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23.取引の内容を確認しよう(1)

 前世の知識があったとて、前世の人格があるわけじゃない。

 私は生まれついての王女アレクシス。愛のない政略結婚によって、誰からも望まれずに生まれた子供だ。


 母に抱かれた記憶はない。

 父に触れられた記憶もない。

 私を育てたのは、私を疎みつつも仕事には律儀だった乳母と数人のメイドたちだ。腫れ物に触るように遠巻きに、必要最低限の接触と会話だけで育てられた私は、もうじき四歳になるというころまで自分の名前も知らなかった。


 当時まだ十五歳だった鈍臭い下級貴族の娘が、誰もが嫌がる私の侍女を押し付けられるまで、誰も私の名前など呼ばなかったからだ。


 だけどそれを、悲しいと思ったことはあっただろうか。

 辛いとか、苦しいとか、不幸だと思ったことなどあっただろうか?


 ――わからないわ。


 気味が悪い。可愛げのない。子供らしくない、不気味な子。

 なにを言われても気にならなかった。それは否定する気にもならないほどに、紛れもない事実だった。

 そして私は、そのことを誰よりも自分自身で理解していた。


 前世の知識もそう。子供らしからぬ考え方もそう。並の大人よりも、はるかによく回る口もそう。

 私は普通ではない。誰からも望まれないのに、奇妙な天賦だけは与えられてしまった。


 これを才能と言うのなら――そう。

 私は才能がありすぎたのだ。


 同じ年ごろの子供よりも、十以上年長の異母兄姉たちよりも。

 私の一年後に生まれ、母の愛と期待を一身に受けた実の弟よりも、ずっと。


 〇


 しかしまあ、そんな才気あふれる優秀な私も、前世知識によってすっかりスポイルされて、今ではすっかりこの通り。

 暇だし娯楽もないしということで、前世のゲームのことばかり考えていたのが悪かった。脳の容量をほとんどゲームに奪われて、かつての神童ぶりは見る影もない。

 二十歳過ぎたらただの人、とは言うものの、早熟な私にとっては七つも過ぎればただの人。なんでもゲーム感覚で生きているうちに、嫌われないようにしようとか上手く立ち回ろうとか考えることもしなくなり、異母兄姉の手回しでいつのまにやら僻地行き。

 まあでも結果オーライと、寒村で開拓生活を楽しむ廃ゲーマーになってしまったわけである。


 そんなこんなで、今日も元気に開拓日和。

 まずは村の女衆に、先住民との取引についての打診から。




「――お、男しかいない蛮族のために、私たちに働けですって!?」

「鬼! 悪魔! なんてむごい!!」

「こ、これが村のためなら、わたしはたとえ蛮族にも……この身を……っ!!」

「待ちな! あんた一人を行かせられない! 連れて行くならあたしを連れて行きな!!」


 はい阿鼻叫喚。


 草集めの面子の中から数人ほど派遣できないかと、朝も早くから訪れた集会場。

 すでに作業を開始していた女衆を集め、昨日の取引についての話題を出した途端、響き渡るのは予想以上の反発の声だった。


 あちこちから上がる悲鳴に、私を罵る無数の声。泣き崩れる若い女と、それをかばう年配の女。

 中でも、特に反発著しいのが彼女である。


「あんた、意味を分かって言ってるのかい!? 子供だからって容赦しないよ!!」


 と立ち上がって私に詰め寄るのは、以前ここを訪ねたときにも突っかかって来たおば……もとい中年のご婦人だ。

 名前はたしか、マーサとか言ったはず。村に来てからもう数日。そろそろ私も村人の顔と名前を覚えてきた。

 ついでに言うなら、彼女の年齢は今年で三十七。夫と二人の子供と入植したけれど、昨年の冬に三人とも失くしてしまった。

 今は独り身で、村の中では比較的年長なこともあってか、若い女性たちの世話役を買って出ているようだ。

 要するに、なんだかんだで面倒見がいいタイプなのである。


「他の娘たちに手出しはさせないよ! 連れて行くならあたしを連れて行きな!!」


 そんなマーサが、若い女たちを守るように私の前で腕を組む。

 そのまま私をぎょろりと睨みつけ、脅すようにこう叫んだ。


「ただし、あんただけを無関係ではいさせないよ! 蛮族のところへ行けって言うなら、その首根っこを引っ掴んででも道連れにしてやる!!」

「いいわよ」

「さあ、さあ、どうするんだい! あたしは今すぐにでも――――は?」


 は? とマーサが目を見開く。

 先ほどまでの威勢の良さも消え、唖然と瞬く彼女を見上げ私は軽く肩をすくめてみせた。


「いいわよ、一緒に行きましょう。今すぐに」


 なんといっても、昨日の話し合いは半端に終わってしまったのだ。

 取引の商品についても確認しないといけないし、交換レートも決めなければいけない。

 ついでに女衆の顔役であるマーサを引っ張って、さっそく顔見せといこうではないか。


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