3.冬の村を見て回ろう(1)
しかしまあ、これもやっぱり考えてもしゃーないこと。やれることはやったのだ。
これ以上今の私にできることはないわけで、あとは野となれ山となれ。今時点で心配しても、どうにもならないことなのである。
なので、一応は走り出した水際対策は置いておいて、今は他にやるべきこと、できること。
病気関連以外で、対処しなければならない村の問題点を洗い出すことにしよう。
そういうことで、本日は村の見回りです。
診療所兼病室を無事に完成させた翌日。昨日に引き続き、ちらほらと雪の降る薄曇りの朝。
私はもこもこの冬用外套を着こんで屋敷の門の前に立っていた。
まだ本降りというほどではないとはいえ、屋敷の前庭にはうっすらと雪が積もっている。
地面には霜が降り、歩くたびにクシャクシャと音が鳴る。吐く息は白。頬に当たる風は冷たく、染みるように痛い。
王都だったら、真冬と言ってもいい寒さ。だけどここではまだまだ序の口だ。
暦で言えば十月中旬。本気の冬は、あと二か月ほど先である。
――今でこれじゃ、真冬になったらどうなるのかしら。
ノートリオ領での冬は初。これからますます寒くなり、ますます瘴気も濃くなっていくという。
しかし最悪の事態を想定しようと思えども、どこまでいったら『最悪』なのかがわからない。この手探りのような感覚は、まさしく初見プレイ。ひやりとする怖さがありつつも――たいへん不謹慎ながら、正直ちょっとワクワクしてしまうのがゲーマーの性。
なにせ、この『なにが起こるかわからなさ』こそが初見プレイの醍醐味なのだ。
攻略サイトも見ず、実況プレイも見ず、通販サイトのレビューも見ずに突貫。知らないゲームシステムに四苦八苦しながら、次々に起きる初見イベントを浴びることほど面白いことはない。
ま、普通にプレイしていたらだいたい理不尽なイベントの暴威に屈する羽目になるんですけどね。それもまた楽し――とは思うけども、今回ばかりはそうはいかない。
死者一人を出した時点でゲームオーバー。今はそれを念頭において、慎重に行動しなければならないのだ。
本日の見回りは、その慎重な行動の一環。未知のイベントに備えよう、というのが目的だ。
たしかに、初見で起きるイベントは理不尽極まりない。しかし慣れてくると、イベント前の予兆というものが見えてくる。
だいたいどんなきついイベントも、事前に何かしらのフラグがあるもの。
むしろきつければきついほど、前もって準備期間を設けさせてくれるのが良いゲーム。
果たして現実さんが良ゲーかどうかに疑問の余地はあるものの、これから待つ厳冬期に向けて、すでになにかしらの懸念点が出ている可能性があった。
すなわち、現時点で見えている違和感。問題点。ちょっとした不満点。なにやらこまごまとした気になること。
こういったものを、それぞれの仕事場にお邪魔していろいろ見聞きをしようというのである。
というあたりで、はいじゃあ出発前に最終確認。
本日の予定を復唱させていただきます。
まず同行者。ヘレナと護衛一人。
護衛がついているのは、さすがに外を無防備には歩けないからだ。私としては護衛は全員狩りに回したかったけど、護衛からもヘレナからも断固として許可が下りなかったので仕方ない。
それから本日のスケジュール。
最初の訪問地は、魔物の狩場となっている旧村だ。
早朝に屋敷を出る狩猟班に同行し、村の様子がどうなっているかを確認する。
その足で草原に向かい、屋敷周辺で草をむしっている採集班の仕事を見学。ここまでが午前中にすることだ。
いったんお昼休憩を挟んで、その後は屋敷内の作業班をそれぞれ確認。
最初は家事・子守り組をちらり。それから雑用係の様子を窺い、続けて動き出したばかりの医療班の様子も見ておく。
最後に、採取作業を終えた女衆が夕食の準備をしているであろう厨房へ。魔物の処理や調理の様子を見て、本日の予定はすべて終了である――。
「――――だ、そうだよ! みんな、ちゃんと聞いたね!?」
と、復唱を終えたところでなにやら部外者の声がする。
続けざまに聞こえたのは、「はーい!!」と実に元気のいいお返事。
――…………うん?
屋敷の門の前には、私たちと同行する狩猟班。
その横で、最終確認をする私とヘレナと護衛一人。
加えて謎の部外者、もといなぜかいるマーサと――――。
なにやら視界の端で蠢く、三つほどの小さな影。
村の三人の子供たちに向けて、マーサは「ぱん!」と大きく手を叩いた。
「それじゃあ、行っておいで! 久々の遠出だからってあんまりはしゃぎすぎないで、ちゃんと領主さんの後をついて行くんだよ!!」
………………。
もしかして、これ遠足と思われてます?




