6-2.ああ、アホみたいな勝負だ
ロランは一言そう吐き捨てただけで淡々と食事を続けた。こちらとは関わりたくないと言外に告げているものと推測するが、ならば黙っていればいいのに。どういう了見なのだろう?
「またロランったら……あっそ、それなら私はどうなるのよ? いつから私は平民になったのかしら?」
「ふんっ……お前ならそっちにいる方がよっぽど似合ってるぜ」
この三週間でなんとなく私も理解してきたのだけれど、これまでの付き合いがそうさせるのか、ロランはシェリルに強く出られない。今みたいにシェリルが言葉尻をとらえて糾弾しようものなら、「お、お前は別だ!」などとうろたえていたに違いない。
だから少しおどけてみせたシェリルを、珍しくロランが突き放して彼女は面食らった様だった。
「……ひょっとして、ユリアンにまた何か言われたの?」
「別に……気楽なお前には関係ねぇだろ」
表情は如実に「何か言われた」と物語っているのだが、それを自覚してかしないでか、ロランは逆方向に顔をそむけてしまった。シェリルが何かを言いかけるけれど、グレッグはそれを制して、ロランの隣に席を移動した。
「まぁそうツンケンすんなよ」
「この性格は元々なんだよ」
「そりゃ知ってる。お前が俺らと相入れようとしないことも、な」
「……」
「それでも俺はこの三週間楽しかったぜ? いや、楽しいっつうと語弊があるけどよ? 地獄みたいな訓練を死にそうな顔しながらもお前と一緒に潜り抜けた時間、悪くなかったって思ってる」
「……そうかよ」
「ロラン、お前だって似た気持ちなんだろ? だから途中からノエル先生やシオ先生のこと悪く言わなくなったし、口じゃなんだかんだ言いながら俺たちを本気で見下したりもしなくなったんじゃないか?」
「そんなこと……」
「過ごした時間は短くても俺たちは仲間だ。仲間が殴られれば代わりに殴り返してやるし、バカにされたならそれを後悔させてやる。たぶん、みんな同じ気持ちのはずだ」
グレッグが他のメンバーに目を遣れば、全員が大きくうなずいた。
「ほらな? だからせめて、何を言われたかくらい教えろよ。前に言ってた『勝負』ってやつのことか?」
勝負。そのフレーズを聞くと、ロランはためらいながらうなずいた。
そういえば初めての授業の時もユリアンとロランは「勝負」と口にしていた。その「勝負」について具体的な言及はなかったように思うけれど、今回それを言い渡されたということだろうか。
「迷宮探索に勝敗はない。勝利の定義は?」
「……今回の研修、迷宮の一番奥に到達の証が置かれるだろ?」
彼らが潜る迷宮の最奥。そこに予め学院によって何かしらの印となるものが設置されると聞いている。そこまで到達できなかったとしても、道中の行動では合格もあるし、逆にその印を持って帰ったとしても途中の行動が適切でなかったら不合格にもなり得る。一応、印を持ち帰った方が高評価ではあるものの、そこまで重要な指標ではない。
「それをどっちが早く持って帰るか。それが勝負の内容だ」
「……まさかと思うけどロラン、そんな勝負受けたんじゃないでしょうね!?」
「ああ……受けたよ」
「なっ……! ちょ、バカじゃないの!? そんなの無視しなさいよ! 何口車に乗せられてんの――」
「お前には分かんねぇよ!!」
ロランが激昂してテーブルを叩いた。食器がけたたましく音を立て、シェリルもグレッグも、みんな言葉を失う。衝動的な行動だったのか、ロランは彼女らを見てすぐに我に返り、バツが悪そうにしてまた顔をそむけた。
「迷宮探索研修は速さを競うものではなく、適宜適切な行動を取れるかが重要。評価項目にも探索速度は含まれていない。速度で競うのは非合理的」
「……ああそうだよ。アホみたいな勝負だ。ノエル先生の言うとおりで、俺だって分かってる。でも……でも、それでも聖フォスタニアの貴族として、そんな馬鹿げた勝負でも負けらんねぇんだよ」
「ロラン……」
「クィン家のお前には分かんねぇだろうけど、ターナー家とヴェルニコフ家の争いってのはそんな生易しいもんじゃねぇんだ。どんなに小さい子どもであっても負けは許されない……些細な勝負でも、いつだって必勝を強いられてんだ。俺もアイツも、聖フォスタニアとエスト・ファジールを常に背負ってんだよ。こんな馬鹿な勝負でも、負けりゃ一族の恥。それだけならまだしも、国中の貴族から王国の恥とまで陰口叩かれるんだぜ?」
「そんな……」
「これはな、シェリル。戦争なんだよ。単に俺とユリアンの勝負ってだけじゃねぇ。聖フォスタニアとエスト・ファジールの戦いなんだ。だから俺は……聖フォスタニアの貴族としてこの勝負逃げるわけにはいかねぇし、負けるわけにもいかねぇ。しかも……」
ロランがギュッと手のひらを強く握りしめたのが見えた。
「しかも?」
「……しかもアイツ、お前らまでバカにしやがった」ロランの顔が歪んだ。「断るのはお前らが脚を引っ張って負けるからだろって。仲間に恵まれなくてかわいそうだ、とか吐かしやがったんだ……それが悔しくて……」
「それでお前……」
「お前ら全員頑張ったじゃん! 死にそうになりながら訓練に耐えたじゃんか! なのに……そんなバカにされたら悔しいだろ? 幸い、アイツは俺らを舐めてる。負けるなんて微塵も思ってもねぇ。だから絶対勝とうぜ! みんなでアイツに吠え面かかせてやろうぜ! な?」
顔を上げたロランがグレッグたちへ呼びかける。彼の必死さと悲痛さが入り混じった声に、マリアやジョシュア含めて全員の雰囲気が変わっていくのを感じた。
私もまた彼なりの事情があることも理解した。同情の余地もあるし、彼が勝負を受け入れたのも、仲間たちを侮辱されたからというのも分かった。最初に私たちに向かって吐き捨てたのも、自分だけが懐いている悔しさを消化しきれなかった故の行動なのだろう。
そのうえで私は立ち上がった。
「先生?」
「ど、どこに行くんですか?」
振り返り、マリアとジョシュアの問いに応える。
「高等部部長のところ。ロランとユリアンの二名を明後日の研修から外すよう要求してくる」
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