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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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7-5.帰ろか、ウチらん家に





 待ち望んでいた言葉が聞こえた。

 すぐにクレアの傍に着地し、彼女を抱えて再び飛行を開始する。振り返ると黒い澱を撒き散らしながらヒュイの「成れの果て」が私たちを追いかけ続けている。が、建物内と違って自由に動けるので追いつかれることは無さそうだった。

 とはいえ、このまま逃げ回っているわけにはいかない。広い迷宮だけれど他の探索者と遭遇して巻き込んでしまう可能性もある。


「むしろ迷宮中の探索者を飲み干してしまいそうな勢いやけどな」

「そうなら重大な危機。止めなければならない。どこを攻撃すればいい?」

「それがやな……弱点ちゅうか心臓部ちゅうか――核とでも呼ぼか? それが敵さんの体ン中を自由に動き回っとるみたいなんや」


 彼女の話から推測できるのは、見た目同様に彼の肉体内部も不定形になってしまっているという事だろうか。まるで液体の中を自由に動き回るボールのように、彼の動きに合わせて場所が移動してしまっている可能性が想像できる。


「なもんでな、口で言うたところで無駄や」

「ならどうするのが適当?」

「幸い核が動くんは速うない。せやから――ウチが核がある場所を攻撃する」


 一瞬、戸惑う。もちろんクレアにはそのつもりでは残ってもらいはしたものの、それはヒュイの肉体がまだキチンとした固体状であった時の話だ。今みたいにどこから攻撃が飛んでくるか分からない状態でクレアに攻撃のため接近させるのは少しはばかられる。もっとも、そうも言っていられない状況なのは理解しているけれど。


「大丈夫や」そんな私を見透かしたようにクレアがニッと笑った。「ウチはノエルの相棒や。アンタん眼の前で死ぬようなヘマはせぇへんから安心し。信頼してや」

「……分かった」


 先日のシオに状況は似ている。彼女もただ守られるだけの存在ではない。

 不安は拭えない。怖さもある。でもクレアは嘘はつかない。だから彼女を信じよう。


「さっきのミサイルが当たった時もそうやったけど、どうも敵さんは火が苦手みたいや。せやからたぶん、放っといてもウチには積極的に手は出してけぇへん。ウチは焔の精霊に好かれとるからな」


 それを聞いて少し安心した。

 なら――逃げ回るのは終わりだ。

 追ってくる敵から離れるようにクレアを放り投げる。黒くうごめく塊は空虚な双眸を一瞬彼女の方に向けたものの、すぐに関心を失って私の方へと迫ってきた。

 伸びる触手を剣で薙ぎ払う。それで一度はぶつ切りにできて先端が地面に落ちるけれど、不定形の体にとってあまり意味が無いのだと思う。途切れた先端が繋がって、再び私へと伸びてきた。

 今度は網のように泥が広がっていく。頭上から覆いかぶさるように落ちてくるそれに向けて発砲すれば衝撃で弾け飛び、そしてまた元通りになるけれど、その直前にできた隙間から脱出。上空からべシャリと地面に広がる黒いシミを見下ろしていると、諦めもせずにまた本体が手を伸ばしてきた。それはまるで――


(私を殺す、というより――)


 取り込みたいがための行動のように思える。私の魂が多大な魔素を内包しているからか、それとも同属性と思われる冥精霊の存在に惹かれているのか。理由は幾つも思いつくけれど、どれも考えるに値しない。進んで取り込まれるわけにはいかないし、為すべきことは唯一つ、彼を殺すことしかないのだから。

 回避行動を取り、クレアの方へ視線を移す。着地した彼女はハンマーを構え、周囲に焔をまとわせて意識をヒュイの方へ集中させていた。まるで踊るように焔が彼女の周囲を舞っている。あれなら彼女の言うとおり、きっと大丈夫と信じる。


「行くでぇぇぇぇっっ――!!」


 ハンマーを握りしめて彼女が走り出す。その声に反応したのか、ヒュイの背面から触手がクレアに向かって伸び、だけれど焔をまとったハンマーがそれを容易く蹴散らしていく。

 クレアが跳躍した。ヒュイが彼女の方に向き直り、白く空っぽの瞳が私から外れたその隙に、私は右腕の銃を発砲した。

 巨大な弾丸が頭の部分を弾き飛ばし、彼の動きが止まった。そこに彼女のハンマーが振り下ろされる。

 人間でいう肩口から逆の脇腹にかけてハンマーが澱をえぐり取っていく。なんともアンバランスな造形になるけれど、即座に回復。そして足元から伸びた無数の触手がクレアに向かうけれど届く前にクレアを回収し、距離を取って地面に降ろした。


「ちっ……スマン! ちょっと外してしもたっ!」

「問題ない」


 残念ながらクレアの一撃は外れてしまったけれど、それでも無駄だったかというとそうでもない。泥のような体をえぐりったその一瞬に、私にも見えた。

 丸くて、クレアのまとう焔を反射して輝く宝石のような石。汚泥のような肉体の中にありながらもなお美しいと評されるだろうそれは推測するに非常に純度の高い魔素の塊であり、きっと彼の核だ。


「ちょ、ちょ……! 厄介な奴やなぁホンマにぃっ!」


 致命傷にこそ至らなかったけれど、どうやらクレアの攻撃はそれなりに効果があったらしい。また二人で別れてヒュイに向かうけれど、それまで私にばかり向けられていた攻撃がクレアの方にも割かれ始めた。

 もっとも、私と違って彼女には薙ぎ払うように触手が振るわれている。どうにも彼女は遠ざけておきたいらしい。

 だけども、これは好機でしかない。彼女に意識が向けられればその分、私に対する攻撃の手が緩むのは当然で、スカートの中に収納してあった十四.五ミリ弾を右腕へ装填していく。

 フル充填された右腕を構え、バーニアで高速移動しながら連射していく。狙いも何もあったものではないけれど、それでも魔素をまとった弾丸が黒い体をえぐり取っていって、できた穴から黒い泥みたいな血を噴き出した。傷口はすぐに埋まるけれど、ヒュイからは唸り声らしきものが聞こえるから倒すには至らなくても効き目くらいはあったらしい。


「クレア」


 私に絡みつこうとする泥をかわしながらクレアの名を呼ぶ。同時に、これまでは離れるように戦っていたけれど敢えて接近を選択。触手が顔のすぐ横を通り過ぎていき、悲しげに光る虚空となった瞳を見つめ、でもそれから私は目を逸した。

 低い位置で剣を薙ぎ、すぐに発砲。両脚を斬り裂かれ、さらに銃撃の衝撃でヒュイの体がズルリと後ろに倒れ、べシャリとまるでスライムのように体が地面に広がる。もちろんまたすぐに盛り上がって体を形成し、脚も繋がるけれど――


「そこやぁぁぁぁっっっ!!」


 クレアの渾身の一撃が振り下ろされた。

 ハンマーの先端が黒い体の中心にぶち当たり、そして泥状の肉体をえぐり取った後でこれまでとは異なる音が響いた。

 ガキィンと、明らかに硬いものを叩いた音。ハンマーの下には黒光りする核があって、その表面にヒビが走っていた。


「■■■ァァ■ァァッッッ!!」

「ノエルっ!」


 先程は露出しても瞬間的に泥が核を覆い隠していたけれど、今度はそうはならない。これまでとは違って悲痛にも聞こえる叫び声を上げて動きが止まった。

 泥がうごめく。クレアと私を遠ざけようと乱雑に触手が振り回されて、その間に泥がまた核を覆い隠そうとしていく。このような体になっても、生きることに懸命だ。でも――もう終わりにしてあげる。


「――スイッチ」


 ゼロ距離に近い位置で引き金を私は引いた。残っている弾丸を撃ち尽くしても構わないくらいのつもりで核を撃ち抜いていく。

 何度も何度も何度も何度も。マズルフラッシュが動かない私の表情を照らし、発砲音が悲鳴をかき消して、それでもなお私は引き金を引き続ける。

 やがて、核に弾丸がめり込んだ。


「これでぇ――終わりやぁぁあああっっ!!」


 見上げなくても分かる。声に反応して一歩後ろに飛び退くと、振り上げたクレアのハンマーが核へと叩きつけられた。

 キィンと、澄んだ美しい音色が迷宮内に響く。

 静寂。微かな反響音だけが木霊し、時がまるで止まったかのような錯覚を覚えて――

 核が粉々に砕け散ると同時に、ヒュイの肉体が爆ぜた。

 真っ黒だった泥のような肉体が大きく飛び散っていって、やがてそれが細かな魔素の煌めきとなってゆっくりと舞い降りていく。


「……さっきまであんなんやったのに、キレイなもんやな」


 彼女の言葉にうなずく。汚泥のような肉体だったのに、死んでしまえばこんなにも美しい。眺めているだけでも心を奪われるようで、けれどもどこか物悲しさを感じてしまうのは、この舞い降りる魔素が彼の魂だったものだからだろうか。

 足元を見下ろす。そこにヒュイの肉体は無かった。幾ばくかの泥のような塊と、そして砕け散った核だけが転がっている。

 私の足元から影が広がってそれらを飲み込んでいく。だけど、何も分からない。この砕けた核の中にはヒュイの、そしてアルブレヒトによって溶け込まされた数多の魂が入っているはず。なのに取り込んだ核から私へと伝わってくるのは莫大な魔素ばかりだ。

 彼らの記憶も、感情も、願いも、何一つ私には届かない。最期に何を思い、何を望んで、誰を想ったのか。肉体も遺留品も無いから類推することさえできない。彼らの想いを、汲むことができない。思いを馳せることができない。人であろうと、兵器であることを忘れて人のように振る舞うことができない。それが、もどかしい。

 それでも、できることはある。ヒュイが最期に私に伝えようとしていたことを調べることと、そして祈りを捧げること。亡骸も何もないヒュイが倒れていた場所で私は手を合わせた。もっとも、捧げるべき神はいないのだけれど。


「はぁ……疲れたなぁ、もう!」


 祈り終えるのを待っていたのか、私が顔を上げたタイミングでクレアが大仰に声を上げて腰を下ろした。武器のハンマーを放り出し、両手を大きく広げて倒れ込む。


「ホンマ久々や、こんなシンドイんは。ホント、堪忍やで」

「怪我はない?」

「ああ、おかげさんで。せやけど……こないなんはホンマ嫌やな」


 首を動かして、正真正銘何も無くなったヒュイの死に場所をクレアは見つめた。上半身だけ起こし、さっきまでの私と同じく祈りの形を取る。


「祈るような神さんもおらへんから形だけやけどな……せめて魂は安らかに眠ってて欲しいもんや」


 もちろんアルブレヒトが主導でヒュイは従っただけであり、彼自身は世間でいう悪人ではないのは何となく想像がつくのだけれど、それでも自分を危険に晒した相手にそう思えるところが彼女らしい。


「死んだらみんな一緒やからな。生きとったら別やけど、死んだ人間まで恨むんは疲れるわ」


 それは……そうかもしれない。

 恨み、というのは知識としてはあっても実感したことはない。だけど晴らすことのできない相手に強い感情を懐き続けるのは、彼女の言うとおり疲れそうな気はする。

 私より長く、そして深く。祈りを捧げ終えるとクレアは私を振り返り、言った。


「――帰ろか、ウチらん家に」


 いつもと変わらない調子で。








お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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