必然の勝利(2)
別行動をしたモリーは東の大木を捜した。大きい木は何本かあり、どの木の上で待ち伏せようかモリーは迷ってしまった。ユリアナが言っていた「敵副将が休む」という言葉を元に木の場所を検討する。
(ここでは遠いなぁ~)
もう少し敵陣に近づくと如何にもという大木に出くわした。
「これだ!」
モリーは、躊躇わずに馬から降りると大木を見上げた。
(良し、ここで間違いない)
馬が居ては怪しまれるので他へ追いやる。モリーは木をよじ登り弓で射やすい所を探った。やがて、ここぞという位置を見つけ射やすい体勢を作る。弓を構え、副将を射るイメージを繰り返す。長い時が過ぎる。心臓がドクンドクンと音を立てて波打つ。
(もしも、失敗したら・・・)
その考えを打ち消すようにモリーは首を横に振った。
(私でないと駄目だとユリアナも言っていたじゃない。これは私じゃなきゃ駄目なんだ。世界で一人、私だけができる役目・・・)
「あなたならできるわ。自信を持ってモリー」
モリーは自分に小さく呟いた。
それからもモリーにとってとてつもなく長い時間が経つ。やがて、下に人の気配を感じた。下を窺うと数名の兵が居て話声が聞こえた。
「我々が兵をここに集めて参りますので、副将はここでお休みください。」
「そうだな。この大木は目印になる。兵も集まりやすかろう。な~に、奇襲でちょっと驚いたが兵力は圧倒的に我が軍が上、数が揃ったら敵王を討ち取り、そのままドルドラス国を征服してしまおう。」
「はっ、それでは呼びかけて参ります。暫しここでお待ちください。お前たちは副将のお世話をしろ」
そう言うと5人の兵を残し、立ち去って行った。
モリーは弓を引き絞り、副将と思われる男の首に狙いを定める。
「熱いな。兜を脱ぎたい。」
副将がそう言うと、世話係の兵が副将の兜を脱がし始めた。
(チャンスだ!)
それを見てモリーは引き絞った矢を副将の首に向ける。世話係が恭しく副将の兜を受け取った時に、モリーは渾身の矢を放つ。矢は見事に副将の首に突き刺さった。うめき声をあげ副将はゆっくり倒れる。突然のことに敵兵は副将の元に集まりその体を揺さぶっている。
(逃げなくっちゃ。どうしたら逃げられる?)
頭ではそう考えるのだが、モリーは敵兵から目が離せない。その中の一人が上を見上げた。モリーと敵兵の目が合う。
「敵だ~。敵だぞ」
兵が大声を上げると近くに居た敵兵が集まり弓を構え木の周りを囲みだす。
(どうしよう、どうしよう。)
モリーは、ユリアナの元を去る際に言われたことを思い出した。
(本当にやるの?大丈夫なの?信じてるよユリアナ・・・。ええい、どうとでもなれ!)
「副将は、我が射殺した。我が名はフェンダ、求道者なり。」
とフェンダの声色を真似、大声で叫んだ。敵兵が静まり返る。やがて、
「フェンダだ。フェンダだぁ~」
と言いながら敵兵が逃げ始める。その光景をモリーは驚いた顔で見守っていた。敵兵は武器を放り出し全速力で転がりながら逃げていく。それを見てモリーは、
「はははっ、助かっちゃった。」
と木の上でぐったりと力なく笑った。
副将までも討たれた敵は乱れに乱れ逃げて行く。フェンダと精鋭隊の間に挟まれた敵は、フェンダだけではなく、精鋭隊、特にタイガの武勇を目の当たりにして戦意を失い降伏した。その数、ざっと300人。討ち取った者は200人。戦はドルドラスの圧勝で終わった。
やがてタイガがモリーの居る大木の下に現れた。
「モリー、無事か?」
モリーは「大丈夫です。」と声を返すとタイガの前に飛び降りた。タイガは馬から飛び降りると、モリーの肩に手を置き、
「見事だ!さすがは俺の副官」
と嬉しそうに微笑んだ。その笑顔にモリーはただ見惚れた。タイガは肩から手を離すと
「王様の元へ戻る。お前、馬は?」
モリーが、邪魔なので手放したというと、
「俺の後ろに乗れ」
といって馬に跨り右手を差し出す。モリーはその手を握るとタイガの後ろに乗馬した。
「王様が心配だ。飛ばすぞ。しっかり掴まれ」
モリーはタイガの身体に両腕を回し、しっかりと抱きついた。
(生きてて良かった♡)
モリーはユリアナに感謝した。




