南魔大陸の大冒険-8-
「またまた木を倒すよ〜! 親方!」
「よしきた!」
お馴染みの戦法が巻き起こる。
巨木が倒れ地面を揺るがす。
「グルルルルル!!」
「オラオラ魔力の使い方がなってねぇぞ!」
音と混乱に乗じて、一体、また一体とティラスティオールを駆逐していく。絶望的かに思えた状況だったが、ゴーギャンとリューシーそしてTKGの面々が来た事に寄ってその運命は大きく此方へ傾いた。
形勢は既に逆転していて、今度はティラスティオールが逃げる立ち位置に置き換わっていた。エヴァンとリューシーの咆哮で、戦意を喪失した彼等は、ひとりひとりと背を向けて遁走していく。
「なんとか助かった!!」
狼化を解いたバンドが、ぺたりと座り込みながら息をついた。同じ様にリューシーも獅子化を解いて、この間の様な鎧を身に着けた金髪美人へと姿を変える。
「一体どうしてここに?」
魔力を引っ込めて元の筋肉質なリトルビットに戻ったゴーギャンに尋ねる。
「お前がなかなか来ないから情報を探ってたんだよ。そしたら、コイツらが高速竜車道路ではぐれた事を知っていたみたいでな。獣人族総出で探しまわったんだよ」
「この森の動物達に尋ねても、何の情報も得られなかったから、最後の手段として、ティラスティオールを封じている森を探る事にしたのよ」
ゴーギャンを補足するリューシー。
なるほど、多大なる迷惑をおかけしていたのか。
たまたま運良く、この森へ入る隠れ口付近に追いつめられたからこそ、ゴーギャン達の到着が間に合ったそうだ。
「ってか……なんで戦わないんだよ」
まっとうな疑問を抱くゴーギャン。
「回復職だから戦闘は苦手じゃないのか?」
「うんうん、この間の迷宮でも最強の後方支援だったよね!」
TKGが、ゴーギャンの問いに答える。
だがしかし、ゴーギャンは知っている。
「ナマ言ってんじゃねーよ。コイツは前衛特化の化物だぞ、それもガチンコの殴り合いで俺に勝てるくらいのな。現職法王さんよ」
ゴーギャンの俺を睨む眼孔が鋭くなる。それは、この状況で何もしなかった俺への怒りもあり、何よりも自分に打ち勝った人物が一体何をしているのかという彼のプライドを刺激した怒りだろう。
俺は何も言い返せない。
TKG達は何か言いたげな表情をしていたが、ゴーギャンの雰囲気にのまれてしまっていた。
「ゴーギャン。こんな所で怒りをまき散らさないの。幾ら荒んだ森だとしても、木々が怯えている様に思えるわよ。一端オールツリーに戻りましょうか」
溜息を尽きながらリューシーが場をなだめる。
流石ゴーギャンの嫁。助かった。
「確り話してもらうわよ」
「……」
「返事は?」
「はい」
リューシーの背後に、猛然と佇む獅子が見えた気がした。恐ろしい。
こんな物騒な森で再武装してきたティラスティオール達を相手にするのも厄介なので、一先ず隠れ道を通って森を抜け出して、俺達は彼女の案内に従って統べる大樹へと向かう事にした。
木々を登って、巨大な葉の上に出来た見えない道を進む。道以外の葉に乗ると、遥か下の地面へと叩き付けられてしまう。それが見えない道と呼ばれる隠れ道である。森の管理自体はダークエルフに一任してあるそうだが、獣人の王族には森を統べる責務があるとし、こういう様々な場所へ繋がる隠された道が伝えられているのである。
誰がこの森を統べるのか、正直言ってよくわからん。
森の声を聞く種族ダークエルフなのか、それとも南魔大陸全土に影響力を持つ獣人族なのか。
一般的な世論からすれば、獣人族に意見は傾くと思うが、絶対ダークエルフからすれば癪だろうな。あの高慢な奴らだ。
だが、一番心配なのはルビーの事である。
彼女は今何処で何をしているのだろうか。
「おい、悠長に物思いしてる暇はないぞ。ホラ野郎」
自然国ナチュラヴィアの統べる大樹のとあ飲食店で、ゴーギャンの一々刺のある物言いに、俺は困った顔をする。別に不満を持っている訳ではないが、今ここでその話をぶり返す必要性は何処にある?
「あ? 本気で言ってんのか。現職法王。自分は法王じゃないとでも?」
「休暇中だ。ここへ来たのは法王としてじゃない、一人の観光客だ」
ゴーギャンにはとんでもない屁理屈を言っている様に聞こえているようだ。この押し問答はそこそこ長い時間続いており、皆そろそろ疲れた様な顔つきになって来ていた。
「ねぇねぇ。一体なんなのさ? 法王? 神父じゃないの?」
「ハッ、おまけに巻込んだ相手には何も告げずってか?」
煮卵の疑問に対して、ゴーギャンが唾を吐きかけて来る。
「もうゴーギャン。良いじゃないの。みんな助かった訳だし」
「ダメだ、俺は許せねぇ。俺に勝った男がこんな軟弱者だなんて俺が許せねぇんだよ」
リューシーもたじたじだ。
「ならバラしてやる。いいか、この猫被ってる白髪野郎はな。女神聖祭の優勝者で、聖王国を治める法王様なんだ。後あれか、ギルド福音の女神のギルドマスターで、不死身のゴッドファーザーと呼ばれていて、俺とガチの殴り合いにも勝ちやがって、殺しても殺しきれねぇ化物だぞ」
ばらばらと俺の個人情報を曝け出したみたいだが、支離滅裂になっていたし後半はスケールがデカ過ぎて良く伝わらなかった。
「全部白髪じゃない。あと殺されたら死ぬ」
「しゃらくせー!」
彼の体格の割に大きい手が俺の顔を鷲掴みする。そしてあの時の右腕の様に一瞬で握りつぶした。回りの人達が、いきなり起こった目の前の惨劇に身を構える。恐らく、脳髄をまき散らしながら死んだと思われただろうが。
俺はすでに死を克服している。
それは死に戻りとかそんなんではなく、例え避ける事が出来ない運命の死線があったとしても、核に厳重に守られた精神が残っていれば、身体を再構成できるのである。
何たって、マインドオンリーだからな。
どうも、幽霊さんです。
と、恍けてみても、回りからの視線は一様に何が起こったのか判らないと言った風だった。
「ほらな。不死身だろ?」
「馬鹿じゃないの!? 普通の人に向かって絶対やっちゃダメだからね!」
背中を叩くリューシーを放っておいて、ゴーギャンは回りに「な?」と確認をとる。
「いきなり何をする」
「俺はお前がナメプしてるのが気にくわねーんだ。一体何を考えてるんだ」
「何も考えてねーよ。強いて言えば、魔大陸全土を観光する為だ。迷宮に入ったのだって観光資金と足を得る為であって他に何も無い。頼むからもう解放してくれ。ナチュラヴィアを観光したらこっそり帰るからさ」
それだけを言い切ると、ゴーギャンは口を噤んだ。口の端がぴくぴくと動いている事から何か言いたげな事がありそうだったが、本人が観光だと断言した以上、彼も何も言えないのだった。
「おいクボ、俺からも一言いわせてもらってもいいか?」
観光客が利用する木の上に作られた静かなレストランの中で、バンドが立ち上がって俺の目の前に立つ。
「大馬鹿野郎!」
そう言って俺の頬を思いっきり殴る。成人した獣人族の腕力は、人種を大きく超える力を持つ。特に草食動物でない肉食動物由来のバンドの拳は、俺を容易く吹っ飛ばした。
まさか殴られるとは思ってなかった俺も、ノーガードで横跳びし、テーブルを壊しながら壁に突っ込む。店内で悲鳴が上がる。
「力が在るのになんでッ……!!!」
これにはゴーギャンも驚いていた。
以前、バンドの拳は震えており、言葉を発しようとしているが、自分の中で纏める事が出来ないのか、そのまま飲み込んで着席した。
「……そういえば、嬢ちゃんは?」
温玉が思い出した様に尋ねる。
「連れてかれたよ。ダークエルフにな」
エヴァンが大量の焼かれた肉を食べながら答える。それに付け足す様にバンドも答えた。
「確か、不思議な力があるんだって? それでダークエルフに協力する代わりに、投獄された俺達三人を助けてくれたんだ。ま、逃がされた場所は薄暗闇の森だったけどな」
バンドの一言にゴーギャンが「ほらな?」と言った。
「てめぇも判ってるだろ。もう、今更何をやっても遅いんだよ。休暇だ何だ、法王としての立場だなんだ言ってるけどな。結果的にお前は何かに巻込まれて、そして何の罪も無い奴らを巻込んで進んでる事を知った方が良い。これは偶然とかそんなちゃちなもんじゃねぇ。ってかお前自身も判ってるだろ。まだ終わってないって事がよ」
まだ終わってない。その一言が俺の胸に突き刺さる。
「……終わってなくても過ぎてしまった事はどうしようもないだろ」
「あ?」
「あの時、俺は誰の為に戦ってた? 誰の為でもなかっただろ!」
思わず声を荒げてしまった。
気付いた時にはもう遅かったのだ。
いったいいつから誰の盤上で踊っていたかすら判らない。だが、気付いた時にはエリック神父の用意した盤上で俺は踊っているのだと、真の敵を見つけた、だが更に前から用意された敵の手のひらで俺はもがいて居たとでも言うのか。
「結果、勝ちか負けか判らない中途半端な結果になった!!」
一番最悪だった。
今までやって来た事が全て、まっさらになるくらい。
「魔王サタンを退けた英雄? 人類を守った法王? ——欲しくねーよそんなもん……」
ただ、自分の目の前でもう二度と残酷な事が怒ってほしくなかった。ジュードの事は何も知らないし、そこまで感情移入する必要も無いという言葉もあった。
「俺が一番気に食わねーんだよ。俺の事が」
何一つ終える事が出来なかった俺の事が、一番いけ好かない。
邪神教は復活してしまった。そして、迷宮が世界各地に出没して、魔物の出現率も上がっている。
でも、世界はそこまで大きく変わっていない。
色んな人々が、対策を取って順応して行く。
「それがまた、情けないんだよ……。もう放っといてくれよ。俺がどんな立場でも、何も変わらない」
俯く俺に、ゴーギャンは冷たく言う。
「逃げんな。てめーで汚したケツくらいテメーでふけ」
俺は唇を噛み締めると、そのまま天門を顕現させ飛び込んだ。
天門から出た先は、真っ暗。
光さえ届かない闇の潮流の中だった。
行き先なんて指定してない。
ただ、何処か人の手が届かない場所で消えてしまいたかった。
そのまま俺は意識を失う様に、強制的にセーフティーモードへと移行した。
クボヤマ攻められ回。
ナメプのし過ぎにより、色んな人から怒られます。笑
色々と方向性に悩みましたが、とりあえず終着点は一つ決まったので。
それに向かって一先ず話を進める事にします。
伏線回収というか、今まで出て来てなんだったのアレ……って奴がこれから思い出した様に使われ出しますので、覚悟しておいてください笑
予想もつきやすいかと。




