第87話 残された爪痕 (クルビス視点)
銀…か。これは、完全にハルカの言っていたドラゴンの仕業だな。
ハルカが見た時は通り過ぎただけだったんだろう。
それが、一度戻ってきて、ポムの実を取った。
だが、本体のまま戻ってきて、ヒト型に戻らずにあの巨大な足で枝を引きちぎったようだ。
…頭が痛くなってきた。
ポムの木を傷つけることは禁じられている。破れば、禁固200~300年はくらう。
中等学校の生徒でも知っていることだ。
だが、俺の視線の先にある枝は無残な有り様だ。
結界内を飛んでいたことからも子供だろうとは思っていたが、もしかするとかなり幼いかもしれん。
中等学校からは職業訓練と街の外のことを学んでいくが、幼年学校までは主に自身の力の調整とルシェモモの街のことを学ぶだけだからな。
森についての知識の無さから見て可能性は高いだろう。
そこまで幼い子供となると、無事かどうか心配になってくる。
というか、保護者は何やってんだ。こんな物を知らない子供をふらふらさせて。
しょうがない。
調査と捜索を同時に進めていくしかないな。
さっき、ルシェリードの祖父さんが集落の方に飛んで行ってたな。要件はおそらくこのドラゴンのことだろう。
祖父さん自らってことは、かなり力のある子供ということか?
しばらくしたら、こっちに探しに来るかもしれないな。
もし会えたら、ついでだ。ハルカを紹介して事情を説明しておこう。
俺の保護だけでは足りないかもしれないしな。
祖父さんの保護があれば、深緑の森の一族は手を出さないだろうし、ハルカを伴侶にする際の言い訳がたつ。
俺に隠れて、勝手に伴侶探しをしていたのは知ってるからな。
かなり遠方で見つけたとでも言えば、彼女がこちらのことを知らないのも多少風変りなのも納得されるだろう。
彼女の故郷についても、種族についても口外するわけにはいかないからな。
深緑の森の一族の長にも口裏を合わせてもらえれば、深く追求されることはないだろう。
にしても、この木は早急に治療がいるな。俺の調整では焼け石に水だろうが、しないよりはましだろう。
調整には両手を使うから、ハルカを降ろさないといけないな。降ろしたくはないが、仕方ない。
「ハルカ。ポムの木に応急処置を施す。降りて、しばらく待っていてくれるか?」
「あ、はい。」
観念してハルカに言うと、彼女は快く頷いてくれたので、そっと降ろした。
状況が状況だから、あまり離れるのはマズいだろうな。出来るだけ俺から離れないようにしてもらおう。
「なるべく俺の近くにいてくれ。何があるかわからないからな。」
俺が言うと、ハルカは固い表情で俺を見て頷いた。
「わかりました。」
怖がらせる気はないが、この場所も状況も常とは違っている。
警戒するにこしたことはないだろう。




