第122話 トカゲの一族の兄 (クルビス視点)
「ああ。ルシンの兄か。」
「っ。ルシェリード様っ。ルシンっ。お前、何て所にいるんだっ。早く降りろっ。」
祖父さんがルシンの声に反応すると、ルシンの兄らしいトカゲの一族の若者は慌てて礼の姿勢をとった。
手には枷がつけられている。彼は確か…森に行く前に出会った男だな。喧嘩で手を出してしまって、詰め所に連れて行かれたはずだ。
彼がルシンの兄なのか。ルシンの魔素を見た時、もしやと思ったが…。
しかし、兄弟で同じ色を持つというのは随分珍しい。
単色のようにも見えるが…。俺の記憶にトカゲの一族で銀の単色は覚えが無い。きっと表に出ないところに違う色を持ってるんだろう。
「失礼しましたっ。さあ、すぐに戻るんだ。調書は終わっていないはずだろう。」
タージャが礼を取って、銀の若者を連れて行こうとする。
銀の若者はルシンを見た後、祖父さんに向かって礼を取り、おとなしく連れていかれた。
「あの、兄が何かしたんですか?」
ルシンが不安そうに聞く。祖父さんも聞きたそうだ。
そういえば、森に来る前のことは祖父さんにも報告してないな。…言いにくい。ルシンの兄のことだけではないからな。
「あの男は、街中で喧嘩をした挙句、手を使いました。今、詰め所で調書を取っているところです。」
「手を…。」
「相手は?」
「…ヒーリです。」
「何だとっ?」
「俺が見つけた時には、2つとも手をがっちりと組み合って硬直状態でした。引き離すと我に返ったようですが、ヒーリの方はどうも錯乱しているように見えました。
別々に調書を取るように言いつけましたが、あの様子だと、まだ終わってないようですね。」
「いつ見つけた?」
「森に入る直前ですから、2刻を過ぎたころでしょうか。」
「おいおい。もう6刻になるだろう。そんなにかかるか?」
「俺が聞いてきましょうか?このままじゃ気になってしょうがないでしょう?」
俺と祖父さんのやりとりに、シードが提案してくる。
確かに、いまだに調書が終わってないというのはおかしい。このまま北の本部に行くわけにはいかないな。
「そうだな。悪いが頼めるか?」
「お安い御用ですよ。」
祖父さんの頼みにシードは軽く返して、詰め所の中に入っていった。




