第84話 森の異変 (クルビス視点)
あれは…ポムの実か?かなりの数が生っているな。
ハルカを見ると、まだ周りを観察していてポムの実には気付いていないようだった。
ヒト族は目が利かないとリードは言っていたが、どれくらいなんだろうか。確認しておいてもいいだろう。
「ハルカ。道の先にポムの実が見える。あれがハルカの言っていた場所か?かなりの数が生っているな。」
俺が言うと、ハルカが前方を見る。
よく見ようとしたのか身を乗りだそうとするので、慌ててバランスを取る。
「そう…だと思います。私には黄色い色の塊にしか見えないんですけど、ここには他に黄色いものって無いですもんね。」
実が生っている様子まではわからないのか。だが、大まかになら何があるかわかるようだな。
昼間の視界に関しては深緑の森の一族と変わりないようだ。後は、暗くなってからどれくらい見えるかだな。
彼女の様子を確認してから、俺はもう一度前方のポムの実の様子を見る。…本当に数が多いな。
観察しながら、頭の芯が冷えていくようだ。嫌な感じがする。
ポムの木がこれほどの実を1度に実らせるなど、聞いたことも無い。
ポムの実は通常の実とは異なり、自らの種を残すために生るのではない。
ポムの木が溜めこみ過ぎた魔素を体外に放出する手段として実を作るのだ。
そのため、実をつけたのが木1本のうち1枝だけというのもよくある話で、実の数もせいぜい数個から十個程度だ。
そのポムの実が特定の場所で、さらにその場所に生えているすべてのポムの木の枝に生っている…。
異常だ。落ち葉どころの騒ぎではない。これは、明らかな異常と言えるだろう。
しかも、枝が幾つか折れている。
これもおかしい。
「どういうことだ。」
思わず口に出してしまう。だが、それも仕方ないことだった。
ポムの小道でポムの木を傷つけることは出来ないはずだからだ。
「ハルカ。悪いがポムの実の所まで急ぐ。」
「わかりました。」
腕の中のハルカに声をかければ、俺の様子から何か察したのかすぐに了承の返事が返ってきた。
彼女の聡明さに感謝しながら、先を急ぐため足を速めた。




