第123話 話さない理由 (クルビス視点)
「進まない理由がわかりました。どっちも喧嘩したことは認めてるんですが、その理由となると口を閉ざすそうです。
ただ、今連れて行かれたその子の兄貴は、さっきから話し始めたそうです。何でも、「弟が見つかったから」だと言ってるようで。」
シードの報告に祖父さんと顔を見合わせる。
そういえば、ルシンは急いで家を出たと言っていた。心配して探していたのか?
「ぼく、急いで家を出たから…。兄は何ともないんでしょうか?」
「いや?具合が悪いようには見えなかったぜ。受け答えもきちんとしてたし。」
ルシンの疑問にシードが返事をする。
何ともない?何故そんなことを…ああ、嫌な感じから逃げてきたと言ってたな。
ルシンの疑問に理由を思い当たるが、ここで口に出来ることではない。
後でルシンに確かめておこう。
「まあ、話始めたなら、ルシンの兄はそれでいいとして。
問題はヒーリだな。何があったのか…。」
「あの、ルシェリード様。降ろしてもらえますか?ぼく、兄と喧嘩した方に会ってみます。お姉さんも一緒に来て下さい。」
「ちょっとまて、説明しろルシン。何で、兄貴じゃなく、その喧嘩相手にお前が会うんだ。それに、ハルカまで。」
ルシンからの意外な提案に、祖父さんが理由を聞く。
確かに、何故、兄ではないのだろう。それも、ハルカも一緒に?
「…あの、私行きたいです。」
「ハルカ?」
「さっきから、子供の声が…。泣いてるみたいなんですけど、気になって。」
詰め所の方を見ながらハルカがつぶやく。
シードを見るが、首を横に振る。…子供の泣き声など聞こえないが。
「やっぱり、お姉さん聞こえてますよね?
ルシェリード様。兄と喧嘩した方って個立ち前じゃないですか?」
「っ。ああ。ヒーリはまだ70くらいのはずだ。」
「70っ?あれでですか?」
祖父さんの答えを聞いて、シードが驚きの声を上げる。
ヒーリは大きいからな。おそらく、守備隊の訓練生より大きいだろう。
こちらを見たシードに頷きを返すと、「あれで70…。」と呆然とつぶやいている。
まあ、信じられないだろうな。俺も久々に見て大きくなったと驚いたものだ。
「その方が泣いてるんです。お姉さんにも聞こえてるなら、一緒の方がいいです。お願いします。たぶん、ぼくと同じ状態のはずなんです。早く治してあげないと。」
「お前と同じ?まさか。」
「はい。身体が動かなくなってるはずです。どんどん悪くなってる。しゃべらないんじゃなくて、しゃべれないんです。」
「っ。シードっ。通信機でリードを呼び出してくれっ。長と共に来ていただくんだっ。」
「っ。了ー解っ。ついでに、詰め所の転移使えるようにしとくわっ。」
ルシンの予想を聞いて、即座にシードに指示を出す。
話せないほど悪化しているとなると、かなりマズい事態だ。時間が無い。




