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太古の火種

……カリカリカリカリカリカリ……

——キーンコーンカーンコーン。


「んじゃ、今日の補修はコレまで。完全学区の生徒は、とりあえず全教科平均99点取るまで補修続くからな〜。あと先週の小テスト返しとくぞ、満点取れなかった奴は明日の特別講義強制参加な」


 本来であれば休みであるはずの土曜日に、授業の終わりを告げる音がなり、教室に集まった数人の生徒が椅子の背もたれにどっと身体を預けた。


「はぁ〜、やっと終わった。エリー、小テストはどうだった? この地獄から抜け出せそう?」

「ワタシは……まだまだ続くみたいデス……」


 返って来た小テストの点数欄は九十八点。たった一つ二点問題の回答部分に無慈悲なチェックが入れられた箇所に目を落としながら、項垂れている。


「その様子じゃ。エリーは来週も補修確定な訳ね……」


 チラ見できた彼女の答案用紙には、一つのチェックもついていなかった。


「……漢字間違えただけナノニ」

「ん〜、私は16年くらい日本に居るからね」

「私の8倍も居るじゃないデスカ! ムゴイ!」

「いや、そうだけど。海外組でA地区のランクに居る事自体凄いから。これは誇れる事よ?」


 当然ながら御門藤十郎セバスチャンは補修のほの字も知らない様な超エリートだ。生徒会長という龍峰学園の激務をこなしながら、今日もすっかりハマってしまったあの世界に……


「執事の癖に……執事の癖に……一人だけゲームばっかりシテ……」

「執事?」

「あ、いえ。何でもアリマセン」


 私の執事ならリアルでの勉強も見てくれたら良いのに。

 それを少しでもほのめかすと「エリーさん、現実とゲームの区別は確りつけなければいけませんよ」と小言の様に毎回口走るのだ。


「執事と言えば、御門様。学園祭で執事服着てた時は本当に様になってたよね! 人気過ぎて近寄れなかったけれど、私もエスコートされてみたいなぁ〜」

「区別できてナイ! あの糞セバス! 何なのかしら! 私だけ放ったらかしにして師匠と一緒に毎回毎回訳の判らない事ばっかり企てて! ヒロインなのに除け者にされる私の気持ちも考えてるのかしら!!」

「ちょ、ちょっとエリー落ち着いて! 後半母国語に戻ってなんて言ってるか全く判らなかったわ!」

「す、すいませんデシタ。取り乱しマシタ」


 ああ、師匠にあえない事がこんなにもストレスになるなんて。テスト前に確り勉強しておけば良かった。実際セバスは忙しさから勉強こそ教えてくれなかった物の、効率のいい勉強法やテストの予想などは大方渡してくれた。


 流石セバス。頼りになる。合間の休憩用にリラクゼーション効果のあるお茶だって渡してくれた。流石に家まで来て淹れてくれるなんて無かったが、メイドさん達に淹れさせたらかなり美味しかった。


 そう、プチ引退から返って来た師匠をあれこれ行って外-聖王都周辺のデートスポット-に連れ出しまくって浮かれてた私が悪いのだ。テスト前だというのを忘れ果てて。


 師匠は「そろそろテストじゃないのか? いいのか?」と心配してくれたが、私はそれを「A地区でも私はそこそこ上位の成績ですよ?」と言って無理矢理連れ出していた。


 実際に合間に少し勉強すれば余裕だろうと高を括っていた。

 ……おのれ、漢字め。

 私と師匠の時間を引き裂くとは、許すまじ。


「血の涙を流しそうな顔をしてる所失礼だけど。エリー、朗報よ」

「ナニガデスカ……ぐぎぎ」

「ちょっと、歯ぎしりしないでよ。せっかくの可愛い顔なのに、かなり猟奇的になっちゃってるわよ。ほら、明日の貴方が強制参加の講義なんだけど」


 そう言って、特別講義のスケジュール表を見せてくれる。

 そこには久保山の名前が記載されていた。


「東シナ海のタコ漁における潮の満ち引きの関係性……一体コレが何の役に立つのかしらね。それにしても、ねぇエリー……なんで貴方はこの講師にご熱心なのかしら? 龍峰学園ならもっと凄い講師だって、イケメンだっているはずなのに」


 龍峰学園は独自のカリキュラムが組み込まれている。そして生徒の見識を広める目的と刺激を与えるべく、定期的に本筋の授業とは全く関係のない特別講義を行っている。


 授業が、テストが命。という生徒には全くウケていないのだが、稀にかなり面白い講師や有名な講師が来るので、そこそこ人気を呼んでいる。

 その中でも師匠の講義は人気を博している。そのお陰で何度も講師として学園に呼ばれて私も役得なのだが、あまり人気になりすぎると講義を受ける事すら難しくなって来るのだ。


「強制参加だから並ばなくても入れマス!」

「意外よね。コロンビア辺りにいそうな顔つきなのに……」


 友達はそんな事を宣っているが、彼の良さは外見でも地位でもない。まぁ見かけしか気にしない人には判らないと思う。


「……家族を大切にしてくれそうナノデ……」

「海外の人はそう言う人多いって言うわよね〜。ってかもうそんな事考えてるの!? 私達まだ高校生よ!」


 師匠は日本人だ……多分。

 何はともあれ。

 これで地獄の様な補修も、もう少し頑張れる。


(そう、リアルじゃ私が一番近い。ふふふ、釣王。貴方は沖縄、こっちは関東。心の距離は物理的距離に左右される! 万が一の死角は存在しないのよ。貴方が沖縄デートだとしたら私はハワイだってタヒチだって、それこそコロンビアにだって何処にでも行くんだから!!)





※クボヤマが魔大陸を目指してからのエリーです。


 ケラウノに催したと勘違いされて、遠くの茂みへと連れて来られたルビーだった。後ろを歩くサレエレと呼ばれるダークエルフの女の視線が圧力になる。


 後ろめたい気持ちは全くなかったが、何故かこの女からは好意でも興味でも何でも無い、むしろ嫌悪に近い雰囲気を感じていたので、気が重かった。


「えっと、私別にトイレに行きたかった訳じゃないんだけど」

「あっそう」


 振り返ると視界が反転する。

 それと同時に背中に強い衝撃を感じて、呼吸が苦しくなる。


「かはッ……!! な、に」


 気付けば馬乗りにされて首を絞められていた。

 ダークエルフは、身体の線は細いが普通のエルフと違って矢、ナイフ・剣を用いて戦う種族である。近接戦闘から遠距離攻撃まで器用にこなし、尚且つ森の木々を操る魔法を持つ者達だ。


 今は"ただの小娘"でしかないルビーが、例え女でも戦う者の膂力に抗う術は無い。その内、血流が脳まで上がらなくなり、意識と視界が朦朧としてくる。


「あら、どっちにしろ同じだったみたいね」


 ルビーの失禁を一瞥すると、狂った様に口先を曲げて呟くサレエレ。


(く、狂ってる。私何かしたかしら……?)


 この感じは何かに似ていた。だが、一体何に似ているかまでは辿り着く事ができずに、ルビーは意識を手放した。




「一体何があった!?」


 サレエレに担がれたルビーを見て、ケラウノが驚く。


「途中で魔物が出ました。追い払いましたが衝撃的だった様でこの女、気絶して仕舞いました」


 淡々と報告する彼女よりも、心配そうな表情でルビーを見つめるケラウノ。それがサレエレの心にそっと火を灯す。





———


 火種は、遥か昔から存在している。

 と言うよりも、慢性的な鼻炎みたいなもんだ。


 むしろ、そこがダークエルフ唯一の欠陥でもある。

 エルフ族は古くから伝えられて来た種族だ。


 それこそ、神話の時を越える昔から、原始として成り立っていたのかもしれない。

 だが、世界に生まれたからには繁栄と滅亡を繰り返す。


 そんなもんだ。

 故に俺は一度負け、再び返り咲いた。


 最初の歴史は知らんが、エルフ族も世界と同じ様に繁栄と滅亡を繰り返して来たに過ぎない。

 だが、おかしいと思わないか?


 まるで凄腕の彫刻家が作り上げた様な造形で、長い年月をかけて成人すると死ぬまでその美しさを保つ。


 繁栄と滅亡を繰り返して、悪魔である俺も含めた全生物は、その時代に適用する様に変化を続けて来た。


 だが、あいつらは何も変わらない。

 特にダークエルフ。

 古き森に住まう奴らは、同じ髪、同じ瞳、同じ肌をしている。


 悪魔と人間は大きな線引きで言うと、適応能力が高く、様々な環境に順応できる様に作られている所がほぼ似ている。


 最も、人間は頭で対応し、悪魔は自分の本質を変えて行くんだが、人間達の脳みそは俺らよりも凶悪にできてるだろう。

 故に俺は一度敗北を味わった訳だしな。


 それぞれの環境に適応した進化を遂げるのだが。


 ダークエルフ。

 俗世を捨てたあいつらは、何か別の法則の中に居るんじゃねーか。

 そう思わせる程に、まだ俺が現役だった頃から変わっていないんだ。


 そして気付いた。

 散り散りになった俺の欠片を集めて行くうちに、それぞれに分散させていた記憶と共に思い出した。


 奴らは世界と共に生きている。

 生きとし生けるもの、俺の配下だって大きなスケールで考えれば同じ事。


 だが根本が違った。

 森に生えてる木と同じ様に、奴らの魂は何者かの加護に寄って保護されていた。


 それこそ、世界と言う奴なのだろうか。

 神として君臨する様になった今でも、世界と言う物は未だに広い。


 俺は世界が欲しい。


 丁度、邪魔する奴らはみんな天界で干渉不可みたいなもんだ。今は、俺だけがこの世界で肉体を得ている。


 死んでも生き返る身体でな。


 魂ごとバラバラにされる前に、俺は一つの火種を発見していた。

 世界の危機にまるでこの世界から派遣された戦士達の様だったエルフ共。


 彼等の王は、その戦いで憎い英雄共に加護と力を貸した。

 そして共闘した。


 それが僅かなズレを生んだ。

 共闘が、人間の文化の流入を許した。


 ゴキブリよりもしつこい。もはや病魔の類いだと行っても良い人間の流入が、完全なる種族に一つの変化をもたらしたのだ。


 それは進化ではない、退化だ。

 統一種族として不思議な力を持っていたエルフは分裂。


 白いのエルフと黒いエルフ。

 それぞれ違う特色がある。


 白いエルフは、人と共に歩む事を決意した。

 女神となったアウロラの導き手となり、人間の救う大陸へと向かった。


 その結果、ほとんど無限に等しい命を失った。

 だが、ある種世の中のサイクルの中に溶け込む事で精霊の力を得た。


 黒いエルフ。

 分裂から狂い始めたのかもしれない。


 コイツらは何もかも中途半端だ。

 二つで一つだった物が一つなくなって、世界と言う物に森を通じて干渉できて寿命は長いがそれだけだ。

 根本的なエルフの性質は残している物の、獣人共と通じなければ生きて行けない。


 根暗で、卑屈で、高慢で。

 ティラスティオールの居る森に封印されていた俺の一部が自活し、僅かながら長い年月を賭して浸食しと情報収集を行った。




 そして火種は今もまさに燻っているのを確認した。


「森なんて焼き払っちまえば、良いだろぉ〜?」


 いや、そんな物よりももっといい方法がある。

 焼くならそっちだ。


「なんだぁ〜?」


 話の続きだが。

 ダークエルフの王は、女神アウロラに恋い焦がれている。


 長い寿命の中で今もなお、その思いは俺の邪の浸食で膨れ上がり、火種と貸している。

 要するに恋い焦がれて、完全に近いが故に、それもまた完全に近い気持ちとして、長く心の中に蠢いている。


 人と共に生きる白いエルフなら、対処する方法を知っている。

 だが、ダークエルフは違う。


 嫉妬の火種が、もう燃え移りそうな段階まで来ているだろう。

 行っただろ、不思議な力で魂が繋がっていると。


 恐らく無限に這った森の根の様なコミュニティーを元々は有していたんだろう。分裂と共に森の力に頼らざるを得なくなったが。


「ハッ! あれか、兄弟に女取られて引き蘢っちまったみてぇだな! 想像するだけで笑いがとまらねぇ!」


 一応、まだ世界の危機は続いている。

 奴らが物語の中に出て来るのは既に既定路線だったんだわ。


「まだ終わってねぇんだな……」


 どうした?


「いや、俺もダークエルフと一緒なんだぜぇ。……ククク」


 お前も立派な火種を持ってるよ。

 いや、既にとんでもない勢いで燃え出している。

 その髪と瞳の色と同じ様にな。


 ……あいつの事だろう?


「ああ」


 ……終わってない。

 終わってないからこそ、必ず再び対峙するだろう。


 俺はわかる。時代、背景は違えど。

 再び戦う運命にある者。


「精々苦労してもがけよ。てめぇは向こうの世界でも追いつめてやるからよぉっ!」


 良いぞ。

 その心に宿った憎しみの炎は、お前に絶大な力をもたらす。


 この世に愛なんぞ無い。

 あるのは憎しみの連鎖だけだ。


 それを振り解くには、どちらか一方を消すしか無い。

 先ずはダークエルフの森に火を放て。


「あんなでけぇ森が燃えたらさぞ豪快なキャンプファイヤーになるんだろうなぁ?」


 いや、俺が全力を出しても十分の一も燃やせなかった。

 憎たらしい加護があるからな。


 燃やすのは森じゃない。

 森を通して力を得ている奴らの魂だよ。


「ふっひひ! じゃー都合がいい。丁度出来の良い妹から連絡が入ったんだよ。ほら、俺の記憶を覗け。——平和な奴らだろ?」


 こ、これは便利だな。

 一体いつになったら我らの文明の水準がここまで上がるのか。


 全く持ってぶっ壊しがいのある世界だ。







 気付いたら1ヶ月以上たってた。

 こわ。仕事の鬼でした。以上。





 捕捉ですが、

 魔王サタン=邪神ではありません、


 が、邪神は邪神なのです。

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