4-1.私はあなた達の教官
魔導科の学生たちに紹介された翌日。
私とシオは屋外の訓練場にいた。
クラリスの説明によると、実践魔導訓練と称されたこの授業は、実際に迷宮に潜るパーティ単位で受講するらしい。この授業を通してメンバーの特徴を知って連携を深めつつ、迷宮探索の基礎を学んだり、戦闘能力の向上を図るとのこと。私たちが受け持つ生徒の名前だけは教えてもらっているけれど、果たしてどんな生徒が来るのだろうか。
「お、アンタが俺らの担当教官か?」
声を変えられて振り向くと、大剣を背負った金髪の男性が笑みを湛えていた。背は高く一見体つきは細いけれど、軽鎧から露出した手足を見る限り十分に鍛えられているようだ。
「肯定。私はノエル。こっちはシオ・ベルツ。あなた達の迷宮探索を指導する。宜しく」
「グレッグ・ワイズマンだ。俺は魔導科じゃなくて兵科だからこの授業以外じゃ会うことはねぇだろうけど、こちらこそ宜しくご指導頼むぜ」
私たち二人と順に握手を交わす。言葉遣いこそやや粗野であるけれど、私の容姿を見て特に嘲る様子もなく、逆に教官という立場を尊重しているのが窺える。
眼の前の彼と事前情報を結びつける。なるほど、彼は兵科。昨日教室では見かけなかったし、将来軍関係への就職を希望するのであれば上下関係を尊重するのは納得である。
会話を交わしていると、その後ろから男女が一組やってきていた。今度の二人には見覚えがある。二人とも魔導科の生徒のはずだ。
女性の方はグレッグと同じく長身で、腰にはロングソードが刺さっている。紫がかった髪を後ろで結んでいて、歩く度にそれがわずかに左右に揺れている。揺れ幅の小さいその歩き方から、彼女も十分に自身を鍛えているようだった。
もう一人は女性よりも頭半分ほど小柄な男性だ。体の線は細く、表情にもどこか気弱さが見て取れた。武器も特に保持していないことから推察するに、女性の方は剣と魔導の両方を器用にこなすタイプで、男性の方は純粋な魔導士タイプなのだろう。
「こんにちは、ノエル教官、ベルツ教官。マリア・ライトです。宜しくお願いします」
「え、えっと、ジョシュア・ジーンです。よ、宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく。僕と同い年くらいだし、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
シオが笑ってそう言ったけれど、マリアの方はキリッとした表情を崩さず、ジョシュアは愛想笑いをしようとして失敗して顔がひきつっている。少なくとも後者の方は人間関係が苦手のようである。私が言えた義理ではないが。
さて。残るは中等部の二人だけれども――
「――おい、そこの二人。お前らが教官か?」
マリアたちとは反対側から掛けられた声に振り向けば、そこにも男女が一組立っていた。男子の方は蒼い髪で、腕組みをしながら私たちを威圧するようにふんぞり返っている。が、あまり背も高くなく体つきも成長途中という感じなので威圧感は無い。かつて護衛任務に当たっていた時の、頑張って偉ぶっている子供をふと思い出した。ヴォルイーニ帝国の貴族だった彼は国が滅んだ今、どうしているだろうか?
「ちょっと、ロラン! 先生に向かって失礼でしょ!」
そんな男子生徒を、隣にいた女子生徒が咎めた。
女子生徒の方はボブカットと呼ばれる髪型で、ロランと呼ばれた生徒よりさらに小さい。たぶんここにいる生徒たちの中で一番小柄だと思われるけれど、男子生徒をキチンと注意するあたり、彼女の方が年長なのかもしれない。
「あれ? 君は……」
そして女子生徒の方にも私は見覚えがあった。昨日クラリスに連れて行かれた教室で、私に話しかけてくれた生徒だ。名前は……シェリル。そう、シェリル・クィンだったと思う。
「肯定。昨日教室で言葉を交わした。私はノエル。あなた達の教官。宜しく」
「……は?」
私が手を差し出したものの、ロランは呆けた顔を浮かべた。どうやらさすがに私が教官だと思っていなかったらしい。怪訝な顔を浮かべて私とグレッグを見比べていた。見た目で考えれば、私よりもグレッグの方が教官っぽいのは確かなので、仕方ない。
シェリルも同じ感想だったようで、目を丸くして明らかに驚いているようだったけれど、すぐにハッとするとカーテシーをして礼儀正しく頭を下げた。
「失礼致しました。私はシェリル・クィン。こちらの男子生徒はロラン・ターナー。中等部から参りました。教官および高等部の先輩方にはご迷惑をお掛けするかと思いますが、ご指導宜しくお願い致します」
「え、あ、うん。ノエルさんと同じく教官を務めますシオ・ベルツです。よ、宜しく」
丁寧な挨拶のシェリルとは対照的に、隣のロランは短く名前だけ名乗って露骨に舌打ちをした。そして「マジかよ……」と聞こえよがしに嘆き、それを聞いたシェリルが深いため息をついた。察するに私が教官であることに拒絶反応があるらしい。まあ仕方のない話だ。
それはさておき、キレイなカーテシーをしてきたということは――
「シェリルとロランは貴族? それと、私に敬語は不要。迷宮に共に潜るパーティである以上、話しやすい口調で構わない」
「畏まり――うん、分かった。ならこれでいかせてもらうね? えっと、質問についてはイエス。私は聖フォスタニアのクィン伯爵家の次女で、ロランはターナー伯爵家の長男なの。ブリュワードだと貴族制は廃止されてるし、学院で家柄なんて関係ないから特別扱いは必要ないんだけど――」
「はっ! 何処だろうが俺がターナー家の長男であることに変わりはねぇよ。ったく……平民や粗野な探索者と一緒に授業なんか受けたくねぇけど、勝負に負ければ父上の顔に泥を塗るからな。仕方なく協力してやる。だからお前たちも俺に協力しろよ? いいな?」
ロランがそう言って私、そしてシオや他の生徒たちをねめつけた。居丈高というのはこういう態度のことを言うのだろう。貴族がいるとは事前に聞いていて配慮はするよう言われてはいる。けれど他国の貴族が命令する権限などなく、当然私たちが従う必要性はないはずだ。クラリスを見れば、彼女も肩を竦めて首を横に振り、シェリルも頭を抱えていた。
「なんつーか……クィン嬢ちゃんも苦労してそうだな」
「すみません、ワイズマン先輩……この馬鹿が失礼をしまして」
「おい、馬鹿ってなんだよ、シェリル。俺は聖フォスタニアの貴族としてだなぁ――」
「まぁ落ち着けって、ターナーの坊っちゃん」グレッグがたしなめた。「俺は兵科だからな。忠誠を誓う相手はこの王国と決まってるんでアンタの命令にゃ従ってやれねぇ」
「なっ、お前――」
「とはいえだ。キチンと単位が欲しいっつー目的は一緒だからな。喜んで協力はしてやれるさ。ま、だから仲良くやろうぜ」
「……ふん、平民なんかと馴れ合うつもりはないけど敵じゃないからな。そこは俺だって弁えてる――って、おい! 馴れ馴れしく頭撫でんなよっ!!」
「おっと、ワリィ。ちょうどいい高さに頭があったもんでな」
「凄い……ロランをもう飼い慣らしてる」
シェリルが感嘆の声を上げた。飼い慣らすという表現が適切なのかは不明だけれど、とりあえずはグレッグのおかげで場の雰囲気は緩和されたように思う。軍でも探索者でも、いがみ合う不穏な関係のままだと遠からず破綻するので喜ばしいこと。
それはそれとして。
「ところで、ええっと、ターナー……くん? さっき勝負がどうとか言ってたけど、どういうことかな?」
シオが首を傾げた。私もそれは気になった。迷宮探索研修は、あくまで本物の迷宮に潜って、最奥にある「到達の証」を取得して帰還することが目的。時間を競うわけではないし、優劣をつけるようなものではないはずなのだけれど。
するとロラン・ターナーは呆れたような顔を浮かべ、それから嘲るようにシオを鼻で笑った。
その時、後方から近づいてくる足音が聞こえた。途端にロランの表情が変わり、余裕ぶっていた顔が嫌悪に歪んで私の後ろへ明確な敵意を向けた。
果たして、その対象が誰なのか。振り向けばそこには、ロランよりもずっと長身の男性が立っていた。癖のないサラサラの長い金髪。高等部の教室にはいなかったからおそらく中等部の生徒だとは思うけれど、ロランよりはずっと大人びた容姿をしている。
「ユリアン……!」
「よう、ロラン。せっかく挨拶に来てやったんだからそう睨むなよ?」
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