神父vs邪神1
クボヤマの突き出された右手の先から、眩いばかりの閃光がほとばしり、薄暗い迷宮内をまるで昼間と錯覚してしまう程に辺りを照らす。
「芸の無い奴だなぁ」
容赦なく頭部を狙って放たれた閃光。
少し頭を傾ける事でロッソは躱す。
次は自分のターンだと言わんばかりに、
ロッソの右手にこの世の全ての災禍が集まる。
「——天門」
「ッッ!?」
聞き覚えのある声が、ロッソの後ろから聞こえた。
彼が咄嗟に振り向いた時、既にクボヤマは拳を握りしめ——
「神聖なる奔流」
特大の閃光を放っていた。
神聖なる奔流の原点はクボヤマが持つ無尽蔵の精神力。
困難に立ち向かえば立ち向かう程。
そして、彼は乗り越える程に強さを増して行く。
「これで終わる程、甘くはない筈だ」
今まで誰にも見せた事無い険しく鋭い視線で、大迷宮にぽっかり空いた巨大な穴を見据えながら、クボヤマはそう呟いた。
ピシピシピシと次元を歪める音がする。
歪な空間からボタボタボタと血の様な液体が吹き出して、徐々に人の形を織り成して行く。
敵役の変身変化に付き合ってあげる程、現実は甘くない。
"今の内に全力で叩いておくべきだ"
クボヤマの心の中は、警告を鳴らしていた。世界のルールを曲げる様な力を持つ魔王サタンの悪魔としての能力。その一端が変質して、RIOとリアルの境界線をいつ取っ払われてもおかしくない状況だった。
幸いな事にロッソは狂気にのまれ、クボヤマ自身を殺す事に執着している。悟られずに、時報時期になられない様に叩くなら——今のウチ。
「今の内に終わりにしてやる——聖火」
クボヤマの究極技。彼の持つ力の根底には、運命の女神フォルトゥナがいる。その運命の女神は、この世界の女神アウロラと鍛冶神ヴァルカン、二人の力を受け継いだ存在だった。
全てを燃やし尽くす神火。
全てを浄化してしまう聖光。
二つの性質を併せ持つ聖火は、全ての邪悪を浄化し燃やし尽くす力を持つ。光が届かない地の底でも、メラメラと浄化の焔を揺らすのだ。
零れたガソリンの上を滑る様に、赤黒い血みたいな液体に聖なる焔が燃え広がって行く。
——終わったのか?
燃え上がった聖火は、血溜まりを完全に蒸発させた。完全にロッソの力が、存在が浄化された手応えを感じて、クボヤマは息を付いた。
(……大丈夫なの?)
「ああ、かなり疲れたけどな」
意外と呆気ない幕引きだったかもしれない、クボヤマと同じ様な神の領域に達していたロッソが、こんなに簡単に終わるハズあるのか、強い抵抗があると感じていたのだが……。
「過信し過ぎたんだろう自分の力を。どちらにせよアイツがプレイヤーである限り根底の邪神そのものを消し飛ばすか封印しなきゃいかんのか?」
(理論上というか。性質上ではクボヤマの聖火でも邪神を消し去る事は可能なの)
心の中に直接話しかけて来るフォルは、お兄ちゃん……もとい鍛冶神の力を受け継いでいるから、可能であると言っていた。
「でも、ずっと昔も封印するだけで精一杯だったんだろ?」
(あの時私は生まれてなかったけどエラ・レリックにある歴史を読めば、先の時代が邪神にどれだけ後手後手だったかがよくわかるなの)
今は通信手段が確立され、遠方でも用意に連携、人と人とが手をとりあえず今の時代であるからこそ、大局レベルで先手を取る事が可能になり、神の力の源である人々の自由意志も善の心も深刻な状況にならずとも突き動かされるのだ。
その代わりに、どちらにも向かない意志も生まれてしまったが——。
クボヤマは「まぁどっちだって良い。ルビーを、ハザードを取り返しに行く」と、そう言いながら少し前に吹いた風の向かった先を見つめるのだ。
「ルビーの位置はわかるか?」
(構成魔素とに紛れるから外界に居ると絶対に掴めないけど、迷宮内なら無駄に濃い魔素溜まりが無理矢理平均値に戻されている箇所を割り出せるの)
「まぁ、多分デスペナルティだってある筈。……先にルビーだな、野垂れ死なれたら寝目覚めが悪い」
(……でも判ったでしょうクボ。半神である貴方の力が、ここまで)
「良いんだ。判ってる」
心配するフォルトゥナの忠告を遮って進む。
久しぶりに感じた身体への大きな負担、ほぼ全出力に近い"神聖なる奔流"を三回も使用し、最後は一番負担の大きい聖火。
生半可な覚悟じゃ、決してロッソを消滅させる事は不可能だっただろう。それだけ、ロッソの力は悪魔と邪神の力を、大きな変容を経て増大していたのだった。
「一番下に居るのか。無限だっけ……確かにルビーが居なかったから全力を出せた物の……」
ぶつくさと文句を口走りながら、クボヤマは天門を開き、ルビーの存在を感じる方向へ転移した。
——ピシピシピシ。
彼方此方が大きく抉れ、大規模な戦闘の痕跡が残された迷宮内のどこかで、時空が割れる様な音が鳴り響く。
——ドロッ。
歪められた次元の隙間から赤黒い液体に包まれた一人の男が姿を表す。
「あっぶねぇ、調子のりすぎたぁ……ぎゃは」
大きく肩で息をしながらも、その男は楽しそうだった。
「やっぱ転移自由に使えんのが厄介だぜぇ。後、聖火だっけ?」
迷宮の汚い通路に大の字に寝転がりながら、男の笑い声は、次第に大きな物になって行く。
「クフフ、アハぁっ、ギャハッギャハハッハッハッ!!!」
一頻り笑った男の表情からは、狂気の色が消えて行く。
そして男はこうひとりごちた。
「——判ってるよ。デスペナ喰らったら彼奴らに一日猶予もたしちまうってぇ? あーあーはいはい、今からやりゃいいんだろ?」
「なに? 下らんお遊びだと? ハゲじゃねぇのお前、いたぶっていたぶって……そうだよ。あいつ、かなり消耗してそうだからな」
そして男は目を瞑って集中する。「血の繋がりは切れる事はねぇ」とそう呟きながら、一人の血縁者を発見した。男には判っていた、あの神父は必ず我が愛しの妹を助けに行くと、連れ戻しに行くと。
決して切れない二人の繋がりの中に、一人の神父は雁字搦めになっている。……つくづく良い仕事をしてくれる妹だ。と言いながら、男はズブズブと再び下の階へと潜って行く。
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