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25.来る冬に備えよう(4)

 墓穴を掘り続けること、さらに三日。

 報告に受けた通り、その日の夕方には家々に放置されていた遺体の埋葬を終えられた。


 狩人の割り当てを減らしたため狩りの成果は激減したけれど、野営地バイトの女衆のおかげでギリギリのところで食糧供給は維持。野営地バイトの分だけ減った女手の分も、多少の効率は下がったけれど大きな問題はなし。


 雑用係の男衆に頼んでいたものも出来上がり、取引で頼んでいたものも手に入った。


「…………あんた、こんなものどうするんだい?」


 とマーサが疑わしげな目を私に向けていたけれど、それはやってみてのお楽しみだ。

 夕食時に明日の予定をざっくり話し、その後に護衛たちと数人の狩りの得意な村人たちだけ呼び寄せて内緒話をこそこそこそ。

 頬を強張らせる彼らの顔は見ないことにして、とにかくこれで下準備はおしまいだ。


 本番は明日。果たして吉と出るか凶と出るか。

 ここが冬前最後の大一番。ゲーム的には花形シーン。RTAで言うなら掟破りの新チャート。これまでの常識を覆す新グリッチで、発見者俺、というやつだ。

 ならばここは。やはりゲーマーとしてはニヤリと笑ってみせるべきだろう。


 さあて、やりますか!!!!


 〇


 翌朝は重たい曇り空だった。

 草原から吹く風は、肌が痛むほどに冷たい。吐きだす息は白く、いつまでも消えることなく空へと昇っていく。

 湿り気を含んだ空気は、いつ雨に変わるかわからなかった。

 あるいは次に空から降るのは、雨ではなく雪なのかもしれない。そう思わせるほどに、もう冬は間近まで迫っていた。


 十月上旬。領主として村へ来てから、およそ二週間。

 冬を目の前に控えた村は今、吐きだす白い息さえ恐れるように、ひっそりと呼吸を潜めていた。


 村を、耳の痛むような静けさが満たす。

 足音一つ聞こえない。物音一つ響かない。吹き抜ける風の音さえ、草原を覆う厚い雲に呑まれて消えていく。

 まるで時が止まったかのような静寂の中――――。


 不意に、細い音が響き渡った。


 距離は遠く、音はかすか。だけどこの静寂の中には、たしかに響く甲高い『金属音』だ。


「――――来た! この音、東の集会場近く!」


 村の中心で息を潜めていた私は、聞こえた音に声を張り上げる。

 命じるのは、同じく息を呑んでこの瞬間を待っていた護衛たち。加えて、腕に自信のある数人の村人たちだ。

 彼らの手には、各々武器が握られている。どれも獣狩りに適した、長槍や弓の類だ。


「みんな配置につきなさい! 向かうべき場所はわかっているわね!? まずは手筈通りに追い詰めるわよ!!」


 音の余韻が消えるより早く、耳に届く馬の足音。時折聞こえる嘶き声。

 そして、それらの音を追いかける苛立たしげな獣の咆哮。

 満ちていく緊迫した空気に、人々が息を呑む。


 恐れ、不安、緊張と動揺。縋るように武器を握り、瞳を揺らす彼らへ向けて、私は口角を持ち上げて見せた。

 震える指先は見せない。逸るような心臓の音は悟らせない。心の中でだけ深呼吸をすると、私は大きく胸を張る。


「大丈夫、村の中であれば私たちの方がよく知っているわ! ――――さあ、魔物狩りを始めましょう」


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