第139話 夕食はパスタ
カッカッ
ビクンッ。
うわあっ。ビックリしたっ。
何の音っ?
ドアから聞こえる…ノック?
「はい?」
「クルビスだ。食事を持ってきたんだが、入ってもいいだろうか?」
ごはんっ。
そういえば、すっかり吐き気も収まった。お腹空いてきたなぁ。
はっ。身支度。身支度。
服はシワを適当に伸ばして、髪は…サイドテーブルにシュシュが置いてあったので、それでひとつにまとめる。顔…目ヤニとかはない。よしっ。
「どうぞっ。入って下さい。」
ガチャッ
クルビスさんが片手にお盆を乗せて、ドアを開けて入ってくる。
ドアのところに貝殻がついていた。さっきのってあれの音かぁ。
そういえば、フェラリーデさんに初めて会いに行ったときも、クルビスさんがドアに付いてた貝を叩いてたっけ。
あれ、ノッカーの役割なんだな。
そんなことを考えてる間に、クルビスさんは私の前に簡易のテーブルを出して食事を並べていく。
えっと、マカロニみたいなのに緑のソースがかかっているやつと、カラフルなサラダみたいなの、後はお昼にもいただいたフルーツの盛り合わせ。
多いなぁ。そんなに食べれないんですけど。
目を丸くして食事を見ていると、クルビスさんが説明してくれる。
「ジュノンのパスタとメルメルのサラダ。後は果物だな。パスタというのは、ケルンという穀物を粉にして、それを練って棒状に伸ばしたものだ。形はいろいろあって、これはルシェ型だな。ジュノンとはこの緑のやつでハーブを細かくしてソースにしたててある。」
…パスタだ。たぶん、私の知ってるパスタなんだと思う。
名前が一緒で驚いたけど、味も似てるんじゃないかなぁ。
「メルメルは海藻だ。浅いところに岩の間から生えてくる。色も味も個体によって違うんだが、これは…全部メルメルだな。」
このカラフルなの全部海藻なんですか。
オレンジとかピンクとか赤とか青とかいろいろありますね。
食欲…そそられるかな?
水で戻す海藻サラダがあるけど、それを写真とってすっごくカラフルに色を変えたみたい。
「果物は昼と同じものだ。…食べやすいものから食べればいい。残ってもいいから。」
クルビスさんが優しい声で言う。
…心配かけたんだろうなぁ。ご迷惑ばっかりおかけしてすみません。
さっさと食事して、もう大丈夫って見せなきゃね。
…とりあえず、パスタからいただこうかな。緑のソースは違和感ないし。
「いただきます。」
手を合わせて、フォークでパスタを刺して口に運ぶ。
…緑のソースも知ってる味だ。あれだ。バジルだ。
何か異世界のメニューの中でこれだけが良く知った料理って…。
違和感がなさ過ぎてかえって違和感がものすごいかも。
「…口に合わなかったか?無理しなくていい。果物にすれば…。」
クルビスさんがパスタの皿を下げようとするのを慌てて止める。
私のごはんっ。
「いえっ。違いますっ。故郷の料理とあまりに似ていたので驚いてしまって。」
「故郷の?昼もそんなことを言ってたな。リギヤとよく似た料理があるとか。」
「ええ。これも似たものがあります。名前も同じでパスタって言うんです。緑のソースもよく知ってる味でした。こんなに似た料理があるなんて、不思議ですね。」
「パスタは深緑の森の一族が広めたんだ。後でリードに聞いてみるといい。」
へぇ。そうなんだ。
後で聞いてみようかな?




