女神聖祭 Battle of Crusaders -10-
そう言えば、作中でギルドの事を[GoodNews]だと呼んでいる節もありますが、GoodNewsが登録名称で、シンボルとして運命の女神が居るので、通称福音の女神と呼ばれています。
私も気付かぬ内に自然に福音の女神がギルド名だとしていたので、捕捉しておきます。
本気を出した魔王は恐ろしかった。
合理的に殺しに来ている。
初めに稲妻の応酬である。
黒雲の真下に居る俺達に向かって、容赦のない連撃。
大太鼓を連続で叩いている時に、その打面とは逆方向に耳をくっ付けて音を聞いてみると良い。稲妻の衝撃に連続する爆音さえも相乗して身に押し寄せ続けるのだ。
そして、闇の深淵である。闇の奥深くから俺達を捉えようと、無数の黒い腕が容赦なくつかみかかって来るのである。止まったらおしまいだ。
前の自分だったら空中機動がゼロだったので人たまりも無かっただろう。稲妻の対策は聖域を使って逸らしてあるので大丈夫。そして黒い腕も翼と化したクロスが弾き返しているので無問題。
だが、ジュードの方はキツそうだった。空色の翼をはためかせてジグザグに飛行するが、稲妻の精度は寸分の狂いも無く直撃する。
その度に槍で弾き返すのだが、それでは動きが止まってしまい、黒い腕を払う事が間に合わずダメージを重ねている様だった。
見ていて疑問を感じる。
奇跡はどうした?
攻撃を物ともしなかった奇跡が起こっていないのはどういう事だ?
人々はまだ、俺等の味方をしている筈だぞ。
かなりチート感が漂って来る相手を前にして、これからの逆転劇に胸をときめかせる人々は大勢居る筈。そんな、これだけで絶望してもらっちゃ困るぞ。
(クボヤマさん。これが、サタンの隠された力。悪魔の証明です)
悪魔の証明?
(イエス。私もよくわからないのですが、物事の法則をねじ曲げる力だったと思います)
アレって言葉のあやみたいな感じじゃなかったっけ。
実際の悪魔の証明と言ったら、幽霊が居ない事が証明できないならば、居る。と言った屁理屈の大名称だった気がするんだが。
これが本当に能力として成り立つならば、とんでもなく厄介だぞ。
それも奇跡と同じ様にな。
だが説明がつく。辻褄が合う。
先ほどの目を疑う様な光景。
彼は腹に空いた風穴に肉を詰め込んで証拠隠滅行為をした。そしてまがい物でも良いから魔物の腕を、消滅した左腕にくっ付けた。
事実が無かった事になった訳だ。いや、事実はそこにあるんだが、彼はアリバイの様な物をでっち上げた。その結果、復活した。
いやいやいやいや。
とんでもないってば、俺もよくわかんねーし。
「特務殿!! 上だ!! あの黒雲をどうにかしてもらいたい!!」
ジュードから必死の叫び声が聞こえて来る。彼の天使化も後どれだけ持つかも判らない。このままジリ貧である限り、俺達の勝利は薄かった。
何より二人居る事を忘れ切っていた。迷宮入りしそうな勢いで、よくわからない能力に対して思考を奪われていたのだ。
頭を振って切り替える。今、安定して攻撃を繰り出せるのは誰だ?
俺だ。
「天使の助言か。うざってぇな」
ジュードへの攻撃が薄くなる。そして攻撃に切り替えた俺を標的にした波状攻撃が再び押し迫る。聖域を極大展開させ、上空の雲に近い位置まで上昇する。
ミリ単位の制御によって必中となる稲妻も、運命を操作する女神の力によってその軌道は逸らされる。聖域を無視して喰らいながら押し寄せて来る黒い腕も、クロスの攻撃性を兼ね備えた翼が防いでくれる。
俺は伴侶達の力を借りて、舞い上がり。必殺の呪文を唱えるのである。
「聖火!!!!」
そう言えば、あの黒雲が力の源の様な役割をしていた。そんな事を思い出した。そう考えると幾ら戦いを一度経験していたからと言って、全くそれを活かせていない状況が馬鹿馬鹿しかった。
聖火の特性は、燃え広がる事。
汚れを知らない純白の炎は、次から次へと黒雲を飲み込み、焼き尽くして行った。
そして空から太陽が顔を出した。
「くっ!」
初めて見せる、魔王の辛そうな表情だった。どうやら、あの雲がある種制空権を担う存在だった様で、空気中を漂うぼんやりとした邪の気配がどんどん薄れて行く。
制空権を保てなくなった魔王は、重力に逆らわずに落下して行く。そして、同時にジュードの方も天使化を保てなくなったのだろうか、翼と槍が消えて落下して行く。
マズい。
魔王は落下くらいで死ぬ事は無いだろうが、ジュードは人間だ。完全なる精神体となった訳でもなく、生身の人間である。この高所から落下すれば、骨折どころじゃない。全身の骨が砕け散るぞ。
落ち行くジュードを追って、俺も急降下する。
だが、距離がありすぎる。羽ばたいて推進力を得るも、どうしようもない程。
(糞っ、どうすれば!!!)
心の中で悪態を付いた時、運命の女神様が俺に語りかけて来る。
(クボ、天門使うの)
運命の女神様は、冷静だった。
「天門!」
俺は落下するジュードに転移し、手を確り掴んだ。
いやいや、いかんね。
最近どうも、熱くなりすぎると冷静さを失ってしまう。ってか騒動の渦中に居ながら、騒動の展開に付いて行けてない自分が居る。
気を引き締めないと行けないな。
ジュードを抱えて、余裕を持ってステージに降り立つ。戦っていた場所は、丁度ステージの真上だったようで、魔王もその上で俺達を待ち構えていた。
「やってくれるじゃねぇか」
「これで稲妻は無くなりましたね」
俺は魔王を煽る。面倒くさがりでプライドの高い魔王は、いとも簡単に引っ掛かるだろう。
「黒雲の力が無くなって俺が弱体化しても、お前等が強くなった訳じゃねぇだろ?」
「いや、強くなってますし?」
「死ね」
まったく。有無を言わさず死ねと来たか。
これだからガキは困る。
だが、注意しなくてはならない。
まだ奴は持っているのだ、奥の手を。
「運命の祝福」
「またそれか、だが、まだ攻撃してない内は運命なんて変わらないよな?」
危険を感じて、飛び退く。翼を搔い潜って来た黒い腕によって、脹ら脛の筋肉が抉られる。
攻撃を受ける直前に感じ取った悪寒。
これが、悪魔の証明か。
多分であるが、あのまま回避せず、翼による迎撃を続けていたら、搔い潜って来た黒い腕に握りつぶされていただろう。そしてデスルーラ。
「特務殿、サポートは任せて欲しい」
天使化の疲労から未だ回復できずに居るジュードが、震える足で立ちながら俺の隣に並ぶ。一応、奇跡の能力は使えるようで、身体は付いて行かないまでも、闘士だけは十字架の形に光り輝く瞳に宿っていた。
「まて……奇跡?」
そう、奇跡だ。
例えば、魔法が無い事を証明できないから、有る。と屁理屈を言われたとしてもだ。もし奇跡的にそれの証明が出来てしまった場合。
どうなる?
ん? どうなるんだ?
あれ?
とにかく、勝訴できてしまうんじゃないか?
俺は、無い頭を絞り出して結論に導く。
多分、似た様な対極に位置する属性が打つかり合って、打ち消し合うであろうと。
屁理屈に対して、暴論で、奇跡を起こす。
よしこれでもう怖くないな。
「ジュードさん。私の奇跡を、祈ってください」
「了解した。任されよう」
これによって、魔王によって限りなくバッドエンドに近づけられていた俺の運命改変は、奇跡の力により相殺される事を祈ろう。
「もう良いか? 面倒くさいからこれで終わりにするぞ———災禍」
闇の深淵、悪魔の証明、そしてもう一つ。邪神の力をそのまま体現したと言っても良い。災禍。一度喰らったので判る。これは、ありとあらゆる天災を一つに纏めて、尚且つそれが過ぎ去った状態へと強制的に変質させる力だ。
石であれば風化した様に朽ち果てる。それと同じ様に、以前の俺も塵となって消滅させられた。そして避けるのは絶対不可能である故に、どうしようもない必殺技であるのだが。
今回は違う。
「…………は?」
ビンゴ。俺は立っている。災禍を確りを受けてな。
厳密に言えば、一度殺されて最復活した状態。
塵になった瞬間、運命の祝福によって復活し身体を再構築したのである。よく使う手段だ。悪魔の証明で運命改変が無効化されていた今までは、そのままログインポイントへと強制送還されていたが、ジュードの奇跡によって相殺する事に成功した様だった。
魔王は、目の前で起こった出来事が理解できないのか、口と目を見開いたまま固まっている様だった。それもその筈。残りひと欠片までたどり着いた邪神の力を使っても、俺を倒しきれなかったんだからな。
ここへ来て、勝利の女神は俺に完全に微笑んでいる。
さっさと片付けてしまおう。さらばだ魔王。
「邪神教諸共、全て浄化し尽くして上げます。聖火」
純白の炎が、魔王の足下から火の粉を上げる。魔王はハッと正気に戻って飛び退いても、燃え広がる火の粉は衰える事を知らない。
「クソッ!!! 何だこれッ!!! 消えろ!! 消えろよ!! 消えない事を証明できるなら———」
「否、奇跡は起こりうる!」
悪魔の証明の力を用いて、聖火を打ち消そうと躍起になる魔王だったが、それに気付いたジュードが、力を相殺する。
この展開に観客も付いて行けていない様だった。静まった中で、魔王の叫び声だけが響く。そして魔王は燃えながら倒れ込むと、笑い出した。
「プククク……ハッハッハッハ!!! 笑えて来るぜ。てめぇ等は今にも俺が死にそうになってるって思ってるんだろうな? 俺は魔王だぞ?」
魔王は大きく息を吸うと、鼓膜が破れそうな勢いで大声を発した。
「俺は!!!! 魔王だぞ!!!!!!」
思わず耳を塞いで顔を顰める。細くなった視界の端に、何者かがステージに飛び込んでくる姿を捉えた。
その乱入者は、赤い髪をなびかせて。
彼特有の気色悪いにやけ面を含ませながら。
片手に剣を握りしめていた。
「ロッソ!?」
赤髪のロッソが、前にも増した俊敏な動きで、此方へ向かって来ていた。混乱に乗じたプレイヤーキルか? プライドをぼろぼろにした俺への復讐か。と思って迎撃態勢を取ったが、予測に反して彼は俺の一撃を回避してすり抜けた。
まるで、狙いが俺ではなく、初めから決まっていた様な動きだった。
「ジュード!?」
そう、彼はジュードを初めから狙っていたのだ。慌てて十字架形態に戻したクロスを振るう。神聖なる奔流は、ジュードを飲み込んでしまう可能性があるから。
キンッ。という硬い音がする。彼は持っていた長剣を後ろへ投げて、クロスを弾き返したのだ。そして、ジュードとロッソの影が重なる。腰に差していたナイフを素早く取り出すと、ジュードの心臓目がけて突き立てる。
(フォル! 祝福は!?)
(奇跡があるから彼には掛けれないの!)
悪態をつこうと思った時。
またしても神様は俺に味方をする。
時が止まった。
今回は悪魔の証明も奇跡も互いに相殺し合っているので、ジュードも魔王も動きを止めていた。当然ながら、ロッソもだ。
あと数センチで突き刺さりそうだったナイフも、ギリギリ寸前の所で止まっていた。良かった。
(後5秒ですからね?)
「判っている。俺は未だ本当の王格になり得ていない。魔王を見ていて理解した。だが、必ず追いつく。今はこれだけしかできないがな。ッッ無駄ァッ!!!」
DUOの右フックが止まっているロッソの顔面へとクリーンヒットする。
これだけって、超絶ファインプレーだよ!!
「……そして時は動き出す」
あれ、それってセリフ間違ってない?
そんな事はさておいてだ。
時が動き出した途端。ジュードに向かっていたロッソは、慣性の法則に逆らう様に横に吹っ飛ばされた。ジュードも、何が起きたのか判らない様に目を見開いたまま固まっている。
「ジュード! 無事か———ぁあッ!!」
近づいた瞬間。ジュードの心臓部から、剣の切先が突き出て来る。そして、確実に殺しに来ている様に、グリッと剣が回転する。
背骨やあばら骨に剣が擦れるガリッと言う音や肉を抉るグチュッと言う音が同時に聞こえ、ジュードもそれに合わせてうめき声を上げた。
誰だ!?
ロッソの脅威は無くなった筈!?
「ギャハハ!! バァカ!! 甘っちょろいんだよバァカ!」
ロッソは、影の男ミストに支えられながら立ち上がり嘲笑った。その顔は殴られた後が痛々しい程に腫れ上がっているが、彼は興奮から痛みを感じていない様だった。
そうか、影が重なったあの時。ミストがジュードの影に潜んでいたのか。歯ぎしりがなるほどに歯を噛み締める。
「カ……こ、、と……特務、私は…いいから……魔、王を」
瀕死の彼の言葉に気付かされ、魔王に目を向けた。すると、魔王は首だけになりながらもまだ生きていた。
「おい、拾え」
魔王はロッソに命令し、それに従う様に髪を掴んで持ち上げた。未だ聖火は魔王を燃やし続けている。
「うへぁ。バッチい。これ、触ったらどうなんの?」
「俺様と同じ状況になるからやめとけ」
「へいへい」
一体、どういう事だ。
いつの間にかミストは黒いオーラに包まれた塊を所持していて、そのまま魔王の口の中へと放り込んだ。そうすると、彼を焼き続けていた聖火の炎は、ゆっくりとであるが、その勢いを落とし鎮火して行った。
「魔王降臨はな、邪神の魂を生け贄に俺様を呼び出す物なんだよ」
魔王が、首だけになりながらも俺に言い放つ。
「俺様は一つ嘘をついた。邪域から出れないんだよバーカ。だから機会を待ってた訳だ。エリックがお膳立てしてくれる舞台をな!」
衝撃的な事実を目の当たりにする。
「そんな面倒くさい事を貴方が……」
「喉から手が出る程欲しい物がそこにあるんだぞ? するに決まってんだろ。ま、面倒くさがりは装っておくがな。騙しの専門の悪魔を騙そうなんて烏滸がまし過ぎるぞ人間」
くそ、展開に付いて行けない。
エリック神父の盤上で動いていたと思ったら、それより以前に、魔王と対峙した時既に、俺達は彼の盤上で愉快に踊っていたというのか。
「ま、俺をここまで追いつめた。それだけは評価してやろう。やけくそ君?」
言葉が俺の精神に重く突き刺さる。
俺は一体……。
「これで邪神の欠片も揃った事だし。邪域に戻って本格的に邪神教の活動開始ってわけだ。……あ、ついでに言っとくけど。邪神の欠片揃ったから俺は邪域から自由に出入りできるからな? まぁこの辺に元邪神教会があった時点で察しは付くよな? どれだけの脅威かちっとは自分の頭で考えろよ。おい、帰るぞ」
ぶっきらぼうに言うだけ言って、魔王はロッソに指示をする。ロッソは舌打ちしながらも言う事を聞いている様だった。首だけ魔王が作り出した黒い転移ゲートにロッソとミストの二人が共に入って行く中。
ロッソだけ、赤い髪の毛を揺らして振り返ると。
「あばよ糞神父。ここから先は完全な敵同士だ。徹底的に邪魔してやるぜ? 絶対てめぇと同じステージまで上ってやっからよ? 精々怯えて待っとけや」
ゲートが消滅する。
この時、攻撃すれば良かったのだと思う。ジュードの仇討ちとして有無を言わさず最大出力で暴れてしまえばどんなに楽だったか。
だが、俺の心は身体を縛り付けて話さなかった。
無惨な結末に、俺の心は未だに理解を示さないでいた。
会場には後味の悪い空気が残る。
結果的には魔王を退けた英雄として広く広められて、共に挑んだ奇跡の子ジュード=アラフは名誉の戦死を遂げたと言われた。
だが、俺の中では不完全燃焼であり。
どうしても自分自身が許せなかった。
また、殺された。
次はデスペナルティで復活したりなんかしない。
もう戻って来ない。
この世界の人だ。
俺はこの大会決勝戦にて、不戦勝で優勝する。
宣言通り、優勝したのである。
魔王「え?傷?そんなもん無くない?腹?穴なんて空いてねーし。腕?あるじゃん、ちょっとおやつに食べちゃったけど?」
魔王「傷? いやいや、何もして無いのに傷を負うなんて有り得なくね?」
魔王「いやほら、なら証明してよ?俺がいつどこで何時何分何秒地球が何回回った時怪我しましたかー?」
魔王「証明できないだろう? だったら傷なんて負ってねーよ! 悪魔の証明!」
魔王の体力が全快した。




