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英雄ドルドラス三世  作者: 三国志浪
24/26

埋伏の毒

ランド軍総大将ザンギは順調に行軍を続けていた。もうすぐクレアに到着する。ドルドラス軍が出兵したとの情報が入ってきてはいるが、このままいけば敵が来る前にクレアを落とし、万全の態勢で対陣することができそうだ。今のところ考え通りに物事が進んでおり、ザンギ将軍は今回の行軍に手ごたえを感じていた。しかし、兵達の騒がしい声が聞こえザンギは全軍に停止を命じ、何事が起こったのかを調べさせる。理由は直ぐに分かった。東の森の高くなっている丘にドルドラスの旗が立っていて、その下に一個中隊の兵が居るというのだ。

「そんなバカな?」

ザンギ将軍は自ら兵が騒いでいるところに向かうと、確かに一個中隊が整列しており、そこにドルドラスの旗が立っている。

(そのような情報は入っていない。なぜ敵がここに?)

そう怪しんでいる所に敵が呼びかけているようだという報告が入った。ザンギは全軍を声の聞こえる位置まで移動させる。やがてはっきりと声が聞こえる位置まで近づくと敵の将軍と思われる者がこちらに語り掛けている。その姿を見てザンギはさすがに驚いた。青い長い髪に遠目から見ても分かるほどの麗しい容姿。それは紛れもなくドルドラス3世である。そのドルドラス3世と思われる人物が大声で語り掛けている。

「敵国の大将に物申したい。すみやかに進み出よ。」

それを聞きザンギが馬に乗って進み出る。

「俺がこの軍の総大将ザンギだ。お前は敵国の王ドルドラス3世か?」

それに対してカドリアは、

「そうである。」

と毅然と答えた。それを聞きザンギは心の中で小躍りした。

(こいつ馬鹿か。こいつを捕らえればドルドラス王国を意のままに操れる)

ザンギは舌なめずりをしながら、

「で、話とは?」

と今にも飛び掛かりそうな顔で聞き直す。ザンギと聞いてカドリアは怖気おぞけを抱いた。ザンギはランド国一番の武勇を誇る将軍である。しかし、その性格は残忍で狂暴、また、少年趣味を持っており、興奮するといたぶり殺してしまうという噂を耳にしている。

それが本当ならばカドリアがもっとも侮蔑するタイプの人間だ。

「ザンギ将軍、貴方たちはすでに敗れている。未来はすでに決まっているのです。大人しく投降すれば命は勿論、我が国の将軍として優遇致しましょう。」

それを聞いたザンギはせせら笑った。ザンギだけではない。敵のあちこちから馬鹿にするような笑い声が起こった。それもそのはず、一個中隊が戦いもせずに敵国の正規軍大連隊に降伏を促しているのである。本来ならば逆であろう。頭がおかしいと思われても致し方がない。そして心配した通りの反応をザンギは示した。

「我々が降伏するわけあるまい。残念ながらドルドラスの若い王は頭がおかしいらしい。しかし、その姿は・・・」ここでザンギは言葉を切ると舌なめずりした。そして万感の感情を込めて

「なんとも麗しい。」

と言葉を続けた。それを聞いたカドリアの身体がぶるっと震える。

「者ども、敵を包んで殲滅してしまえ。しかし、王は決して殺すな。あの麗しい王は、俺の可愛いペットになる。足や腕を切り落としても構わんが必ず生かして連れてこい。いいか、顔には傷をつけるなよ。」

その言葉に敵兵の下卑げひた笑い声が追従する。その時、敵兵の中から喧騒がおこった。

「敵だ。」という声が起こるとその辺に血煙が巻き上がる。ザンギがそちらに目をやると血煙を巻き起こしながら何かが真っ直ぐに自分に向かって来るのが見えた。

(何だ?)

訳が分からないまましばらく見ていると3人の男たちがザンギの目の前に現れた。一人は金色短髪の痩せた男、もう一人はもの凄い長身で痩せた男、最後の一人は驚いたことにその長身の男の右肩にちょこんと乗っている恐ろしく小さな男であった。すなわち、行方を晦ましていたフェンダと彼が捜していたボルシェとコマルのデコボココンビである。逃亡犯にされていた二人は金に困り、ザンギの軍に傭兵として雇われることにした。それを知ったフェンダが合流したまたまいたという訳である。フェンダはザンギの方に進み出ると

「貴様~、我が主を愚弄した罪は命で償ってもらうぞ。」

怒り心頭という口調でフェンダがザンギに言い放つ。

「フェンダさん、雑魚は俺たちに任せてくれ」

そう明るく言うボルシェにフェンダは、

「頼む」と言うと軽く頭を下げた。敵兵が襲い掛かってくるとボルシェは舞を踊るような緩やかさで動き始めた。彼の手がしなやかに動くと敵兵は血を吹き出して倒れる。ボルシェは両手に短剣を持ち、その剣が敵の急所を次々と切り裂いていく。一方のコマルは、吹き矢を使い、ボルシェの身体を小刻みに動きながら敵を射殺している。あっという間に50名の敵兵が血を吐いて倒れる。それを見たザンギの表情が変わった。

「なるほど、たった3人で向かってくるだけのことはある。しかし、相手が悪かったな。この・・・」

と言いかけるザンギにフェンダの大声が被さる。

「話している時間は無い。とっとと掛かってこい。ただし、一つだけ忠告して置こう。次の攻撃がお前の生涯最期の一撃となる。悔いの無い様に最高の一撃を仕掛けてこい。我が道を究めるための生贄となれ。」

そういうとフェンダはザンギに無造作に近づいていく。この言動はザンギをすばらしく怒らせた。ザンギは馬から飛び降りると背中から大剣を腰からも剣を引き抜き、右手に大剣、左手に剣を構えた。ザンギは2mを超える大男である。また体も岩の様に分厚い。彼の得意とするのはその怪力による通常では考えられないような二刀流で、大抵の相手は右手から繰り出される大剣で押しつぶされる。極稀にそれから逃れる相手が居るが、大剣を振るう反動を利用してのスピードの乗った左手の剣は倍以上のスピードで繰り出され、確実に相手の首を刎ねる。この戦法から逃れた者は未だかつていない。

「時間が無いか。ならば、今すぐに死ね。」

ザンギはそう叫ぶと大剣を振り被った。

(力の溜め、腕の角度、指の掛かり具合、最高だ。この金髪野郎、ぶっ潰れやがれ)

ザンギは自信を持って渾身の一撃を降り下ろし始める。するとザンギの目に予想もしないものが映った。なんとフェンダは左腕を振りかぶり拳を大剣に打ち込んできた。拳と大剣が真っ向からぶつかる。

「ドギン!!!」

というもの凄い金属音が響き渡り、大剣が砕け散った。次の瞬間、フェンダの右の拳がザンギの分厚い胸を貫いていた。完全に白目を剝いているザンギに向かいフェンダは、

「口だけの奴か。くだらん。」

そう言い放つと右腕を引き抜いた。ザンギの亡骸が膝から崩れ落ちると敵軍は静まり返った。フェンダはその場でカドリアに片膝を付くと、

「おおっ我が主よ、お久しい。求道師フェンダ、友を二人伴い帰還いたしました。」

深々と頭を下げる。その隣にボルシェとコマルが片膝を付く。カドリアは満面の笑みで、

「フェンダ、早速の働き見事である。」

賛辞を贈るとフェンダは、

「はて、何のことでしょう?」

と何の事だかわからないような顔をしている。カドリアが敵国一番の武勇を誇る総大将ザンギを一撃で倒したことだと言うと、

「奴が一番強い?」

と言うなり怒りだし、立ち上がる。

「何と貧弱な・・・、道を極めようとするものはおらんのか?」

そういうと敵兵をめ回す。敵兵は怯え震えていた。その姿がさらにフェンダの怒りを増幅させる。

「許せん。こ・・・このような・・・、なんたることだ。か、か、価値の無い・・・、国、我が滅ぼしてくれよう。」

怒りのあまりフェンダは言葉が上手く出てこない。その普通じゃない様子に敵兵はさらに恐怖し足が竦んで動けない。生存本能か、目だけでフェンダを追い生きるチャンスを窺っている。

「フェンダ、待ってくれ。」

というカドリアの言葉が響いた。

「はっ」

というとフェンダが片膝を付き畏まる。

「私は彼らに降伏することを勧めた。私はこうなることを知っていたのでな」

そういうカドリアをフェンダは見つめて、

「主の温情を無視するとは、ますます許せない奴らです。」

フェンダがまたもや敵兵を睨め回す。その目は先ほどよりも明らかにギラついている。

「いや違うのだ。私の降伏を拒否したのは、むくろになったその男」

そう言いながら敵将ザンギの死骸を指さした。指を戻すとカドリアは続けた。

「他の者の返事はまだ聞いていない。フェンダよ。お前から聞いては貰えまいか?」

「承りました。」

フェンダは勢いよく立ち上がると、

「今すぐに武器を捨て跪け。さもなくば・・・」

ここで言葉を切るとフェンダは嬉しそうに、にた~と笑う。唇がめくれ上がり尖った歯が剥き出しになる。

「我が贄となれ。」

その表情を見、言葉を聞いた敵は恐れすぐに武器を捨て跪く。その中をフェンダが高笑いをあげながら悠々と歩き出す。フェンダが近づくところ次々と敵が跪く。敵の副将はあまりの出来事に唖然としていたが、我に返ると戦況を把握し始めた。

(まだ我が軍の兵が圧倒的に多いが・・・とても闘えない)

先ほどのザンギのやられ方で士気は最悪だ。フェンダへ立ち向かう者などいるわけがない。

ならば撤退か?しかし、10倍以上の戦力だぞ。おめおめ負けましたと王へ報告できるか?できる訳がない。臆病者と罵られ罰が降るだろう。いや下手をしたら死罪もあり得る。

「あの可愛い坊やに降伏するか?」

そう呟きカドリアを見上げた時、良い考えが浮かんだ。そうだ。何人やられようがあいつさえやればこちらの勝ちだ。あの化けフェンダは相手にせず、あそこでひとりで居るドルドラス王を討ち取れば・・・。

「???」

なんで一人なんだ?脇に居た一個中隊はどうした?慌てて周りを見回すと自分に真っすぐ向かって来る馬群が近くまで来ているのが見えた。

(ここに居るのはまずい。一先ず兵をまとめよう。慌てることは無い。圧倒的に多数なのだから・・・)

副将は手綱を引くと兵をまとめながら移動を始めた。

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