第148話 忙しいのは明日から
「それで、俺がこの街に来るように勧めたことになってるから、俺が身元引受責任者になる。外から来た者は、街の者の身元保証が必要でな。」
たしかに。ルシェリードさんに勧められて来たなら、ルシェリードさんが私の身元を1番良く知ってるってことになるよね。
ルシェリードさんに保障してもらうなら、「あやしいやつ」扱いにはならなそう。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
胸に手を当てて上体を傾ける。
こんな面倒な女の身元を引き受けてくれるんだもん。感謝してもし足りない。
「いや、これも世界の望みのうちよ。」
ルシェリードさんが目を細めて答えてくれる。
「世界の望み」ってなんだかすごい言葉。重々しい感じには聞こえないから、日本の「これも何かの縁」っていうのと似てたような表現なのかな。
そういうのもフェラリーデさんに教えてもらいたいな。
明日にでも聞いてみよう。
それにしても、ルシェリードさんの笑い方ってクルビスさんそっくり。
(当たり前か。お祖父様だもんね。)
ドラゴンとリザードマンなんだけど、やっぱりどこか似てる。
血のつながりを感じるなぁ。
ちらりとクルビスさんを見ると、こちらも微笑んでいた。
うっ。ちょっとドキっとした。心臓に悪いなぁ。
「さて、急ぐ話はこれくらいだな。今日は疲れただろう。もう休んだ方がいい。」
お気遣いありがとうございます。
でも、今は結構元気なんですよね。気を失ってたからかな?
「眠くなくても、横になってるんだよ~?いろいろあって神経がさえてるから、今夜は眠れないかもしれないし。でも、安静が1番だからね?」
ああ。それはあるかも。さっきも1人で考えてたら、後から後からいろんなこと思い出してたもんね。
おかげで桜隠しの伝説まで思い出しちゃったし。役にたったけど。
「はい。眠れなくても横になっておきます。」
わたしが安静を約束すると、メルバさんは満足そうに頷いてフェラリーデさんを見た。
「後で、リコのお茶を出してあげてくれる?蜜もたらして。」
「はい。メルはどうしましょう?」
「そうだねぇ。…ハルカちゃん。ミルクティーって好き?それともストレートの方がいいかな?」
「どちらも好きです。お茶は好きなので。」
ストレートの方が美味しいお茶もあるしね。
でも、アフターヌーンティーを楽しめるお店で、あの3段トレイと頼むならミルクティーかな。
「そっか。なら、メルも入れてくれる?その方が飲みやすいし。…甘い物は平気?」
「好きです。甘過ぎるものは苦手ですけど、果物の甘さとかはすごく好きです。」
さすがに、「生クリームは飲み物です」っていうのはわからない。…妹がそうだったけど。
あの子はよくケーキをホールで食べてたなぁ。うっぷ。
「うんうん。じゃあ、甘さは控えめにしとこうか。寝る前に飲むんだしね。」
メルバさんが頷いて、フェラリーデさんが会釈して部屋を出て行った。
これから用意してくれるんだろうな。すみません。ありがとうございます。
「ふむ。では、俺たちも出よう。ハルカ。俺はこれで中央に戻るが、何かあったらクルビスにでも言うといい。身元引受人として出来る限りのことをしよう。」
ルシェリードさんのありがたい言葉にクルビスさんが頷く。
心強い味方が出来たなぁ。頼れるひとがいるっていいよね。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
クルビスさんに向かって礼を取ると、クルビスさんも礼を返してくれた。
しばらくここにいるんだし、クルビスさんになら相談しやすいよね。助かる。
「じゃ、そろそろ出ようか。長居してごめんね。」
「ああ。ではな、ハルカ。また来る。」
「俺は隣の部屋にいる。何かあったら声をかけてくれ。」
話がまとまったところでメルバさん、ルシェリードさん、クルビスさんが椅子から立ち上がる。
私はクルビスさんの話に頷いて、皆さんをベッドからお見送りした。
明日から忙しくなりそう。
覚えることが一杯だよね。
とりあえず、メルバさんにも言われたことだし、安静にしてますか。
お茶はまだかな?




