10倍の敵と精鋭隊(3)
一方、主力軍を率いるルーガは、クレアのある西を目指していたが、急に東北方向へと道を変えた。そちらはランド国と友好関係にあるアバタ国がある。これはローエルからの指示だ。ローエルからこれを聞いたルーガは、
「お前は王を見殺しにするつもりか?」
とローエルに掴みかからんばかりに詰め寄った。ローエルは「違う」と言いながら急いでかぶりを振ると、これが王を勝利させる最善の方法なのだと力説した。それを聞いてもルーガは、「本当に大丈夫なのか?」という不安を抱いたが、昔からローエルの言うことに従って間違ったと悔やんだ想いをしたことはない。さらに自分にローエル以上の考えがある訳でもない。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
念を押すとローエルはルーガの目をしっかりと見つめ、
「大丈夫、任せなさい!」
と明るくしっかりと答えた。ならばとルーガは意を決して出陣した。
カドリア達は予定通り目的地であるクレアから遥か東の森に到着した。その切りだった丘に登り身を潜める。早速カドリアは、
「もうすぐ敵軍が現れる。敵の大将の未来を見て敵の動きを教えて欲しい。頼むよ、ユリアナ」
と言いながら笑顔で双眼鏡を差し出す。
「カドリア君、まかせて♡」
ユリアナは双眼鏡を両手で受け取った。ほどなくして敵影が見える。
「どれどれ~」
ユリアナが双眼鏡を覗き込む。
「う~~~~ん、凄い数だわね。カドリア君、敵の大将どれ?」
ここでユリアナに未来を見て貰わないと全滅が濃厚である。カドリアもさすがに緊張した面持ちでユリアナの側に近づき、
「あそこ、敵国の大きな旗が立っているだろう。あそこに居るはずだよ。」
「えっ、どこ?わかんない~」
ユリアナが甘えた声を上げる。カドリアは、急いでユリアナの顔の横に自分の顔を近づけて、
「ほら,あそこ」といって指をさした。そのとき、カドリアの左頬に生暖かい感触が走った。ユリアナがカドリアの左頬にキスをした。
「はい、勝利の御褒美ね!」
はしゃいだユリアナが言葉を続ける。驚いたカドリアはしばし固まっていたが、
「何のご褒美だい?」
(カドリア君の驚いた顔、めちゃくちゃかわい~い♡)
ユリアナはさらにはしゃいで、
「勝利のよ♡さあ、カドリア君、大声で勝利宣言をしてちょうだい。面白いことが起きるわよ!」
ユリアナが仁王立ちでVサインを掲げている。あっけにとられているカドリアの背後に控えていたタイガが、
「何言ってやがる。そんなことしたら包囲殲滅されんだろうが、馬鹿か。カドリア様、敵が通り過ぎるまで潜伏し、背後から敵を襲いましょう。」
そう畏まって献策する。ユリアナはタイガの所に移動しながら、
「うるさいわね。何も見えない奴がテンパってんじゃないわよ。埋伏の毒が完成している。カドリア君は神に選ばれた者、未来はもう決まっているの。さあ、カドリア君、私を信じて敵に向かって降伏を促してちょうだい」
ユリアナは自信満々である。(もっともユリアナはいつでも自信満々だが・・・)
カドリアは腕を組み難しい顔をして敵影を眺めながら考え出した。その後ろ姿をタイガは必死の表情で、ユリアナは微笑を浮かべながら見つめる。やがてカドリアは振り返り、
「タイガ、精鋭隊を毅然と整列させろ。敵の大軍の前で狼狽えさせるな。もしも、狼狽え乱れた者は斬り捨てると伝えよ。私はこれより、敵への降伏を行う」
「しかし・・・」
タイガは言いかけたが、カドリアからの威厳を感じ、二の句を告げることができなかった。
「わ・・・、わかりました。仰せの通りに」
すぐに命令を伝えに飛び出して行く。
(カドリア様は命に代えても脱出させる)
そうタイガは決意した。




