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俺の幼馴染が魔王でドS!  作者: めらめら
第2章 魔軍集結!
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接界

「最初に『異変』に気付いたのは、我ら魔影世界の住人じゃった……」

 藻爺(モージ)がせつなに向き直って話を続ける。


「我らがのんびり暮らしておった『夢見の森』や『吹雪の塔』に……、魔影世界に、これまで決して立ち入る事の出来なかった人間たちが迷い込んで来るようになったのじゃ」

 眉間にしわを寄せて苦々しい声の毛玉。


「次いで、人間界の中でも、ごく一部の者達が異変に気付き始めました」

 閻羅老人が続ける。


「ごく一部の、特殊な感覚を持った者達……『見える者』達の眼に、この世界のそこかしこを闊歩する異形の者の姿が映るようになったのです」

 老人は莉凛を見た。


「坊っちゃまもその一人。分かっておいででしょう? 冥条家の血筋の者が代々備えた、不思議な能力の事を……」

 縁側ごしに庭園の異景を見つめている莉凛にそう言った老人に、


「ああ……鬱陶しいだけだけどな!」

 縁側の莉凛は面倒くさそうに答えた。


「それが始まったのが、十年前のあの日……」

 遠い眼の藻爺(モージ)


「十年前?」

 そう言って眉を寄せるせつな。


「そう、あの日を境に突如、創世の女神によって厳密に分たれていたはずの二つの世界が、ある一点から、繋がり、一つに重なり始めたのじゃ」


「十年前って……、まさか!」

 何かに思い至ったせつなが、目を丸くした。


「坊っちゃまも、せつな様も、覚えてはおらずとも耳にした事くらいあるはずです。十年前に起きた、新宿の『幻の森』事件です」

 閻羅老人が、せつなと莉凛の顔を交互に見ながら、そうつけ加えた。


 『幻の森』!!


 せつなは息を飲んだ。

まだ小さかったから直接覚えてはいなくても、学校の現代史でも確かに教わった。

いや、それ以前から、せつなは知っていた。世界の怪奇事件の中でも大物中の大物として、その事件は超常現象ウォッチャーの間では常識だったのだ。


 十年前の20XX年某日。新宿副都心第一都庁舎を中心とした。半径3kmの円陣。

その円陣の中に一夜だけ、突如として『森』が出現したというのだ。

 月明かりを遮って鬱蒼としたその森は、だが、人の手では木の幹に触れることも、その葉を手に取ることも出来なかったという。


 触ろうとしても、その手は樹々をすり抜けて空を切ったというのだ。


まるで、別の場所の風景をそっくりここに再現しただけの、精巧な夜の蜃気楼だった。

当時、幻の円陣の範囲内に、『森』の内側にいた人々は皆、口を揃えてそう言った。


 そしてまた、何人もの人間がこう証言している。

鬱蒼とした森の上空を、明らかにこの地上のものではない、何体もの翼を持った奇妙な怪物や、空を舞う人間の様な影が、青や赤の光線を散らしながら、激しく争っていたと。


「それが『接界』じゃ。その地から、二つの世界が急速に一つになり始めたのじゃ」

 藻爺(モージ)がポツリ。


「驚いたのは、お前たちヒトだけではなかった。我らもまた、パニックに陥った」

 藻爺(モージ)が繊毛を震わせて続ける。


「世界が分たれてから幾星霜、我らは我らの国を作り、平和に暮らしていたからな……。今更ヒトと一つの世界で暮す事など、多くの者は望んでいなかったのじゃ。ましてや争いなど……」

 沈痛な面持ちの毛玉。


「そして、我らの悲願を受けて、立ち上がった御方がいた。自ら陣頭に立って、世界に生じた『綻び』を元に戻そうとした御方がな」

 毛玉が跳ねると、せつなの手から飛び降りた。


「それが、メイア様。世界最強の魔力で、我等が『吹雪の国』を治めていた闇の女王。魔影世界(シャテンラント)を統べる『魔王衆』の御一人じゃ」

 藻爺(モージ)が、眠るメイアの方を向き、静かにそう言った。


メイア(こいつ)が、そんな事を……『吹雪の国』の『女王』……!?」

 布団の上であどけない顔で眠るメイアを見下ろして、せつなの額を冷や汗が伝う。先程の変身を、闘いを目の当たりにしても、まだ信じ難い話だった。


「そうじゃ。御気性は激しいが心根は優しく、常に吹雪の国の民を思っておったメイア様は、皆の先陣に立って『綻び』を直そうと力を尽くされた」

 毛玉が誇らしげにメイアを見た。


「それに、メイア様は焦っておった。何故なら『接界』は、メイア様の治める吹雪の国の辺境、荘厳なる象牙の巨搭『吹雪の塔』から始まったからじゃ」

 藻爺(モージ)がせつなを見上げて言った。


「お前らの世界で言う、『新宿』にあたる場所じゃ……」


「メイアの王宮から『接界』が? なんでそんな事が……!?」

 首を傾げるせつなに、


「うむ。辺境を超えて吹雪の塔に辿り付き、ついに『接界』の呼び水を探し当てたメイア様と我らもまた、困惑した。塔の鐘楼で鳴動し、奇怪に輝きながら世界を一つに繋ごうとしていたのは、吹雪の国に代々伝わる魔剣『鬼神の爪』だったのじゃ……」

 そう答える藻爺(モージ)


「その剣に、何故そんな力が備わっていたのか、メイア様にも我らにも解らなかった。だが、メイア様の魔力を以ってすれば、剣の鳴動を抑え、魔氷で封じることは不可能ではなかった」


「じゃあ、その時の『接界』はメイアが止めたってことか!」

 尋ねるせつな。


「それがな、そう簡単に事は運ばなかったのじゃ。他の『魔王』達のせいでな……!」

 藻爺(モージ)が、忌々しげにそう言った。


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