必然の勝利(1)
時は少し戻る。カドリアがまだ生存中のザンギに毅然と降伏を呼び掛けているのをタイガは、
(す、すげーなぁ~)
という思いで見ていた。10倍の敵兵に降伏を促している。本来ならば逆であろう。頭がおかしいと思われても仕方が無い状況である。それをカドリアは自信満々、本気で相手のためを思って降伏を促しているとしか見えない。タイガは、
「すげーなぁ~」
と今度は声に出して呟いた。その背にユリアナの声が聞こえた。
「モリー、タイガ君、すぐに来てちょうだい」
いつになく緊迫した口調である。二人が小走りでユリアナの元に集まるとユリアナは敵兵の後陣を指さした。
「あいつ、赤い飾りのある馬に乗っている奴、わかる?」
タイガが指さされた方を見ると、敵の副将らしい男が赤いド派手な飾りのついた馬に跨りにや付いているのが見えた。
「ああ、見えるぜ」
その返事を聞きユリアナが、
「あいつ、この後カドリア君を狙ってここに真っ直ぐ来る。だから先に回り込んでやっつけて!」
といい具体的な作戦を話し始めた。
「この後、ザンギは潜伏していたフェンダに一撃で討たれるわ。」ここでタイガは凄く驚いた。
「何、行方不明のフェンダがここに居るのか?」
時間が無い、口をはさまないでとユリアナに叱られる。タイガが肩を竦め黙ると話の続きを始める。ザンギがやられた後、敵が暫らくパニックになるのでそこを狙って精鋭隊は敵に一直線に向かう。副将は東に逃げ、大きな木の下で休むのでそこをモリーが一人で待ち構え弓で射殺す。というものである。
それを聞きタイガは危うんだ。
「仕留め役は俺がやろう。モリーが隊を率いてくれ。」
というとユリアナが
「モリーが仕留め役なの。じゃなきゃ、あんた死ぬわよ。つべこべ言わずにさっさと向かう。」
猛烈に怒り出した。
(俺が死ぬ???)
タイガが戸惑っていると、
「お願いよ。早く行って、このままだとカドリア君が死んじゃう」
今度はユリアナは涙を流しながら胸の前で手を組み、哀願を始めた。その姿を見てタイガはユリアナを信じることにした。タイガは急いで精鋭隊を連れ、敵の副将めがけて行軍を開始した。モリーは弓を担ぎ馬に乗り込もうとした。そのモリーにユリアナは近づき何かを語り掛けた。モリーはそれに頷くと猛然と走り出した。
タイガが敵の後ろに差し掛かろうとした時、突然の静寂が訪れた。
(ユリアナが言っていたのはこれか!)
きっとフェンダがザンギを一撃で仕留めたのだろう。時が止まったかのように敵兵は動かない。
(よし、いけるぞ)
タイガが率いる精鋭隊は敵兵を蹴散らしながら副将へと突進した。
(もう少しで届く。動くなよ)
タイガがそう祈った時にある程度まとまった敵兵が東へと移動するのが見えた。
(もう少しだ。あと30m)
しかし、その精鋭隊の前に敵兵が立ちふさがった。敵兵をばったばったと斬り伏せるが数が多い。副将との距離は近づくどころかどんどん開いていく。
(畜生、届かねぇ。モリー、頼んだぞ)
タイガは敵兵を斬り伏せながら、心の中で祈った。




