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無秩序区の迷宮、第二層

 一層目はマッピングされたデータがあったので、すぐ二層目に突入する。一層目と違う所は、浮浪者の死体等が無くなって、少し綺麗になった様に思える所だ。


 ただ、迷宮。基本的には死体、死骸のありふれた場所なのである。死体漁りに精を出すゴブリンやコボルトをエヴァンが文字通り足で蹴散らしながら、俺達は特に何の困難も無く進んで行くのである。


 二層目から、マッピングされたデータが怪しくなって来る。膨大な量から蓄積され修正を加えられて行くマッピングシステムは迷宮へ潜る人々の数が多ければ多い程、その真価を発揮する訳なのだが。


「あら? 有志が作ってる筈の拠点はどこだ? この辺の筈なんだけどな」


 エヴァンが行き止まりになった壁をペタペタと触って行く。階層毎に中央聖都でも使われている様な結界装置を仕込み、魔物の出現がある程度押さえられた拠点と言う物が作られる。


 迷宮へと潜る者にはかなり重宝するこの拠点。そうです、結界装置のメンテナンスをするのは俺達社員なのです。まぁその分報酬は貰っているので良いんだが。


「どうもこうも、行き止まりだから無いだろ」

「探求する人が少ないと、地図も正確な物が割り出せないのか。これは困った」


 そして間違った地図を描いた物が居ると、こういう事が発生するのである。社員確りしろよ。


 地図の読み方から書き方まで、徹底的に教え込まなければ迷宮攻略なんて夢のまた夢なんじゃないか。研修時間は三ヶ月でその間は試用期間としてハンター達の腕を見るべきだ。


 そうすれば私利私欲に塗れずよく働く奴隷になる。


 さて、果たしてそれがモラル的に良いのかどうかは別だ。ただし、実際はシステムこそ良い感じの仕上がりは見受けられる物の、結局の所、ランク制にしても今の迷宮攻略は人手による物量作戦みたいな物だ。人海戦術だ。


 セバス。現場で命を落としている人間を救うには、もっと考えるべき事が必要なんじゃないか?と心の中で呟いた。


 絶対に口にはしない。

 余計な飛び火を喰らいかねないからな。


「ちょっと〜〜〜! なんで無いのよ、ぁあ! また波が!」


 と尿意の波に苦しみながら、ルビーは不満を叫ぶ。


「俺からすれば二度目だ。もう何も感じないし減る物も無い」

「減るわよ!」


 叫びになってない叫びを上げるルビーを尻目に、基本的に何とかしてやろう系人間。もはや主人公的性格のエヴァンは、一度汚れた乙女の尊厳を守るべく、壁をペタペタと触って行く。


 だから無いって言ってるだろ。


「お、なんかここの石だけ押せたぞ。やっぱり拠点であってっぞ!」


 石壁のとある部分をガコガコと押すこの男。罠でもあったら大変危険なのだが、その辺は理解しているのだろうか。


 だが、俺の予想に反して彼の良い分は正しかったようだ。ゴゴゴ、と石がズレる音が響いて、目の前の壁が開いて行く。


 本当にここが拠点なのか?

 暗がりの中へ足を進めて行く。


 明かりとなるカンテラは、ルビーが持っている。俺は光らせたクロスたそを明かり代わりに、拠点に置かれている筈のカンテラを探して辺りを見回した。


 俺達が全員中に入ったのと同時に、壁が音を立てて閉まって行く。なんだかよくわからない所でハイテクだなと思いながら、俺は床に倒れているカンテラを発見する。


 それは割れていた。

 嫌な予感が頭を過る。


「ちょっと待て、なんでカンテラが割られてるんだ? 本当にここは、拠点として———」


 隣に居たエヴァンに声を掛けた瞬間。

 ビンビンビンビン、と張りつめた糸を鳴らした様な音が部屋の中に響いた。


 俺は慌ててその音の方向とエヴァンの間に身体を滑り込ませる。

 ドドドと三本の矢が俺の肩・腕・腹に突き刺さった。


「ひぇつ、う! く、ふぇぇ……くぅぅぅぅぅ〜〜〜」


 逃した矢の一本は後方に居たルビーの顔を霞めて、壁に突き刺さった。

 石壁に突き刺さるなんて、矢にしては威力が高過ぎる。


「クボ……矢がッ!? 大丈夫か!?」


 乙女のダム決壊の知らせなんて何のその、また腰が抜けて座り込んでしまったのかなんなのか知らないが、とりあえず使い物にならなくなったルビーからカンテラを奪うと、エヴァンに渡す。


「熱っ! っておい、なんかこの装置みたいなの壊れてるぞ!」

「チッ! それが結界装置じゃないか?」


 面倒くさい展開に、思わず舌打ちする。まだ二階層拠点だというのに、この展開の速さ。迷宮探索なんてそこまで重要視していなかったが、これは意外と高難易度なのかもしれない。


 邪心教め! 魔王め!


 狭い空間で俺が全力を出すと、階層事消し飛ばしてしまう可能性がある。それは避けるべきである。俺達と別口で探索を行っているハンターが居た場合を想定して考えると、聖域すら悪影響を及ぼしかねない。何より、ロマンが無い。


 故にただの回復役と成り下がった俺にとって、エヴァンという前衛はとても役に立つ便利な剣なのだ。


「矢が飛んで来る! 俺の後ろにいろ!」

「大丈夫だ。竜鱗がある! 俺にあのくらいの矢は効かない!」


 先に言えよ。

 骨折り損じゃないかくそったれ。


「先ず明かりだ。俺のクロスじゃ限界があるからな」


 エヴァンが飛んで来る矢を弾きつつ、俺は刺さった矢を抜きながら「カンテラの火をトーチになりそうな物に移せ」と言おうとした所で、この馬鹿がとんでもない行為に移る。


「明かりだな! 火だな! まかせろ! おらァッ!」


 この男は、魔物が居るであろう矢が飛んで来た方向へと、カンテラを投げやがったのだ。「ぎゃ」と声がして、ゴブリンの背を少し高くした様な人型の魔物に火が移り燃え広がる。


「この馬鹿! この後どーすんだよ!」

「すまん、咄嗟の出来事だった!」


 頭痛がしてきた。

 俺、もう階層事迷宮を消滅させても良いかな。


(フォル、支援を頼む)

(はいなの〜)


 運命の祝福を施す。

 パーティへの自動治癒も忘れない。


 火達磨になりながら転げ回る魔物のお陰で、前方の敵が映し出されていた。女神の眼差しが魔物の情報を俺に的確に教えてくれる。


『ダンジョンゴブリン

 迷宮へ迷い込んだハンター達を集団で襲うゴブリン。迷宮の力に寄って通常のゴブリンよりも強い個体の集団であり、普通のゴブリンをも襲う。ダンジョンゴブリン・リーダーが必ず存在する』


「雑魚は俺に任せて、ゴブリンリーダーを頼む!」

「判った! あのデカいのだな? ボス殺しは任せろ」


 ソロボス討伐のみでハンターランクを上げて来たエヴァンは、その経験によって一瞬でリーダー格のゴブリンを発見した。デカいから判りやすいんだけど。


 俺はクロスを車輪状態にして振るう。

 名付けて運命の車輪。ロマンがある。


 本物の運命の車輪は、フォルのカチューシャの様になっている。彼女のチャームポイントを奪う訳にも行かないので、クロスたそがフォルと共に生み出したのがこの車輪である。


 純白の車輪(自律機動)。

 さぁ、やっておしまいクロスたそ。


「運命の車輪! 敵は全て、運命の元に捩じ伏せろ」


 後は、ポーズを決めるだけなのである。まぁそんなDUOみたいなふざけた真似は流石に恥ずかしくて出来ないが、ガリガリとゴブリンを轢き殺して行く様は、さながらロードローラーを彷彿とさせる。


 そこまで大きくないんだけどな。

 あれは押しつぶすだ。轢くじゃない。


「早速だが竜魔法Ⅱだ! えっと……幼竜咆哮!」


 意外と大量に湧いているゴブリン達を蹴散らしながら、リーダーの元へ駆け抜けて行く。確か竜魔法ⅠはINT依存の身体強化で、竜魔法Ⅱから竜としての能力が使えるんだっけ。


 ギャオッ!と短く吼えたエヴァンの口には立派な牙が生えていた。身体的特徴にも影響するのか。面白い。


 幼竜の癇癪の様な鳴き声は、ダンジョンゴブリンを恐慌状態に陥れる。十戒の海の如く割れたゴブリン群。その道の先にはリーダーが居て、エヴァンはそこを駆け抜けて行く。


 拠点の壁には穴があいていて、奥には更に広いスペースがあって、ゴブリンの生活様式が形成されていた跡がある。


 なるほど、この拠点は運悪く、ダンジョンゴブリンの巣窟の隣に作られていた訳か。偶発的に大穴が空いたのか、それとも自ら掘ったのか。とにかく、この拠点は根本的にあってはならない位置に存在している。


 報告書に忘れず記載しておこう。


 エヴァンがリーダーの首をもぎ取る事によって、この戦いは終末を迎える。リーダーを失ったゴブリン達は、逃げる様に雲散霧消していった。


「追いかける?」

「面倒だからやめておこう」


 死骸処理が、何よりも面倒なのである。

 そんな事よりも、後ろからシクシクと鳴き声を上げる女。


「な、なに。ハンターの間では良くある事さ。……多分」


 と、お漏らしを目の当たりにしてしまったエヴァンは、何をどう表現したらいいのか判らないと言った顔で、無意味なフォローを入れる。フォローを入れた所でな、心の傷は消えないのさ。どうだ、生々しいだろう。とエヴァンに視線を送る。最初は同情さえ湧いたが、最早何も感じない。


「……」

「アンタも何か言いなさいよ……ぅぅぅ」


 落ちを求めた所で、この現実は変わらないんだぞ。ツーンとしたアンモニアの匂いが立ちこめる、俺は最早慰めの言葉すら掛ける事もしない。ただ、粛々と。


「……時間が解決してくれるさ」


 彼女の涙腺も決壊するのである。

 俺は悪くない。


 みんなも、迷宮探索前には必ずトイレに行こうね。















 俺の精神空間には、様々な家具と共に、宿屋で譲ってもらった桶と洗濯板が新しく常備されている。こんな事もあろうかと買っておいたのだ。


 俺の想定していた物は、再び嘔吐物塗れになる事だけだったのだが、やはりこの女。ルビー・スカーレットは、想像もつかない程俺の斜め上を行く。


 まさかお漏らしを洗濯する事になるなんてな。嫁達の中で、一番大人びているクロスたそ(俺と同じ歳くらいの雰囲気)が、甲斐甲斐しく彼女のパンティを洗って干している姿は、さながら奥さんの様だった。


 素晴らしい。素敵だ。

 じゃ、俺は迷宮探索という仕事に行って来るから、いってらっしゃいのチューを……。


「はいはい、馬鹿な事言ってないでみんな待ってるのなの!」


 後ろからぐいぐい押す様に、俺はフォルによって強制的に精神空間から追い出された。いつの間にか俺のプライベートエリアが、プライベートエリアで無くなっているだと!?


 のっぴきならない状況である。




「……ありがと」


 目覚めると、ノーパン女が恥ずかしがりながらお礼を行って来る。

 エヴァンはエロ耐性があまり無かったようで「洗濯するから寄越せ」とルビーにパンティを請求し、一瞬乙女の尊厳とこれからの実利を考えて、パンティを素直に差し出したルビーの湿ったパンティを見てから、豪快に鼻血を出して壁に頭を打ち付けている。


「煩ッ悩ッ退ッ散ッ」


 ゴッゴッゴッゴッ。

 どっちかというと、壁がへこんで来ているので意味の無い行動じゃないかと思うが、それで本人が満足しているのであれば、俺はもはや何も言うまい。


 精神空間にも、その内キッチンでも作ってやれば、俺は毎日彼女達と食卓を交える事が出来るのだろうか。いや、そもそも一体どの範囲まで設備投資が可能なんだ。


 未だよく判らん線引きを真剣に考えても始まらないので、とりあえずやってみて出来たら出来たでそれでいい。と部屋の片隅に放置されたおもちゃ箱の様に、思考の隅に放っておくのである。


 二階層は得に何も無かった。

 俺は「ピンク……シルク……ホカホカ……」を繰り返し呟く男と。

 その隣で、もじもじスカートを気にしながら歩く女を引き連れて。


 迷宮三階層へと足を進めるのである。









 クボヤマの女性への対応が、完全に妻帯者になって来ている事に、私自身驚きを隠せません。





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