
不安を一つ孕んでしまった結果。
半神で有るが故に大きな一つのミスをおかした。
それは——ドクンッ。
「何が神だ、ギャハハハハハ!! ついに、ついに握ってやったぜ神父ぅ!!! これがテメェの心かぁっ!?」
大部屋の、上。
空間に、亀裂。
「余計な抵抗しても無駄だっつのぉ!!!」
「グッ」
必死で抗う。
心臓を、握りつぶす、よう……に
ろっその手が
こころを
るび————
半神設定ここで生きた。
@tera_father
ツイッターどうぞ。




