第102話 手がかり (クルビス視点)
祖父さんの傍に片膝をついて枝を見せていると、ハルカが身を乗り出しているのに気が付いた。
枝が気になるのか。
「あの…。この枝って、さっきのポムの実のあった場所から持って行かれたっていうやつですよね?」
ハルカが枝を見ながらつぶやく。まるで確認するように…そういえば、ポムの実の場所で起こったことについては俺の予想の範囲でしかないから言ってなかったな。
だが、彼女はポムの実の場所も見てるし、祖父さんとの会話も聞いている。自分でそこから情報を組み立てたんだろう。
「ああ。俺が最初に上に上がった木があっただろう?その木から引きちぎられていったやつだ。」
「そうですか…。あの、もうちょっと近くで見てもいいですか?」
ハルカが目を細めて言う。何かを良く見ようとしているみたいだ。何かついているのか?魔素に変わったところは見えないが…。
枝はかなり大きい物だったので、渡すことはせず、ハルカの顔に近づける。
「これでいいか?」
「ありがとうございます。…やっぱり、何か付いてますね。糸?でしょうか?すごく細い…。」
ハルカがつまんだのは極細の糸だった。あまりに細くて目に入らなかった。
キグスの糸か?ドラゴンの一族が好んで使うキグスの布に使われる糸だ。
キグスという蜘蛛が吐き出す糸で、丈夫でかなりの伸縮性があり、トカゲ型から本体になっても破れない。
まあ、服は本体ではさすがに動き辛いらしく、大抵は外套に使われている。
おそらく、例のドラゴンも羽織っていたんだろう。
祖父さんも気付かなかったらしく、ハルカの手先を凝視している。
「こりゃあ、キグスの糸じゃねえか。どっかでほつれたのが枝に引っかかったんだな。…繋がってるな。たどれば近いとこまで行けるかもしれん。お手柄だっ。ハルカっ。」
祖父さんが糸を視線でたどっていくのを俺も追う。確かに森に続いている。
しまった。枝を動かすんじゃなかったな。
「気にするなクルビス。キグスの糸はよほど注意してなきゃわからん。見つかっただけでもありがたいさ。
それより、礼を言う相手がいるだろう?」
祖父さんが俺の肩を叩く。そうだ。ハルカがいなければ枝はそのまま放置してただろう。
彼女の方を向いて礼をとる。この形だと最上礼になるが、それに値する発見だ。
「助かった。ハルカ。この極細の糸をよく見つけてくれた。感謝する。」
「たまたま目に入ったんです。お役に立ててよかったです。」
微笑む彼女を見ていると、自然に頬が緩む。
そのやりとりの後、ハルカは腰を浮かして俺の傍にしゃがみ込んだ。もちろん、キグスの糸は持ったままだ。
彼女が自然に俺の傍に来てくれることに喜びを感じる。
視線を感じて顔を上げると、祖父さんがにやにやとこちらを見ていた。しまった。今の顔を見られたか。
「この糸どうしましょう?離しても大丈夫ですか?」
「いや持っててくれるか。糸だけだと、景色に溶け込んでわからなくなる。魔素を通せば辿りやすい。」
「魔素を…通す?」
「それは俺がやろう。ハルカは糸を持っててくれればいい。」
祖父さんの提案に俺が修正を加える。
俺の返事を聞いて、祖父さんが不思議そうな顔をしていた。
「ハルカは『魔法』は使えないのか?」




