第98話 捜索開始 (クルビス視点)
「ドラゴンの魔素に充てられて、ずいぶん弱っていたので魔素で活性化させました。
折れた枝の周辺には紫と薄青と銀の魔素がかなり強く残っていましたから、あの周辺の生き物は軒並みやられたでしょう。
このヒナの親も逃げたようで、透視の範囲を広げても周囲には見つかりませんでした。おそらく、ヒナのことは諦めたのだと思います。」
「それが、あの共鳴か。何事かと思ったぞ。それもクルビス、お前のだったしな。」
ヒナに関する報告を聞いて、祖父さんがぼやく。
祖父さんの驚きももっともなことだ。共鳴を行えるのは伴侶だけ。それも、魔素の質と量がある程度釣り合ってないと行えない。
俺の場合、魔素が強すぎて伴侶を持てないだろうと言われていたからな。俺自身、1つきりで生きていくのだと思っていた。
祖父さんにも、昔、無理に伴侶を持つつもりはないし探す気もないと、きっぱり言ったことがあるくらいだ。
そんな俺が共鳴していたら、何があったのかと驚いて当然だ。
たぶん、そう時間を置かずに母の耳にも入るだろうな。ハルカを見に押しかけてきそうだ。
「おとなしく、懐いたようなので連れて行くことにしました。親がいないなら、放置するわけにもいきません。」
「そうだな。ヒナを狙って猛獣が押し寄せても困る。確かに、ずいぶんおとなしいヒナだ。これだけ小さいなら、飼育に問題もないだろ。」
ヒナを連れて行く旨を告げると、祖父さんも賛同してくれた。
セパのヒナは肉食の猛獣によく狙われる。肉が柔らかく、香りがいいからだ。
そのため、産毛が鱗に変わってそれが硬化するまで、母親はヒナから離れない。
…ハルカがこのヒナに会った時に、傍に母親がいたはずなんだがな。ハルカはヒナのことしか言わなかった。会っていないということか?
まあ、どの道、このヒナも放置すれば自力でエサも探せず野たれ死んでいただろう。そして、その肉をねらって普段はポムの木に近寄らない猛獣たちが近寄ってきたに違いない。
間に合ってよかった。もし手遅れなら、今頃猛獣に囲まれていたかもしれん。
「手に持ったままじゃ、何かと不便だろ。これに入れておくといい。」
祖父さんが腰から袋を取り出した。普段、間食や薬をいれているやつだな。たしか、お祖母さまの手作りだ。
しっかりした作りで、一見革製の小箱に見える。ヒナが薬の匂いを嫌がらないか?
「ピギッ。」
ヒナは手の平に乗せられた袋に近づくと、袋に顔を突っ込んで、そのまま中に入ってしまった。
すんなり入ったな…。中に何かあったのか?
「竜眼草の実を入れてあるからな。中でおとなしく食ってると思うぞ。」
「ああ。それで。…ハルカ、竜眼草はセパの好物だ。食べている間はおとなしくしてると思うから、今のうちに腰のテラに袋を結びつけるといい。」
祖父さんの話に納得して、ハルカに袋を取り付けるのを提案する。
俺の話を聞いて、ハルカは自分のテラに袋を結び付けていた。フタは開けておくようだ。零れ落ちなければいいが。
「付けたらしがみついててくれ。今までとは速度が変わる。」
「さて、準備はいいかな?」
祖父さんがハルカに聞くと、彼女は俺にしがみついてこくりと頷いく。
俺も祖父さんが来てから弱めていた透視の範囲を広げ、小さい動物がいても引っかかるくらい魔素を練り上げる。
「いくぞ。」
その言葉をきっかけに、俺と祖父さんは捜索を開始した。




