4-3.君はいったい何者なんだい!?
シオの斬撃を後退してかわすと、クァドラは前へと踏み込んだ。
回避したことでせっかく生まれた距離が潰れ、再度シオの間合いになる。シオは一瞬驚いたものの、クァドラ目掛けて剣を振るい――
「っ……!」
その軌道上に、クァドラはノエルを差し出した。
人形のような瞳がシオをぼぅ、と捉える。シオは慌てて軌道を逸らした。
剣がノエルの黒髪をかすめパラリと数本が舞うものの、彼女を傷つけることだけは避けられた。だが気づけば彼の眼前で、クァドラの紅い髪が躍っていた。やられる。とっさにシオはガードした。
しかしクァドラは何もせずにシオの脇を通り過ぎていた。防御の姿勢を取ったことで反応が遅れ、シオが振り向いた時には彼女の姿はクレアとアレニアの眼の前にまで到達していた。
「ウチならやれると思うたか!? なめくさんなやッ!」
クレアが構えたハンマーを横薙ぎに振るおうとする。
と、その時だ。クァドラはノエルの体を上空へと放り投げた。
「なっ――!?」
クァドラはノエルを連れていくためにやってきて、実際に手中に収めた。その彼女が自分から手を離すなど想像していなかった。クレアとアレニアの視線が宙を舞うノエルに一瞬向かい、意図に気づいた時にはすでに二人の眼前に彼女の姿はなく――
「悪いが、少し眠っててくれ」
背後からそんな囁きが聞こえたと同時に、クレアの意識は途絶えた。
蹴りが背中に突き刺さり、勢いよく壁に叩きつけられて破片が激しく飛び散る。瓦礫の中に埋もれたままになったクレアを見て、アレニアは激昂し引き金を引こうとした。
だが、振り向いた瞬間にその銃口がつかまれた。
「君もだよ」
熱に強い耐性を持った銃口が一瞬で溶け、腹部に拳が突き立てられた。アレニアの体が、くの字に大きく曲がり崩れ落ちる。と、ちょうどそこにノエルの体が降ってきて、クァドラは受け止めた。
「小さな見た目に反して、君はズッシリと重い。最初期型だから手術は辛かっただろうに。それともそんな記憶さえ失ってしまったのかな?」
シリーズとして最初に作られたために姉とに当たるが、見た目も実年齢も年上であるクァドラは、痛ましげな視線をノエルに向け――しゃがみこんだ。
頭上をショートソードが通過する。クァドラは銃を引き抜くとその銃身でシオの剣を払い除けた。
すぐさま返す刀でクァドラに迫る。息をつかせない攻撃が彼女に迫っていくも、クァドラは余裕をもった表情でそのすべてを弾き返していった。
「くっ……!」
「短期間で君は異常なほどの成長速度を見せている。私もまだ若輩ではあるが、それでも見る見る内に成長していく少年を見ているのは楽しいものだ。だが――残念ながらその時間も終わりにしなければならないんだ」
銃身で剣を弾き返し、再びシオが振り下ろそうとしたその瞬間にクァドラの焔が弾丸をかたどって迫ってきた。眉間に突き刺さらんとするそれをシオはとっさにかわすも、間をおかずして拳銃の弾丸が襲いかかってくる。
シオはたまらず身をのけぞらせた。鼻先を銃弾がかすめていき、直撃は免れる。が、やむを得なかったとはいえ体勢を大きく損なってしまった。
クァドラの痛烈な蹴りがシオの脇腹を捉える。腕でブロックしたものの、衝撃が突き抜けて腕と肋骨が折れたのが分かった。痛みに苦悶の声を上げながらシオの体は地面を滑っていき、やがて壁にぶつかって止まった。
痛みに視界がチカチカと点滅し、それでも何とか意識を飛ばすのをシオは堪えた。だが顔を上げた瞬間にそこにあったのは、真っ赤な焔の壁だった。
上も、右も、左も、すべてが分厚い焔の壁。それが半歩もない距離で轟々と燃え上がっていた。触れてもいないのに灼熱がシオを焦がさんとしてくる。呼吸が苦しく、空気を求めれば高温のそれは喉を焼かんばかりだ。シオは膝を付き、暗くなる意識を必死に耐えた。
そしてクァドラもまた焔の壁の反対側で苦しげにしていた。
彼女からシオの姿は見えないものの眉間にしわを寄せ、険しい顔つきで彼がいるであろう場所を見つめていた。やがて一度目を閉じて深くため息をつくと踵を返し、ぼぅっと立ったままのノエルの手を引いて立ち去ろうとした。
だが突如として突風が吹き荒れた。大きな瓦礫が転がるほどに凄まじい風が背後から押し寄せ、彼女は自身の焔がかき消されたのを感じ取って振り返る。
シオがそこに立っていた。全身が酸素を求めているのか大きく肩で息をし、顎先から汗が滴り落ちている。それでも彼の瞳は鋭くクァドラを捉えて離さない。
「……驚いたな」クァドラは唸った。「酸欠で気を失わせるつもりだったが、まさか風魔導で私の焔を吹き飛ばすとはね」
「……行かせません」
シオはつぶやくようにそれだけを漏らした。そして次の瞬間には――クァドラの眼の前にいた。
「なにっ……!?」
振り抜く剣に、かろうじて銃身を合わせて弾く。だがクァドラは驚愕を隠せなかった。
反応こそできたが、シオの動きはほとんど見えなかった。自身が集中を欠いていたからというのもあるが、それでも驚嘆に値することだ。
剣を弾いた直後にクァドラは焔の矢でシオに反撃を試みる。同時に脚目掛けて発砲して足止めを狙う。しかしシオは風魔導で銃弾の軌道を変え、焔の矢についても最小限の動きで回避。さらにクァドラが攻勢を強めるよりも早く、風魔導による刃が彼女に迫った。
彼女は最初、焔魔導で弾き返そうと考えた。だがすぐに考えを改めて回避に変更し、直後にそれが正しかったと判明した。
かわした風魔導の刃が彼女の紅い髪を切り裂き、そのまま背後に待機させていた焔の矢をも真っ二つにしていった。浅く切られた頬から血が一筋流れ落ちた。
さらにシオの攻撃は終わらない。風魔導に引き続き、地魔導によって持ち上げられた岩石が四方からクァドラへと押し寄せる。さらには足元の岩石が蠢き捕らえようとしてきて、クァドラはノエルを抱え慌てて跳躍した。
「凄まじいな……! また一つ高みへと成長したようだ。君はいったい何者なんだい!?」
「僕は何者でもありませんよ……!」
答えながらシオは、これまでに幾度となく感じていた湧き上がる高揚感の中にいた。
<不死の意思>。死の危機に瀕することで発動するシオのスキルにより、彼の能力は凄まじく底上げされていた。焔の壁に囲まれて意識を失いかけたことで発動していたが、これまでとはまた少し違った感覚の中に彼はいた。
今までは万能感に押され、ただ敵を倒すことだけに囚われていた。底上げされた限界も顧みず、気の赴くままに敵を蹂躙する。しかし今はその万能感をうまく抑え込み、冷静さを維持できていた。
クァドラでさえ見失うほどの速度で踏み込む。だが単純にそのまま攻撃に映るのではなく、フェイントを加え剣戟の軌道を途中で変えたりと、彼が培った技術や駆け引きまでも混じえて攻め込んでいく。
そこに強力な風魔導と地魔導も加わっていく。しかも魔導を専門にしている連中でさえ限られた者しか到達できない領域のものを、だ。途中で攻めに転じたかったクァドラだったが、さすがに限界に近かった。
「やむを得ない、か……!」
何とか一度シオから距離を取ると、クァドラは端にノエルを座らせた。そして集中を高めると、大量の魔法陣を伴いシオへと地面を蹴った。
もはや、半端な手加減などしていられない。今のシオの実力をそう見定め、魔導を放ち距離を詰めていく。
それはシオもまた同じだ。風魔導と地魔導がクァドラの焔魔導と激突し、互いに相殺し合う。その中で二人は至近距離でぶつかり合っていく。
一合、二合とシオの剣とクァドラの銃が悲鳴を上げる。二人の魔導が相殺する度に突風が吹き荒び、開放された魔素が激しく光を撒き散らす。
ぶつかり合い始めた最初はまだクァドラにも余裕があった。しかし銃と剣が結び合い、離れ、そしてまたぶつかり合うとその度にシオの速度は増していった。
(もっと、もっと速く……!)
強い想い。それに応えるようにシオの動きは限界を超えていく。
すでにクァドラも全力で応じなければ対応できない程になっていた。必死で剣戟を銃で弾き返し、焔魔導でシオを引き剥がそうとする。しかしそのどれもが思惑通りにはいかない。にもかかわらず彼女は楽しそうに笑った。
「すごい、すごいよ、シオ君……! この力はAクラス、いや、さらにもう一つ上にも匹敵する力かもしれないな!」
「そんなクラスなんてどうだっていいんですっ!」
剣を必死で振るい、脚を懸命に動かしながらシオはクァドラに叫ぶ。
願うことは、ただ一つだけ。
「僕はもう……これ以上大切な人を失いたくないんですっ!!」
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