畑泥棒
その後、カドリアは敵の死体を村のはずれに目立つように飾らせた。今回の死者は見せしめだ。できるだけ残忍に処理しなければならない。傷の少ない死体はわざわざ切り刻んでから飾った。こちらが獰猛で残忍なほど敵は手を出しては来ないだろう。飾り付けが終わったら、敵の攻撃を持ち堪えていた兵と民に褒美を渡した。
「お前たちの防衛によって、我が軍は圧勝を得ることが出来た。お前たちの踏ん張りが無ければ領土は侵され、さらなる痛手を受けていたであろう。その功績は大きい。これは褒美だ。受け取れ」
「こんなにたくさん・・・」
恩賞を受けた者たちは狂喜した。
「遠慮することは無い。お前たちの功績はこのぐらいの価値がある。自らを誇れ。そしてこれからも国のために全力を尽くしてほしい。」
恩賞を授け終わると、カドリアはタイガを呼ぶ。すぐに現れたタイガにカドリアは、モリーとウルドを連れて帰るのでお前は精鋭隊を連れて先に帰れと命じた。タイガは非常に驚き、自分も一緒に連れて行って欲しいと頼んだが、もしも敵襲があった場合、タイガと精鋭隊が居ないと父が困るだろうと許さなかった。タイガはしぶしぶ精鋭隊を率い帰途についた。
残った3人は、東に大きい街があるのでそこに向かうことにした。3人は馬に乗ると走り出す。
「坊ちゃん、良いのかい?道草喰ってて」
それを聞いてモリーは吹き出しそうになったが、ぐっと堪えて
「貴様、王子に何て口を・・・」
しかし、その口調に迫力は無く目も笑っている。なぜなら彼女は心の中で、
(坊ちゃんだって、私も呼んでみたい)と思っていたのである。
「モリー、良いんだ。ウルドにはいつか様付で呼んでもらう。それまでは何と呼んでもいいことにしている。」
カドリアはウルドに視線を向け、
「敵はこれに懲りて十分な準備が整わなければ攻めて来ないだろう。ざっと2年かな?今度は我々が奴らを攻める番だ」自信を持ってカドリアが答える。
「ふーん、それで東の街で何をするんだ?」
「人材を集める。お前のようなだ。観察力、決断力、身のこなし、経験など人の上に立てる人材を仲間に加える。まだまだ人が足りない。」
「おだてたって何にも出ねーぞ」そう言いつつもウルドの顔はまんざらでもない。
夕方になり、街についた。街の名前は、「カダーラ」ここら辺では一番大きい街である。
「早速情報を集めたいがもうじき暗くなる。仕方が無い、ウルドは宿を探してくれ、そして、まだ明るいようだったら周辺の情報収集をしろ。そうだな、2時間後にここに集まろう。モリーは私の護衛だ。」
3人は二手に分かれた。カドリアは町外れに向かいそこから町中に引き返そうと考え、
移動すると陽が落ちかかってきた。すると当然立派な畑が出てきた。
「こんなところに畑が?」
カドリアは、馬を降りその畑に近づいた。どれもこれも立派な葉を茂らせている。感心しながら座り込み、まじまじと見ていると後ろから声を掛けられた。
「おい、人の畑で何してる」
振り返ると5人の男たちがカドリア達を見下ろしていた。その中にひと際大きい男が居る。2mはあるであろう。その男が声を掛けてきたらしい。
カドリアはその男たちに向き直ると、
「すまん。こんなところに立派な野菜があるものだからつい見入ってしまった。」
「盗もうとしていたんだろう」
後ろの小さい男が決めつけていう。その瞬間、モリーがその男に向かい突撃し投げ飛ばした。
「無礼者」
モリーが吼える。
その声に反応して残りの男たちが色めき立つ。
「こいつ何しやがるんだ。やっちまえ」
大男以外の3人がモリーに打ちかかる。モリーは相手の腕を取り投げ飛ばす。あっという間に3人は地面に転がった。
「おっ、なかなかやるね。しょうがねえなぁ、俺がやるか。おい、お前たち、3人がかりで情けねえ。ローエルを呼んで来い」
最初に投げ飛ばされた小さい男が畑の奥に向かって走り出す。
思わぬ展開になってしまいカドリアは慌てた。
「いや、これは謝る。こちらが悪い。そうだ野菜を売ってはくれないか。また、治療費も支払う」
大男は、この提案を鼻で笑い。
「今更、虫が良すぎるぜ。その野郎をぶっ飛ばさねえと仲間が収まらねえよ。その後なら野菜を売ってやる。兎に角、話はその野郎をぶっ飛ばした後だ。」
夕日に映りだされるモリーのシルエットは完全に野郎に見える。
「ずいぶんな自信ね。治療費貰っておけばよかったって吠え面かくんじゃないよ」
モリーが2m男の懐に飛び込んでいく。2m男は懐に入られないように左の拳を軽くモリーに放った。
(はやい)モリーはその拳を両腕をクロスしてブロックした。痺れるような痛みが両腕に広がる。
(何て重い拳なんだろう・・・)
モリーは飛び退って、カドリアの元に近づいた。そして小声で、
「あいつ強過ぎる。私が時間を稼ぎます。カドリア様はお逃げください。」
モリーはカドリアの返事を待たずに2m男に向かっていった。身構える大男の間合い寸前でステップを踏み回り始める。
「おっ、ボクシングかい?俺も好きだぜ」
大男もステップを踏み回りだす。モリーはカドリアが逃げ出すのを待っていたが、いくら待っても逃げ出さないので、業を煮やし、
「早く逃げろ!」と怒鳴ってしまった。その時、大男の後方から、
「ルーガ、止めてくれ」という静かな声が聞こえる。しかし、ルーガと呼ばれた大男は動きを止めずに声に反応した。
「ローエル、久々に手応えのある相手だ。もうちょっと遊ばせてくれ。おい、時間が無い。こっちから攻めるぞ。」
(私は遊びたくないわよ)モリーは心の中で思いながら、全力で防御しようとした。
「止めてくれ」
ローエルが強い口調でもう一度言った。
「分かったよ」
その声にルーガはしぶしぶ従った。
「ルーガ、ありがとう。」
ローエルは微笑み大男に礼を言う。
「それでは話を聞こう。こちらの者から大体のことは聞いた。野菜を盗もうとしていたのを咎めたらいきなり投げ飛ばしてきたと聞いているが?」
「それは違う。私はこんな所に野菜畑があることにまず驚き、しかも野菜の見事さに思わず座り込み見入っていたのだ。それを見たお前たちが盗人呼ばわりしたものだから、そこのモリーが頭にきて数人投げ飛ばしたというわけだ。」
それまで黙ってみていたカドリアがずいっと進み出て事情を説明した。
「そうなのか?」
ローエルはルーガに尋ねる。ルーガは困ったように、
「まあ、簡単に言うとそういうことになるか?」
ローエルは一つ溜息を吐くと、
「それはすまなかった。お詫びする。言い訳になってしまうが、盗人が多くてな。そのため5人一組で見回りをしている。悪気があったわけじゃない。許してくれ。」
「いや、こちらもいきなり投げ飛ばしたのは行き過ぎた。許せ。」
ローエルは、
(この少年、明らかに俺よりも年下だ。しかし、この威厳は何だ。上から目線の口調なのにこちらに怒りが湧いてこない。むしろ自然な感じがする)
と心の中で首を傾げた。
「ところで明日野菜を買いに来たいが良いか?」
「おう、それはありがたい。10時頃には新鮮な野菜が並んでいるはずだ。」
「では、10時に」
言うとカドリアは馬に乗る。
「お待ちしている。」
ローエルが頭を下げる。カドリアとモリーはウルドとの待ち合わせの所に急いだ。




