3-2.滑稽を通り越して哀れだわ
「何を言って――」
困惑の声が上がりかけたその時、各自のホログラム映像が激しく乱れた。
次々と真っ赤な血しぶきが映像に混じり、聞き苦しい悲鳴がスピーカーから吐き出されていく。
やがて沈黙。しばしの静寂を経て、正面のホログラムに這いつくばるようにして主宰の老紳士が姿を見せた。白髪は血に塗れ、息も絶え絶えな呼吸音が不規則にマイクを通して伝わってくる。
「く……な、ぜだ……なぜこのような、ことを……? せっかく我々が、君を選んでやった、というのに……」
「この期に及んでまだ勘違いしてるのね。滑稽を通り越してもはや哀れだわ」
ヴェネトリアはホログラフィーを手にとって老紳士に顔を近づけ、その口で獰猛な弧を描いた。
「なぜこのようなことをしたか? 愚問だわ。そんなの決まってる。貴方たちはもう不要になったからよ。選ぶ立場から降ろされたことが無かったから気づかなかったかしら? 下衆が世界を把握しようなんて百年どころか一万年早いのよ」
ま、私も人のこと偉そうに言えないけれどね。そう自嘲すると、マイクに向かって「やりなさい」と指示を飛ばす。すると老紳士の顔に樹木の枝のようなものが巻き付き、覆い尽くしていった。
そうして。
「……! ……、……!! ……ヴェネトリ――」
枝で包まれた容積がグシャと音を立てて小さくなり、声が途絶えた。隙間から血が噴き出してボタボタと落ちていき、ホログラムが消えて代わりに女の子の邪気の乏しい声が届く。
「終わったよー、お母様」
それを皮切りに他のスピーカーからも任務が完了した旨の報告が届いてくる。問題なく会員の排除が完了したことにヴェネトリアは微笑むと、マイクに向かって声を発した。
「みんなご苦労様。それじゃ――始めましょうか」
突如として地上から閃光がほとばしった。
一筋の光が真っ直ぐに上空へ伸び、その根本で凄まじい爆発が生じる。発生源は山中奥深く。山肌を大きく削り取り、木々が真っ赤に燃えて倒れていく。黒い煙が立ち込めていく中で、ヴェネトリアと1番はゆっくりと上空へと浮かんでいった。
地上数百メートルの高さに達し、冷たい風が長く白い髪をたなびかせる。ヴェネトリアは大きく両手を広げて天を仰ぐような仕草をすると、自らの力を解放した。
融合した白精霊の姿が、彼女と同じ仕草で背後に浮かび上がって消える。背中から光が緩やかな速度で伸びていき、それが翼を象るとヴェネトリアは閉じていた瞳を開いた。
「――行きましょう」
彼女は進撃を開始した。
目指すは聖フォスタニア東部、E/Fとの国境付近。選定した六つの迷宮核を加工し、地中から魔素を吸い上げ続けているそれらの中心地だ。各迷宮核から立ち上った光が繋がり、複雑かつ半径数百キロにもおよぶ超巨大な魔法陣が形成されていて、その一端が上空から見て取れた。
――あと、少し。本当にあと少しで、願いは叶う。
魔法陣を見下ろす彼女の頬が自然と緩む。だが、それを咎めるように地上から何かが飛来した。
爆発。熱風と爆風が彼女らを包み込み、さらに微小な金属粒がおびただしく散らばってすべてを破壊しようとする。しかし煙が突風に押し流されると、無傷のヴェネトリアと1番が現れた。
「大丈夫ですか、お母様」
「この程度なら、蚊にさされた方が痛いくらいよ」
心配する1番に微笑むとヴェネトリアは眼下を見下ろした。
異なる軍服を着た二種類の軍が幅広く展開して、互いににらみ合う形になっている。どうやらちょうど聖フォスタニアとE/Fの武力衝突が行われている地域に差し掛かってしまったらしい。
「お互いから敵と認識されたわけ、か」
そう漏らす間にも次から次へ地上から攻撃が飛んでくる。銃弾に実砲弾、魔導を内包した魔導弾など、前後左右からおびただしい量のそれらがヴェネトリアたちへ襲いかかった。
だがヴェネトリアを中心として球状に薄い光が広がり、それに触れた途端すべての攻撃が破裂した。その爆風も魔導も、彼女らには一切届かない。
「間違ってはいないけれど、誰彼構わず噛みつく姿勢はスマートじゃないわ。長生きできないタイプね」
噛みつく相手はしっかりと見極めないと。冷たく嗤い、彼女は手を地上へとかざした。
「――死ね」
魔法陣が浮かび上がり、そこから絵の具のように真っ白な光の線が伸びていった。それが一瞬で地上に到達し――あまりに膨大な熱量にすべてが融けた。
そのまま地上を光線が薙いでいく。展開していた兵器類が破壊され、あらゆるところで爆発が発生していく。
そうしてあっという間に地上は火の海となった。当然、彼女に襲いかかる砲弾は一切なく、悲鳴だけが強化された聴力に届いてくる。おぞましさと悲痛さを声で届けてくるが、彼女には何の感動も感慨も与えることはない。
羽虫に与える同情さえ地上の彼らに抱くことはない。もはや一瞥さえもせず、二人は再び前進を開始したのだった。
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