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俺の幼馴染が魔王でドS!  作者: めらめら
第1章 覚醒!
6/18

襲撃

「あーん?」

 せつなが眉をよせる。

毛玉が発した意外な一言。


 ……こいつ、メイアの名前に反応した?

毛玉を捕えたせつなの手が一瞬ゆるんだ、その隙をついて、


 もふん!

毛玉の姿が瞬間、倍くらいに膨れ上がった。

猫が毛を逆立てるように、全身の繊毛をピンと伸ばしたのだ。


「おわああ!」

 面食らって、咄嗟に手を放してしまったせつな。


 ぼよーんっぼよーんっ

地面に落ちた毛玉が緑の体を弾ませて、せつなから逃げて行く。


「ごらあ!逃げんな!」

 慌てて捕まえようとするせつなだが、四方八方に跳ねまわる毛玉になかなか追いつけない。


「メイア様!」

 毛玉が再びそう言って、メイアの方に弾んで言った。


「うそ……!あたしの名前……!」

 公園の柵ごしに呆然と立っているメイアの足元に、毛玉がやってきた。


「メイア!捕まえろ!踏みつけとけ!」

 そう叫んでメイアのもとに駆けてきたせつなだったが、その時。


 ぴょろりんっ!

「あ……!」

 メイアは面食らった。

毛玉の体から、何かが生えてきたのだ。

その全身と同様緑色の、細長いモールのような『手足』だった。


 ぱちり。

更に驚くべき事に、毛玉が『目』を開けた。

ボール状の胴体の真中に二つ並んだ金色のつぶらな目が、メイアを見上げた。


「メイア様!お探ししましたぞ!なぜ十年もお姿をくらませて!この(じい)にまで……!」

 毛玉が、細長い手足を振り回しながら、メイアにまくしたてる。


「……おい、いったい何言ってんだ?」

 メイアの側まできたせつなが、訝しげにメイアを見る。


「さ……さあ?誰かと、人違いしてる?」

 メイアも首をかしげる。


「メイア様、なぜいつまでもそんなお姿で?『接界』が始まるまで、もう時間がありませんぞ!」

 毛玉が、金色の眼玉をパチクリさせながら繊毛を震わせる。


「この街にも『魔気』がいくつも……他の『魔王衆』もすでに動き始めておりますぞ!さあ、早く放魔の儀を!」

 先程までもみ合っていたせつなを意に介する様子も無く、なおもメイアにまくしたてる毛玉だったが……


「おい!」

 せつなが、毛玉の体を背後から踏みつけた。


「むぎゅっ!……このガキ!何をしおるか~!」

 せつなに気付いてジタバタする毛玉を、彼は再び両手で掴みあげた。


「勝手に一人で盛り上がんなよ……意味わかんねーし!」

 毛玉に呆れ顔のせつなと、


「あのー?なんか人違いじゃないですか?」

 メイアも、おずおずと毛玉にそう言った。


 ぴたり。

「ん……?メイア様……?まさか……!」

 一瞬、暴れるのを止めた毛玉の体が、ワナワナと震え始めた。


「ほ、本当に何も覚えていない……?人の身に封じられている……!!」


 ぼわわ!再び毛玉の体が膨れ上がった。


「魔気が二つ……?近づいてくる!いかん!いかん!!」

 毛玉の声に、驚愕と、焦りが生じた。


「……おい、どーしたんだよ?」

 毛玉のただならぬ様子に、思わずそう尋ねたせつなに……


「小僧!メイア様をつれて、早くここから逃げるんじゃ!」

 毛玉が、せつなの方に顔を向けて狼狽した様子でそう言った。


「逃げるって、何から、どこに?」

 首をかしげるせつなに、


「もう遅い……来る……いや、来た!」

 毛玉が、せつなの手の中でそう言って戦慄いた。


 ばちん!ばちん!ばちん!


 突如、何かが弾けるような音が辺りに響く。

公園と沿道を冷たく照らしていた街灯が、次々とその灯を消してゆく。

一際深さを増した公園の闇の奥から、『何か』が歩いてきた。


 かさり、かさり


湿った落ち葉を踏む音が、だんだんこちらに近づいてくる。


「『吹雪の国の藻爺(モージ)』か……珍しいヤツが出てきたな」

 闇の奥からしわがれた声が響いた。男の声だ。


「じゃあ『メイア』も、もう動き始めたってことか……」

 男の声に、これまた闇から応える透き通った女の声。


「『メイア』『メイア』って……いったい何なのさ……!?」

 周囲を覆う異様な雰囲気に、メイアが肩を震わせてつぶやく。


「……小僧……わしを放せ」

 毛玉が、せつなにそう言った。

先程とは打って変わった、重々しい声。何かを『決めた』声だった。


「いいか、わしを放したら、メイア様をつれて、死ぬ気でここから離れろ……!」

「あ……ああ、わかったよ……!」

 闇の中から近づいて来る『何か』と、毛玉の気魄に気押されて、せつながそう答える。


 せつなが毛玉を手放した。次の瞬間、


「でーーーーーぃい!」

 毛玉は怒号を上げた。


「いかにも、わしが藻爺(モージ)!最も古くよりメイア様にお仕えする!吹雪の国の大将じゃー!」

 藻爺(モージ)と名乗った毛玉が、闇の奥の何かに向かって、弾みながら跳びかかっていく。


「メイア!行くぞ!」

 せつなが、メイアの手を引いて駆けだした。


「ちょっと……!せつな君!あの人は……!」

 メイアが闇の奥を振り向いて戸惑いの声。


「いいから!逃げるぞ!」

 首の後ろがチリチリする。何かヤバイ!せつなの本能もまた、強烈な違和感と恐怖を彼に告げている。


せつなとメイアは、全力で公園の沿道を走り出した。

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