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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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2-3.ここはルーヴェンだ。本部じゃねぇ





 ランドルフがシュルツァーの体を片手で高々と持ち上げる。いつもの陽気な雰囲気はまったく存在せず、ただ冷たい視線を彼へと向けていた。


「確かにアンタらを優遇するよう指示書はもらった。実際に本部に確認も取れてる。だがな、何しても良いたぁ俺は言ってねぇんだよ」

「くっ、この……離しやがれ……!」

「おたくが本部の連中とどんだけ仲が良いのかは知らねぇし、他所の迷宮でどんだけご立派な功績を上げたのかも知らねぇ。だが、ここはルーヴェンだ。本部じゃねぇ。人ん()で好き勝手やってくれてんじゃねぇよ」


 静かな怒りが視線にこもったのが分かった。その怒りに当てられたのか、シュルツァーのみならずその場にいた全員が小さく体を震わせた。


「サーラ、コイツらが持ち込んだ素材の鑑定は?」

「えっと……ちょっと待って」


 話を振られたサーラがカウンターにいる職員に目で確認すると、その女性がうなずいてから明細を差し出した。現金は無いから、おそらくは銀行口座への振込処置にしているらしい。その日暮らしが多い探索者としては珍しい。

 ランドルフはサーラからその明細を受け取ると、シュルツァーの着てる鎧の隙間にそれを差し込んだ。


「最後の警告だ」掲げていたシュルツァーの体を、息が掛かるくらい近くまで引き寄せた。「きちっとマナーとルールは守れ。それだけだ。ガキでもできるそれすらもテメェらができねぇんなら、俺の権限でテメェら全員のライセンスを停止して本部に送り返してやる。良いな?」


 できの悪い子どもにするようシュルツァーの目を見てゆっくりと、かつハッキリと言い含めてランドルフは彼を解放した。

 床に降ろされたシュルツァーは咳き込みながらランドルフをにらんだ。けれど、逆にランドルフから威圧的ににらみ返されて竦み上がったのが傍から見ていても分かった。さすがは数々の迷宮で名を馳せた元探索者。シュルツァー程度(・・)が意気がったところで格が違うと表現されるところだろうか。


「クソッタレめ……! 上の連中にテメェの事はしっかり伝えてやるから覚えてやがれ! おい、行くぞっ!」

「ああ、しっかり頼むぞ。ちゃんとママ(・・)に泣きついて慰めてもらいな」

「っ……!」


 捨て台詞さえ軽くあしらわれてシュルツァーは悔しさのあまりすごい顔をしたけれど、どうやらそれ以上何も言い返せなかったらしく仲間たちを引き連れて、ドアを蹴破って出ていった。


「……はぁ、頭痛ぇ」


 ようやく平穏を取り戻したギルドだけれど、ランドルフの言葉どおり頭の痛い状況だというのは私も理解できる。ギルド本部とのやり取りも予想されるし、散々荒らされたこの場の後片付けもある。

 それでもランドルフは手を二度叩いて注目を集めると声を張り上げた。


「みんな、迷惑掛けてすまねぇな! アイツらの好きにはさせねぇから、またこれからもよろしく頼むぜ!」


 深々と頭を下げ、それからニッと笑ってから「ほら、後片付けすんぞ!」と促すと、職員と探索者がそれぞれ動き出す。倒れた椅子やテーブルを起こし、散らばった書類を拾い集め、さすがに割れたガラスはすぐに戻せないけれど、一階フロアはあっという間に元どおりになっていく。

 その様子をランドルフは時折指示を出しながら見守っていたけれど、やがて完全に通常状態に移行したことを確認すると、サーラと私を手招きして呼び寄せた。


「悪かったな。さっきチラッと聞いたが、連中が好き勝手やるのをお前らが止めてくれたんだろ? ありがとうよ」

「問題ない。サーラが暴行を受けかけたから止めただけ。友人として当然の行為」

「友人……友人か」


 ランドルフは私の言葉に少し目を丸くした。どこに驚く要素があったのか私には皆目不明だが、彼は後ろで嬉しそうにニヤニヤしているサーラに視線を移して苦笑いを浮かべた。


「はっはっはっ! そうか、そりゃそうだよな。なら俺もギルド長ってよりサーラの友人として礼を言わせてもらうぜ」

「承知。礼は受領した。それより教えてほしい」

「何をだ?」

「シュルツァーとその仲間について。彼らは何者?」


 あれだけ傍若無人に振る舞った彼らだけれど、それも本部の上層部とつながりがあるからこそ。さらに言えば、通常は探索者というのはせいぜい四、五人程度のパーティしか組まないけれど、今日来ていた彼らは九人。多すぎるし、銀行口座に報酬や換金額を振り込むというのも一般的な探索者の範疇からは外れている。今後も彼らと遭遇するのかは分からないけれど、もう少し正確な情報が欲しい。

 ランドルフに問うと、彼はサーラと視線で会話してから「分かった」とうなずいた。


「つっても、俺らもそこまで詳しいことを聞かされてるわけじゃねぇけどな」

「持っている情報で構わない」

「なら……そうだな。ノエル、お前たちは今迷宮内で店を構えてるわけだが……実は他にも迷宮内で生活してる連中がいるんだよ」


 彼のその情報に、今度は私が少し驚いた。まさか私たちの他にも迷宮内に生活拠点を置いている人たちがいるとは思わなかった。ひょっとして、世界初の迷宮内店舗という宣伝文句は外した方が良いのだろうか。


「いや、そりゃ別に構わねぇよ。連中は店を経営してるわけじゃねぇからな」


 ならば良かった。もっとも、この宣伝文句があったところで恩恵はほとんど無いのだけれど。

 しかし、ならばその人たちは迷宮内で何をしているのだろう? まさか本当に生活をしているだけ、などということは無いと考えるのが自然だ。


「詳しいことは俺も知らされちゃいないが……奴ら、どうやら魔晶石の研究をしているらしい」

「魔晶石の研究?」

「ああ。と言っても、探索者が研究してるわけじゃないぜ?」

「どこかの学者様の研究で、純度が高くて新鮮な魔晶石が必要らしいのよ。ここで暴れてたのは、その学者様に雇われた連中ってわけ」

「純度が高い魔晶石って言やぁ、当然迷宮深部から取ることになる。買っても良いんだろうが、そうそうに数が出回るもんでもないしな。ならばってことで、採集したその場で研究ができるよう迷宮の深部に研究室を作っちまったんだよ」


 それはなんとも豪快な話である。

 確かに魔晶石を大量に集めるには迷宮深部がベストではあるが、当然その分危険は跳ね上がるし、そんな場所に研究室を作るなど、とんでもないコストと時間が掛かるはずだ。


「まあな。作るって話が出たのは確かお前がこの街に来るよりも前なんだが、完成したのはつい最近で……一ヶ月前くらいって言ってたか?」

「ええ。だからだと思うわ。アイツらが大量に素材を持ち込むようになったのは。研究所が出来上がるまでは、単にモンスターから作業員を守ってただけでしょうけど、本格稼働してモンスターを積極的に狩り始めたんじゃない?」

「必要無い魔晶石やモンスターの素材は、売っちまえば金にはなるが……依頼元はアカデミーってわけでも無かったよな? よく民間でそんな資金が集まったもんだ」


 アカデミーでもない。ということは、国が絡んでいる研究ではないと言うこと。迷宮深部であるなら少なくともメインの探索者はAクラス。そんな人材を大量に毎日雇い続けるだけでも相当な金額になるはず。どれだけの資金力があるのだろう。


「しかもギルド本部にも繋がりがあって、根回しも終わってる。相当な政治力とコネが必要なはずよ」

「支部長してる俺が言うのもアレだが……詳細を俺にも伝えられねぇ時点で相当きな臭い話だ。まともな案件じゃねぇのは間違いないだろうよ」

「でしょうね。探索者だって馬鹿じゃないし、そんな相手からの依頼、いくら金払いが良くても断るわ。もっとも、だからこそああいったタチの悪い連中しか集まらなかったんでしょうけど」


 掲示板に張られた個別依頼の場合、基本的に依頼内容の詳細や細かい取り決めは探索者と依頼主の間で話し合いで決まる。よほど悪質じゃない限りは基本的に探索者の自己責任になるし、今回の案件もおそらくは個別依頼に準じた内容のはず。

 研究の詳細などは極秘扱いと推測されるため知らされなくてもおかしくはない。けれど少し調べれば個人依頼なのに本部からの特別優遇措置指示があったり、支部長にも詳細が知らされてなかったり、やけに金払いが良かったりと、厄介事の雰囲気が強い。

 基本的に上位クラス者は生活に困ってないから、そういった面倒が予想される依頼は受けたがらない。仮に私にその依頼が持ちかけられたとしても拒否するだろう。


「状況は理解した。感謝する」

「こっちこそ! さっきは守ってくれてありがとう、ノエルちゃん」


 そう言ってサーラがギュッと抱きしめてきた。

 抱きついてくるのはいつもやっているのと変わらない。だけれど、いつもみたいに暑苦しい感じではなく優しく、それでもしっかりと彼女の体温が伝わってきた。


「嬉しかったわ。これからも仲良くしてね、大事な『友人』さん?」

「? 当然。サーラにはいつも世話になっている」


 むしろ仲良くしてもらいたいのはこちら。これからも宜しくお願いしたい。

 そう伝えると、サーラはまた嬉しそうに微笑んで抱きついてきた。その感触も柔らかくて、けれども次第に耳元で聞こえてくる彼女の鼻息が荒くなり、抱きしめ方も暑苦しくなってきた。

 残念ながらこの変化は好ましくない。サーラのことは友人と思っているけれど、過剰なスキンシップは遠慮して欲しい。

 必死に抵抗する彼女を無理やり引き剥がし、現行犯でランドルフに引き渡す。暴れる彼女から「もっと、もっとノエル分をぉぉ……!」と呪詛が聞こえた気がしたけれど、私には何も聞こえない。聞こえていたとしても聞こえていない。

 おぞましい執念を見せている彼女の姿を極力視界に入れないようにしつつ、私は足早にギルドを去ったのだった。






お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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