『赤いランプの国で、私は黙らない』
最新エピソード掲載日:2026/01/14
祝杯と、最後の原稿
机の上に、白い紙が一枚だけ残っていた。
番組を降りて十年。ようやく書き上げた連載の最終回――その最後の一段落を、高槻 宏(たかつき・ひろし)は自分の声で確かめていた。
“読む声”で生きてきた。
ニュースも事件も戦争も、同じ温度で口に乗せる訓練を、若いころから身体に染みこませてきた。声は便利で、残酷だ。便利であるほど、残酷になる。
編集者から届いた祝杯のワインは、まだ開けていない。
開けた瞬間に、何かが終わってしまう気がした。
スマホが震えた。知らない番号。
出ると、機械みたいに整った声が短く言った。
「高槻さん。あなたが黙った夜の“続きを”持っています」
喉が冷たくなる。
十年前――生放送で、彼は黙った。数分。原稿を前に、声が出なかった。
世間は“演出”と言い、英雄にしたがった。高槻は何も言わなかった。言えなかった。
通話は切れ、代わりに音声が送られてくる。
白いノイズ。擦れるような音。
その奥に、自分の声。
『……ここから先は、言えない』
机の上に、白い紙が一枚だけ残っていた。
番組を降りて十年。ようやく書き上げた連載の最終回――その最後の一段落を、高槻 宏(たかつき・ひろし)は自分の声で確かめていた。
“読む声”で生きてきた。
ニュースも事件も戦争も、同じ温度で口に乗せる訓練を、若いころから身体に染みこませてきた。声は便利で、残酷だ。便利であるほど、残酷になる。
編集者から届いた祝杯のワインは、まだ開けていない。
開けた瞬間に、何かが終わってしまう気がした。
スマホが震えた。知らない番号。
出ると、機械みたいに整った声が短く言った。
「高槻さん。あなたが黙った夜の“続きを”持っています」
喉が冷たくなる。
十年前――生放送で、彼は黙った。数分。原稿を前に、声が出なかった。
世間は“演出”と言い、英雄にしたがった。高槻は何も言わなかった。言えなかった。
通話は切れ、代わりに音声が送られてくる。
白いノイズ。擦れるような音。
その奥に、自分の声。
『……ここから先は、言えない』
『赤いランプの国で、私は黙らない』
2026/01/14 10:17