表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の幼馴染が魔王でドS!  作者: めらめら
第1章 覚醒!
7/18

魔王覚醒!

 はあ、はあ、はあ……

人通りのない暗い公園の沿道を、せつなとメイアが息を切らせて走っていく。


「せつな君……!逃げるって……何処に?」

 そう訊くメイアに、

「……わかんね!とりあえず……『家』だよ!明るいとこ!人のいるとこ!」

 必死でそう答えて、当て途なく走っていくせつな。だが、その時、


 ぼふっ!


 公園の生け垣を突っ切って、沿道に何か転がり出てきた。

「おわ!」

 思わず立ち止まるせつなとメイア。


「ゆ……UMA(ユーマ)ぁ!」

 せつなは目を見開いた。

なんということだろう。

 転がり出てきたのは、先程公園の中の『何か』に飛びかかっていった、藻爺(モージ)と名乗った毛玉だった。

緑色の繊毛に覆われた全身が、何かによってズタズタに引き裂かれ、道端に転がり、苦しげに体を震わせているのだ。


「メイア様……!面目ない、やられてしもうた……!」

 藻爺(モージ)が弱々しくそういった。


「……いや!UMA(ユーマ)さん!」

 メイアもまた悲鳴を上げた、その時。


 ずさり。


生け垣を踏みしだいて、公園の闇の奥から『何か』が現われた。


「で……でかい!」

 せつなは『そいつ』を見上げて、息を飲んだ。

沿道に立ち現われたのは、一見はホームレスと思われる、ボロ着を纏った壮年の男。

だがせつな達を見下ろすその身長は、2メートル近くもある。


「……うむぅ、『魔気』の匂う奴を、片っ端から『喰って』も良いとのお達しだったが、本当に『こいつ』でいいのか?」

 男が、自分に言い聞かせるようにそう言って、首をかしげた。しわがれたその声は、間違いない。さっき公園の奥から聞こえた、あの声だ。


男が、のっそりとせつなとメイアに向かって歩いてきた。


「メイア様!逃げなされ!逃げなされ!」

 道端から必死で叫ぶ藻爺(モージ)。だが、その時には既に……!


「ひぃ!」

 男の方に向き直ったメイアが、引き攣った悲鳴をあげた。


「う、嘘だろ!」

 せつなもまた、愕然として足が竦んだ。


 むくむくむくむく……


 二人に近づいてきた男の体が、見る見る『膨れ上がって』いく。

ボロ着を内側から引き裂いて現われたのは、茶色い剛毛に覆われたぶ厚い胸板。

胸板同様に剛毛に包まれていくその手足からは、何本ものねじくれた、鋭い爪が飛び出した。

そして、その貌は、その貌は、口が耳まで裂けていき、中から覗いた真っ赤な舌と鋭い牙!


「ぐおおおおおおおおお!」

 『変身』を果たした男が、夜空を仰いで咆哮した。

その姿は、二本の脚で立った身長2メートルを超える、巨大な狼だった。


「わ……人狼(ワーウルフ)……!」

 せつなは、眼前で起きた怪事が、未だに信じられなかった。


「グワオ……!やっぱり、ただの人間のガキじゃねえか……まあいっか『おやつ』がわりだ……」

 二人の眼の前にやってきた人狼が、呻りを上げながらそう言って、右手を振り上げた。


「だ、だめだ!」

 我に返ったせつなが、咄嗟にメイアの前に出ると、スクールバッグを人狼にかざす。だが、


 ざくっ!


 人狼の一撃は強烈だった。鋭い爪がスクールバッグを三つに引き裂き、せつなは、街路の電柱むかって弾き飛ばされた。


「うわああ!」

 悲鳴をあげて飛んでいくせつな。ごち!電柱に体を強打して、彼はアスファルトに転げた。


「そんな!せつな君!」

 メイアも悲鳴をあげて、せつなに駆け寄った。

「逃げろ!逃げろってメイア!」

 痛みで動かない体で、必死にメイアにそう言うせつな。再び人狼が迫ってくる。


 と、その時。……ぴたり!メイアの震えが止まった。


「……せつな君!」

 せつなを見下ろすメイアが呟く。その声は悲壮。その目には覚悟。


 たん!メイアが人狼に向き直った。


「来いよバケモノ!あたしが狙いなんでしょ!」

 メイアが人狼に叫ぶ。


「せつな君に手を出したら、許さないから!」

 メイアが、せつなの前に立ち、人狼にむかって両手を広げた。


「やめろ!やめろってメイア~!」

 せつな必死で叫ぶも……!


「ぐるぁああああああ!」

 人狼が再び、メイアに右手を振り下ろした。


 ざしゅっ!


 鋭い爪が、メイアの胸に突き刺さった。


「メイア~~~!」

 せつなの悲鳴。

「メイア様~~!」

 藻爺(モージ)もまた絶叫。



 だが…………!次の瞬間!



 ごおおおお!


 何だ?人狼が不審に首をかしげた。その時、


引き裂かれたメイアの胸から、蒼黒く光る『何か』が噴き上がった。


「うぉおお!」

 咄嗟の事に戸惑いの吠え声をあげた人狼が、彼女の胸から己が爪を引きぬいた。


「あ……!」

 せつなは思わず声を上げた。

メイアの胸から噴き上がり、人狼の右手を包んでいるのは、炎だった。

蒼黒く不気味な紫光をチロチロとゆらめかせた、奇怪な炎なのだ。


「ぐ……がぁぁあああああ!」

 人狼が苦悶の声を上げた。怪物の右手に目をやったせつなは更に仰天した。


 ぴきぴきぴきぴき……

炎に包まれた人狼の手が、白い湯気を上げながら、固まり……凍ってゆく!


 何が起きたのだ!?

せつなはただ唖然として、メイアの背中を見ているしかなかった。


 炎の勢いが止まらない。

メイアの紺碧のブレザーが、純白のブラウスが、彼女自身の体から吹き上がった蒼黒い炎に包まれて、見る見るうちに燃え落ちて行く。

「わわ!」

 炎に覆われながら一糸纏わぬ姿となったメイアの背中から、せつなは慌てて顔をそらした。だが……


 更に奇怪な事が起きた。

メイアを覆った炎が、彼女の裸身を舐めるように這いまわりながら、寄り合わさると、やがて彼女を包む新たな『衣服』を形成していったのだ。


 ……おお!


 華奢な肢体をピッチリと覆っているのは焔模様(ファイヤーパターン)をあしらった漆黒のボンテージスーツ。

その背中に纏っているのは、闇色に艶かしくたなびいたビロードのマント。黒髪のショートカットの周囲からパチパチと飛び散っているのは、紫色の輝く稲妻。


「ふぅぅぅぅう……!」

 メイアの口から、溜息の様な、歓喜の様な、凄艶な息吹きが漏れた。


「……まったくせつな!女一人も護れぬのか……このヘタレが!」

 メイアが、せつなの方を振り向いて、冷然とそう言った。


 ……別人だ!せつなは全身が総毛立った。

貌立ちこそ以前のメイアと全く同じだが、せつなを見下ろす表情はまるで獲物を見下ろす猛獣のそれ。

そしてその瞳は、緑色に冷たく煌いていた。


「おお……!メイア様!ようやく『お目覚め』に!」

 道端に転がった藻爺(モージ)が、感極まった声をあげて体を震わせている。

 

 せつなは、先程の藻爺(モージ)の言葉を反芻していた。


「ま……『魔王』メイア……!」

 彼は、我知らずそう呟いていた。


「や……やはりこいつが……!『闇吹雪(やみふぶ)くメイア』!」

 人狼が、右手をおさえながらメイアを睨み、猛然と呻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ