表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/168

無秩序区の迷宮、深層

(どれだけ落ちた? まぁ、ベヒモスの体内に比べたらマシだな)


 そんな事を考えながら、俺は二人を両手にぶら下げながら、翼を羽ばたかせて地に足をつけた。落ちて行く最中、トーチは燃え尽きてしまったが、翼状にしたクロスを明かり代わりしている。


 純白の翼が闇の中に溶け込むのを阻止している。

 人って明かりが無いと狂うらしいな。


「もう泣き止めよ。ほら、乾いたから」


 そう言ってシクシクと泣いているルビーに、プライベートエリアにて乾かしていたパンティを取り出して返す。彼女は無言で受け取ると、いそいそと履いた。


 そこには羞恥心等存在しなかった。

 大分強くなったな。と親心にも似た心境を抱きながら、俺は再び十字架状にしたクロスを浮かせながら歩き始めた。


「なんでこんな目に……なんで、なんで」


 トボトボと歩くルビーを右手で引っ張り、左手には顔中から血を流し白目を剥いたエヴァンを引きずりながら先を目指す。


 俺は保護者かよ。

 そのまま一本道を進んで行く。


「鼻が曲がりそう」


 顔をしかめたルビーが俺に訴える。確かに、通路の上には天井が見えない穴がいくつも存在していて、白骨化した死体の他にも真新しい肉片が辺りに散らばっている。


 トラップに引っ掛かったハンターの末路。この高さから落下すると、幾ら鍛えられた身体を持っていても、人間は人たまりも無い。現に、どれ一つとしてパーツが完璧に揃った骸骨が存在しないのである。


「帰り道が見つからない以上、先に進むしかない」

「そりゃそうだが地上まで戻るにはどれくらいかかるんだ……腹減ったぞ」


 血を大量に失った事から、猛烈に腹がすき始めたと言い出すエヴァン。自業自得だろと思ったが、彼の体質を考えるとそれも頷ける。彼は落ちていた頭蓋骨を拾い上げると指てピンと弾いた。ちょっとした衝撃でその頭蓋骨は砕けさらさらと風化して行った。


 いくら何でもそれは食べれないだろ。

 二人で何とも言えない表情をしていると。


『———ああああああああああああ!!!』


 頭上から、幾重にも反響し騒音と化した叫び声と共に、頑丈な鎧を身につけた男達が数名、エヴァンの上に降り注いだ。


「エヴァン!!」


 鎧が拉げる音が痛々しく響く。人体が千切れる音が、潰れる音が、体内の脂肪含む血肉という血肉、そして臓物が、鎧の隙間から飛沫を上げて吹き出す。


 ハンター達の武器がバウンドしてルビーの元へ。俺は真っ先に刃となった一つの剣をギリギリで掴む。目の前で起きた惨状に、ルビーは声すら出ない状況だった。


「———ッぬあああああ!!!」


 目を光らせて、膨大な魔力を帯びたエヴァンが、全身血まみれになりながら力ずくで立ち上がった。竜の膂力、竜魔法の真価が発揮される。


 ガシャガシャと、歪んだ装備を端に打ちまけ、身体に絡み付いた腸をダンジョンゴブリン・リーダーの首を捥いだ時の様に引きちぎって行く。


「フッー! 何なんだ一体!」


 空腹のイライラを打つける様に憤慨するエヴァンである。

 転がって来た兜から覗く顔を見て俺は思う。


 このひげ面、ガドル兄弟じゃないか?

 思わぬ再開に十字をきって祈る事となった。


 竜魔法により底上げされた彼の五感が、再び降って来る者の叫び声を捉えたようで、上を振り向くと彼は俺に告げた。


「次は……助けるぞ! 流石に見ちゃ居られねぇからな! 生きてたら治療を頼む!」


 全身の血(他人の)を振り払い、彼の目は落下して来る者を捉え、落下地点にて受け止める構えをする。


 落ちて来る者は三人。


 体格の良い鎧を身に着けた男。

 修行僧の格好をした細身の男。

 身軽な格好をした小柄な男。


 誰が風魔術を使ったのか、落下の衝撃を軽減する様に下から上に風の流れが出来ている。だが先ほどの落下事故にてその威力がわかると思うが、このくらいの風じゃ毛程にもならない。


「ぬんっ!」


 降って来た質量三連攻撃をエヴァンの足の筋肉が最稼働してその衝撃を吸収する。そこに、俺が纏めて祝福と自動治癒を施す。落ちて来ると初めから判っていれば、俺は死と言う物を克服できる。


 エヴァン以外三人の身体に聖書の文字が浮き出て覆う様なエフェクトが出る。その現象に俺は首を傾げた。




「今日はキテる!」


 そう言いながら、デカいつるはしと斧を背負った体格の良い髭男がガッツポーズをとる。そのポーズに合わせてムキムキの豪腕が自己主張して、身につけた鎧の接着部がギチギチと音を立てていた。


『パーティ名:TKG』

「俺達はたまにキテるグループ。略してTKGだ」


 と修行僧の格好をして錫杖をついた細身で頬が窪んだ男が言う。メンバーは温玉、半熟、煮卵の三人で、ノーマルプレイヤーらしい。


「ホントはリアルスキン勢の仲間入りをしたいんだけどね。推奨VRギアがどこも完売みたいでさ、でもでも半リアル勢としてヘルプ機能は全消ししてるよ?」


 小柄な童顔の男が長めの髪を弄りながら言い訳する様に呟いている。あれ、何処かで見た事ある様な顔つきだな。と思ったら、ローロイズに店を構えていた魔道具屋のジンと似た顔つきだった。


 他人のそら似か、もしかしたら親戚か何かか?

 ついでに、コイツらのステータスを見てみよう。


『温玉:人種族(中欧大陸系)

 ※女神の眼差しでは閲覧不能。

 才能:斧使いの心得、鈍器使いの心得、火神の信仰、ダイナミック、闘争心、鍛冶、豪腕、歴戦の炭坑族の刺青』


『半熟:人種族(東方大陸系)

 ※女神の眼差しでは閲覧不能。

 才能:錫杖使いの心得、基礎魔術(風)、応用魔術(風)、風神の教え、拳法、法術、精神統一』


『煮卵:人種族(中欧大陸系)

 ※女神の眼差しでは閲覧不能。

 才能:盗賊の心得、調合師の心得、捕縛、アクロバット、逃げの一手、繊細な手癖』


 ノーマルプレイヤーのステータスは閲覧できなかった。そして才能が沢山あるなと思ったら、こいつらが取得している技能が、そのまま才能として表示されているようだった。


 ってかよくよく思えば、鑑定によって人の技能とかステータスとかが丸見えだったらどんなセキュリティだよ。と初めの頃を思い出す。良くも悪くも、そう言う部分での修正が加えられたのだろうか。


「ノーマルプレイヤーはステータスって見れるのか?」


 そんな疑問には、「当たり前だろ。まぁ半リアル勢は基本自動振り分けにしてるけどな」との答えが返って来る。ノーマルプレイも着実に此方側へと接近しているか。感心するな。


「ちょっと、生産系の技能があるんだったら、即席でスカートとか作れないわけ?」


 俺の後ろにコソッと隠れながら尋ねるルビーに、


「パンティ丸出しだ!」

「せ、精神統一ッ」

「じぃ〜〜〜〜」


 コイツらは三者三様の反応を見せる。煮卵はルビーの方を見ながら何かを考える様な仕草をした後に、うんうんと頷きながら清々しい笑顔でこう告げる。


「僕、調合師。スカートつくる人じゃないから無理かな」

「そ、そんなぁ!」


 愕然とするルビー。作れないとは一言も発していないので、技能が無くても作れはするのだろう。まぁ、この女はそれに気付かないだろうけどな。


 この迷宮へと入ってから。いや、彼女は魔大陸へやって来てから。いや、このゲームを始めてから。いやもっとだ。彼女の不運は、俺の知識の物差しじゃ測りきれないスケールで展開しているのではないか。


 そう感じさせる程。

 いやもうそうとしか捉えられない程に、ルビー・スカーレットの涙はどれくらい魔大陸の大地に吸われて行ったのだろう。排泄物も、込み込みで。


 汚い話になるが、人は慣れる。

 だが、慣れた所へこの仕打ち。


 この迷宮を出た時、ルビー・スカーレットの精神は、一体どれほどの強化がなされているのか考えものである。




 さらに奥へと抜けて行くと、頑丈な扉があった。確り施錠してあるようで、最悪エヴァンがぶっ壊して進むか等と恐ろしい事を宣っていた気もするが。


「助けてもらったお礼だ。ここは俺らが何とかしよう。煮卵」

「うん。今日はキテるから、絶対成功するよ」


 温玉に呼ばれた煮卵が、ウェストポーチから数本の鍵開け工具を取り出して、カチャカチャと音をたてながら鍵穴に差し込んで行く。


「……ッしゃ!」


 煮卵のガッツポーズと共に、ガチャンと言う音を立てて扉の施錠が解かれた音がした。「罠があるかもしれない、俺達が先陣を切る」と温玉の豪腕によって音を立てながら開いて行く隙間に、錫杖を突っ込んで安全を確認しながら半熟が言う。


 ああ、なんと迷宮探索らしい一言なんだ。もはや感覚が麻痺していると言った方がいい。このノータリン共と進むと溜息しか出ないからな。


 隙間から光が漏れ出して、半熟と共に入って行った煮卵の声が聞こえて来る。


「マジでキテる! やった! やったよ!」


 一体何があったのか。すぐさま後を追って扉の先へ向かうと、そこには金銀財宝が山の様に積み上げられていた。各々が雄叫びを上げ、目の色を変えて宝の山にすがりついている。


「金よ金! これは金貨よね? ね?」


 ルビーもパンティ丸出しで、山の様に積み上げられた金貨の一角へと飛び込んでいた。俺は半分呆れながらも、自分の方へと転がって来た金貨の一枚を拾い上げた。


(……共通金貨と違う?)


 いつの時代の物なのだろうか。金貨には、王冠を頭に乗せ、狼を凶悪にした様な魔獣に乗った羽を生やした男が彫られていた。


 それにしても趣味が悪い金貨だな。

 なんだか呪われてそう。


「煮卵! お前のバックパックは資材集め用に改造していたな! 持って来てるか?」

「うんうん、持って来てるよ僕。やっぱりキテる」


 そう言いながら、煮卵はウエストポーチからバックを取り出した。世界を旅する人の事をバックパッカーとよく言うが、そういう人達がよく使っている高機能を携えた大型のバックである。


 そのウエストポーチも拡張済みか。懐かしき空間拡張、出来ればそのバックを一つルビーとエヴァンに持たせてやりたいが、ルビーが魔力的な物を所持すると、魔素恒常によって付与されたエンチャントが魔素化してしまう危険がある。


 本当にこの女にはどう尽くせばいいのか。あの手この手考えてみるが、どう考えても新たなセクシー枠での雇用しか生まれない。


「ガンガンいれろ! ドンドンいれろ!」

「了解了解! 迷宮のレア資源の為にバックパックはスッカラカンなんだからね! ここにある物はほぼ入ると思うよ!」

「煮卵、温玉、強欲は身を滅ぼすぞ」


 おい、お前が今懐に入れた宝玉。

 人の事言えないだろ修行僧。


「食い物は!? 食い物は!?」

「ある訳無いでしょ! あ、私はあそこにある宝石貰うわ! 」


 お前は何を探してるんだ。

 財宝を革袋に詰めれるだけ詰めてしまったルビーは、他に詰めれる場所が無かったのか、パンティの中にしまい込むという暴挙に出ていた。そこから零れ落ちる宝石が軽い音を立て転がっている。


 今の彼女はそれに気付かない程魅了されていた。

 宝石という魔力に。


 落とした宝石に気付かないよりも、パンティ丸だしで、あまつさえその中に色々な物を入れる行為。人の欲望はとんでもない。


 ルビーの先には、一つだけ豪華な台座に飾られた真っ赤な宝石が安置されていた。台座同様、一際存在感を放つその赤い宝石からは、邪悪な魔力が宿っているのを感じる。


(クボっ! あの宝石からは邪神化した魔王と同質の力との繫がりを感じるの!)


 フォルが俺に伝えて来る。


「おいまて! それに触れるな!」


 言葉は虚しく、彼女の指先は宝石に触れた。

 邪神と同質の魔力を帯びた宝石だ。


 俺が思い出したのは、問答無用回避不可能の邪神の力『災禍ワウス』である。一度は完敗した。二度目を受けた時は、ジュードの奇跡によって助けられた。


 今、彼はいない。

 そしてこれからもずっとだ。


「なによ? こんなに綺麗じゃない?」


 宝石の感触を確かめながら振り返る。俺の心配を余所に、彼女は平気そうにしていた。一体どういう事だ。訝しげに宝石を見ると、宝石を覆っていた邪悪な魔力の存在が完全に消滅していた。


 ピシッ。

 亀裂が入り、宝石が砕け散った。


 魔素恒常の結果なのか?

 宝石に宿った邪悪な魔力は、魔素へと分解して自然に還ったのか?


「なんで砕け散るの!?」


 考える暇無く、宝石が砕けた瞬間に宝物があった部屋の明かりが全て消えた。急に訪れた闇に伴って俺達の騒ぐ声も同時に消える。


 静寂な空間が、闇と共に一気に押し寄せる。


「……なぁ、なにか音が鳴ってないか?」

「ちょっと、怖い事言わないでよ」


 五感の鋭いエヴァンが、ポツリと呟いた。

 ルビーが身を震わせた様な声を上げる。


「ちょっと待ってくれ、俺も聞いてみよう」


 ガチャッと床と装備が擦れる音がする。温玉がしゃがんで床に耳を当てて音を聞いているのだろうか。


「……確かに、聞こえる。これは———足音か?」


 温玉が呟いた。

 エヴァンには既にはっきり聞こえている様だった。


「それも、かなりの大勢だ」


 その音は、遂に俺達の耳に届く程大きくなった。

 ゴゴゴゴゴゴゴ。と音の波が、大きなうねりとなってこの部屋を揺らし始める。



 何かが、来る。






 ノーマルプレイヤー陣営登場。

 そしてこの女は今日もコない…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ