第95話 驚きの事実 (クルビス視点)
「ポムの小道の途中でポムの実が大量に生っている場所があります。ハルカはそこで頭上を通り過ぎるドラゴンを見たそうです。」
俺の言葉にハルカが首を縦に振る。
その様子を見ながら、祖父さんが話の続きを待っている。とりあえず、最後まで聞くつもりらしいな。
「その際、強烈な風が巻き起こったらしく、目を開けていられなかったとか。どうも、ポムの木に接触する程の低さで飛んでいたようです。おそらく結界内を飛んでいたのではないかと思われます。
先程そのポムの実が生っている場所を確認してきましたが、上の方の枝が折れていて、ポムの実のついた枝が引きちぎられていました。」
「まて、何故実のついた枝を持っていったとわかるんだ。」
「他のすべての枝に実が生っていたからです。」
祖父さんの疑問に即答すると、二の句が継げないようだった。
信じられないだろうな。俺も自分の目で見てなければとても信じられない話だ。
「何より、彼女が見ています。彼女がドラゴンを見た時は枝は折れていなかったそうです。」
「ハルカ殿が?」
「っ。はいっ。急に、暗くなって、強い風が吹いて、何かが羽ばたく音がしたので、上を見上げたんです。その時はどの枝も折れていませんでしたし、枝と言う枝に実が生っていました。」
「…ハルカ殿はドラゴンの姿を見たのかな?」
「…いいえ。あっという間でしたし、ポムの木で良く見えませんでした。私が見たのは銀色の鱗と大きな影だけです。」
ハルカが事実だけを報告する。祖父さんは否定が返ってきたことに意外そうな顔をしていた。
自分の見たものだけを答えるのは難しいことだ。時間が経つ程、思い込みが入ってしまう。それを踏まえて、祖父さんは彼女の魔素を確認したみたいだが、問題なかったようだな。彼女には驚かされるばかりだ。
「銀の…それは確かかな?」
「はい。間違いありません。私がこの森で会ったのは、この子とクルビスさんとその銀の鱗の生き物だけです。」
「そうか…。そのドラゴンはどこに飛んで行ったのかな?」
「この方向です。私が進んでいた方角と反対に飛んでいきましたから。」
ハルカの指さした方向を向いて、祖父さんが顎に手を当てる。考え事をする時の癖だな。今の情報と自分の探した範囲を照らし合わせているんだろう。
数瞬の後、俺の方を向いてこう言った。
「ハルカ殿と共に来てくれないか。…俺が探しても見つからんのだ。」




