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南魔大陸の大冒険-5-

5300文字くらいあります。長めです。


 狼の遠吠えが木霊する。そしてティラスティオールの三体は、音へと顔を向けた。彼等の目には疾風の様に闇夜を走る銀の風に見えただろう。夜行性かつ、獣人族としての俊敏性を備えるバンドを捉える事は、強大な膂力を持つとしても不可能である。


「——さっきの飯が戻って来たぞ! 捕まえろぉっ!」


 独特の声帯から発せられる変に間延びした様な声で、一体のティラスティオールが叫んだ。それに呼応する様に他の二体も剣や斧をそれぞれ片手に持ち、銀狼を捉えに動き出した。


 バンドはもう一度吼えた。それは、囚われてしまったクボヤマ達からティラスティオールの意識を背ける為か。いや、自分を鼓舞する為である。


 例え、ポテンシャルで素早さで相手を上回っていようとも、それを最大限に発揮できなければ、一瞬で掴まって、その力で身体を引き裂かれていただろう。仲間を助けるための勇気が彼を突き動かすのである。


「——すばしっこいやつだ!」


 振り下ろされる剣と斧。つかみかかって来るその巨大な手をくぐり抜けて、バンドは煮立つ音を立て始めた大鍋に向かって全速力で体当たりした。


「——飯がぁ!」


 バランスを崩し、倒れ零れて行く大鍋。それに絶望の表情をするティラスティオール達。幸い、大鍋外縁の直接火に触れていた箇所は、自分の体毛のお陰で固く守られていた。大鍋が倒れる際に少し尻尾が炙られ焦げ付いたが、そんな物見頃した後の虚しさを考えれば勲章物だ。


「うおっ! バンド! 助けに来てくれたのか!」

「私信じてたのよ!!」

「ガボッ…ゴホッゴホッ!!」


 クボヤマとルビーが全裸で喜んでいた。一体鍋の中で何をしていたんだと疑いたくなるが、今はそんな冗談を思っているよりも、この状況を打開しなくてはならない。獣化を素早く解くと、腰に付けていた護身用のナイフ(兼調理用)で彼等の縄を解いてやる。


「さぁ、服を着るのは後だ。出来るだけ草で身を切らない場所を選んで進む。早い所ズラがるべきだ!」


 バンドは勇気を秘めた爛々とした瞳をクボヤマに向け、そして手を握りしめて立たせる。後ろを振り返れば、凶悪なティラスティオール達が迫って居た。







 まさにギリギリだったという所だ。身体も、精神も。狼の遠吠えが響いたと思ったらティラスティオール達の声が聞こえた。銀狼という言葉を耳にして、俺はバンドが戻って来てくれたのを確信した。


 そしてけたたましい足音が遠吠えの方に向けて走り出した。だが四足歩行特有の足音はそれを寄せ付けず、気付いた時には衝撃音と共に大鍋が大きく傾き、中のスープ毎俺達を解放するのである。


 その衝撃で、エヴァンが目覚めた。流される直前、かなりのスープを飲んでいたのだが、大丈夫なのだろうか。事実は、伝えないでおこう。


「うおっ! なんで服来てないんだ?」

「説明は後だ。とにかく走るぞ!」


 荷物は幸い、ティラスティオール達によって隅の方に纏められていた。ただ乱雑に放り投げただけだと思うが、この時ばかりは人らしく物を整理整頓してくれる頭が彼等にあった事に感謝した。


 事態を読み取ったのか。エヴァンもブラブラと己のデカブツを揺らしながら全力疾走する。ルビーだって同じ事だ。せめてパンツくらい身につける時間が稼げれば良かったのだが、もう一度掴まったら脱出する手立ては無い。


 俺らから出汁を取るなんてまどろっこしい事は考えずに、即火あぶりの刑が待っているだろう。幸い、バンドの勇気によって再び活路が見えた。大体戦闘を行う人員が少なすぎるのが第一の問題点である。


「俺は回復職だぞまったく! エヴァン、しんがり頼めるか?」

「任せろ。幼竜咆哮!」


 魔力を高めたエヴァンの一撃が、炸裂する。それはあの破壊光線には及ばないが、この緊急時を脱出するくらいの時間は稼げたと思う。


「——竜の咆哮だ!」

「——火が来るぞ!」

「——備えろ!」


 ただ衝撃をとばすだけの幼竜の駄々っ子に、すっかり騙されてしまったティラスティオール達である。そしてその隙に便乗して、これ以上ルビーに不運を巻き起こされたくないため、抱きかかえて遁走する。


 南魔大陸の樹海。大森林のまっただ中そして今は真夜中の何時頃だろうか。人族三人は全裸の逃避行として己の記憶に黒歴史を刻むのである。




 とにかくバンドの先導に寄って走り続けた俺達は、もうここが何処だか判らないまま走り続けていた。方角すら判らない。統べる大樹へと近づいているのか、遠のいているのか。


 服を着用し、改めて荷物の確認をする。幸いほぼ全ての私物が戻って来た。ルビーは今後を省みてパンツスタイルを取る。個人的に可愛くないだのスカートが良いだの言っていたが、お前それ大自然の中でも言えんの?


「葉の形が、若干変わってる」


 そこらへんに沢山生えている木を背もたれにして息を整えていたエヴァンが、木から伸びるしだを見ながら呟いた。


「ダークエルフの治める森に入り込んじまったかも」


 そんなエヴァンに向かって、バンドがばつが悪そうに言葉を返す。


「いや、助けられた身で贅沢言わないよ」

「そう言ってくれると報われるぜ」


 とにかく、今更引き返すなんて出来ない。どちらに引き返せば良いかなんてもう既に判らないし、そもそも後方で木々をなぎ倒しながら怒声を発するティラスティオール達の所まで再び戻るなんて愚かな真似はする筈無い。


「前に進むしかないんだな」

「そうなる。このまま夜中にダークエルフの森を抜ける事は不可能だ、奴らは必ず何処かで見張っているし、ひとたび自然を犯す様な事が起きれば、彼等はやじりを俺達に向ける」

「大丈夫なのか?」

「交渉は俺に任せてくれ。とにかく、大森林で生きてるダークエルフは普通のエルフと違って自然を侵す人族と魔族にあまり良い印象を持っていない。もしかち合ったら出来るだけ黙って後を付いて来てほしい」


 さぁ、追いつかれない内に早く行こう。とバンドが先陣を切って、僅かばかりの休息を取った俺達は再び進み始める。夜を通して歩く事になるなんて誰が予想出来た。最初の頃、夜営は鍛錬の日々だったので、こうして強行する旅というのも些か嫌いじゃないぞ。


 だが、闇は心を不安にさせる。

 夜明けが恋しいのはみんな一緒だろう。




「頭がくらくらして来た……」

「俺もだ……腹が減った。これ、海老か?」


 しばらく歩いていると、エヴァンとバンドはフラフラとした足取りとなり、目はもうろうとして、真っ直ぐ歩けなくなっていた。エヴァンなんか、一体何の幻覚を見ているのだろうか、芋虫を頬張っている。


「ねぇ、一体どうしたのかしら?」


 袖を引っ張りながらルビーが彼等の異変を訴えて来る。彼等の様子がいつの間にかおかしくなっている事、ルビーに言われて初めて気がつく。


「判らん。いつからこうなった?」


 いつから彼等はフラフラと真っ直ぐ歩けない程、ダメージを負った?

 毒か?

 いや、毒を受けた形跡はない筈。

 鼻が利くバンドが、わざわざ毒草の茂る場所を歩く筈も無い。


「そもそも……何処に向かって、歩いているんだ?」

「え?」


 急な俺の問いかけに、ルビーではなくバンドが答える。


「遥か彼方! 広大な草原と広大な密林によって作られた俺達の楽園ホッドシークさ! いや、それは遠い神話の話で……今はもう……」


 ホッドシークという言葉が、俺の頭の片隅に残るって居る。

 何だったかな、何処かで聞いた事のある、重要なワードだった気もする。

 思い出せない。


 あれ?

 今、何処に向かってたんだっけ?


 惑わされるな。

 休暇だ。今は休暇中だろ。


 何処にも向かってない。俺は中央聖都のギルドホームで、優雅に友人達とお茶をして、ケンとミキが記念すべき俺の復帰記念に珍しい料理を作ってくれて、そしてそれに舌鼓を打ちながら、今後のギルドの方針に付いてセバスチャンと……


 ……あれ。

 セバスチャンって誰。

 ケン、ミキ?


 ギルド?

 中央聖都……女神聖祭か……


 …ジュード、の事を俺は、知らなかった

 そして死んだ


 何故死んだ?

 殺したからか?


 俺は殺してない!!!!!

 俺じゃない!!


 いや、俺が殺した様なもんか……







「クロス! クレアちゃんが危ないの!」


 クレアとクボヤマが、プライベートエリアに寝かされる。いつもとは違い、少し薄暗くなった空間で、実害の無かったフォルトゥナとクロスが必死に二人を治療していた。


「落ち着いてフォル、運命で抗えませんか?」

「ダメなの、核の中枢まで……惑わしの呪いがしみ込みそうなの! 辛うじて遅らせているけど、これじゃクレアちゃんとクボの精神汚染が止まらないの!」


 フォルトゥナは半泣きになりながらも、運命の女神の力を使って、必死に落ち行く精神を救おうと、悲惨な運命の歪めようと善処する。だが、惑わしの呪いと言われるダークエルフの森林地区を守る巨大な結界魔法は、人の作った聖王国にある法定聖圏セントリーガルを遥かに超える力を持っていた。


 惑わしの呪いの力は系譜を繋いで来たダークエルフ達の念が蓄積されている。自然を愛する獣人には降り注がない呪いも、不幸な事に人族と行動を共にしていた狼人種のバンドにも余波として振りそそいでいる。


「半神化しかかっても、まだ貴方は人の域にいますか……」


 クロスがぽつりと呟いた。


「普段ならば聖人へと段階を踏んでからの進化なの。でも、これ以上無理して先に進めても、身体が持たないの。それこそクボが言う絶対的ペナルティに引っ掛かるの、無粋は止めてよね」


 キッと睨んだフォルに、クロスはすぐ謝罪の言葉を述べた。彼女達の中でも既に序列は出来ているのだろうか。だが、彼女達の計画の中で、色々と事を先に進めるのは確定事項な様で「その時が来たら、その時なの」というクロスの言葉でこの話は締められる。


「運命の祝福を……貴方と、貴方が愛する方々へ」


 未だ新神としての格しか持たぬ運命の女神は、その細く綺麗な両手を握りしめ、ただひたすら祈るのみなのである。親愛なる彼の隣に居る、魔法の根源たる存在。彼女の運命を信じて……。







「クボ! クボ!」


 目を開けた。眼前には膝立ち状態の俺の顔を両手で掴み心配そうに声をかけるルビーの存在が居た。魔素恒常か、そして精神汚染か。思考回路が一瞬で鮮明化する。汚濁された精神力が、息を吹き返し素早くフォルトゥナ達から情報を貰い把握する。


「どうやら、祈りは届いたようだ」


 懐かしいセリフを口走りながら、俺は立ち上がった。いつまで膝立ちで立ちすくんで居たかなんて覚えていない。


 この森は呪われている。

 ダークエルフの施した呪いだとフォルから聞いた。だが、俺達には魔素恒常が居る。さぁ、彼女が真価を発揮する時だ。


「この森は呪われているが、ルビー。お前の力なら彼等の精神汚染を解く事が出来る。進行は俺が遅らせるから、頼む」


 顔に触れているだけで良い。それだけで呪いの魔力が中和され、魔素となって還って行く。どうやら運命は珍しく彼女に味方したみたいだな。散々不幸にあった分、廻って来る幸運は途方も無い代物であったりする。


「は!? ここは何処だ!? 今何時だ!?」

「ウゲェッ!! 不味い! ペッペッペ」


 無事に復活したエヴァンとバンド。

 後遺症はあまり見られなかった。


「無事旅の仲間復帰の記念パーティでもしたい所だが……そうもいかないみたいだな」


 俺は素直に手を挙げてため息をついた。状況が理解出来ていないエヴァン、バンド、ルビーが揃って声を上げたが、後ろから急に突きつけられた鏃やナイフの存在を感じ取って、俺と同じ様に手を挙げた。


「シンスィツ ヴァ セレプティコゥシ ズィズ ァス ケンロゥ」

「は?」


 なんで言葉違うんだよ。プレイしてて初めての言語が違う種族にであった事で、俺の脳内は一瞬パニックだよ。そして、意外な人物が、口を開いた。


「戸惑う…森? …の、養分…命…得る」

「すごいな。見直したぞルビー」


 珍しく俺が褒めた事で気を良くし、その撓わな胸を大きく張った彼女だが、その動きが敵には邪悪な物に移ったのだろうか。すぐさま褐色の腕にある弓が、標的を代える。ルビーは、胸に向けられた矢に怯えて収縮する。


 依然として返答する事が出来ない俺達に業を煮やし、矢をつがえた弓を引いたダークエルフ。


「まて、下がれ。まだ射るな」


 だが放たれる前に制する声がした。

 これは聞き取れる。


「迷って森の養分になるかと思えば、良く生き残った物だ。おまけに我らの領域への道もこじ開けられている」


 顔の容姿はエルフ化したエリーに似ている。だが肌は褐色で、綺麗な銀の長い髪を後ろで束ねたイケメンが、俺達の前へと進み出た。蔑む様な目で、顔をジロジロと見つめている。


「銀狼の……何故お前ら一族が人族と共に居る」

「仲間だからだよ」

「一緒に縛っておけ」


 バンドは獣人でありながら俺達と共にする道を選んだ。

 本当にすまん。


「……お前か、特殊な体質をしてるみたいだな。魔力を打ち消すのか?」


 真っ赤な髪の毛と瞳を興味深げに触りながら眺めつつ、「おーもるふぉす…」とよくわからない事を小声で呟くダークエルフ。


「この女、お前の所有物か?」

「違う……仲間だ」

「そうか、王の元へ連行しろ! イルフクォ バラ スィルシン!」


 俺達は、褐色のエルフ集団に縛られ森の奥深くへと連れて行かれた。






 バンド回からの、色々展開が目紛しく変わる回でした。


 っぽさを出してるだけで、文法とかを確り考えてる訳じゃないので、単語の意味を詳しく調べても特に意味ないので聞き流してください。ただ、最近ある程度は一貫性を持たせようと努力はしていますの…。


 駄文、失礼しました。


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