10倍の敵と精鋭隊(2)
1時間後、カドリアとタイガ、モリー、ユリアナは揃って精鋭隊の集合場所に向かった。
カドリアが直に出向き、精鋭隊の士気を上げそのまま出陣するためである。しかし、そこには誰も居なかった。
「そんな・・・」
タイガがうめき声を上げる。カドリアがタイガを見ると、顔が青ざめている。しかし、その目はギラついていた。
「そうか。わかったぜ。俺一人でやってやる。へなちょこ野郎共め。糞くらえだ。」
タイガはそう吐き捨てるとカドリアの前に両手を付き、
「我が王よ。ご覧の通りでございます。己の不明にただただ恥じ入るばかりです。しかし、ご安心ください。私一人でも作戦を遂行してみせます。敵を粉砕して来いとお命じ下されば、敵将を瞬く間に首にして御覧に入れます。」
深々と頭を下げて土下座をする。その姿を見てユリアナが小さく笑った。カドリアはそれを見逃さずに、
「ユリアナ、何が可笑しいんだい?」
と不思議に思って尋ねた。それに対してユリアナは、
「カドリア君、いまに分かるわ♡」
と可笑しそうに笑いながら答えた。カドリアはその言葉に小首を傾げたが、タイガに近づき起こそうとした時、
「おう、さすがは隊長だ。見事な土下座だったぜ」
という声がどこからか聞こえて来た。
「気合の土下座だな。こりゃ~大抵の事は許されるよ。なあ?」
その呼びかけに「そうだ」とか歓声や拍手が起こる。そして、どこからともなく精鋭隊のメンバーが現れる。どうやら隠れてこの様子を伺っていたらしい。
「お前ら~」
タイガは飛び上がると、近くの者から片っ端に殴り始めた。
「やべぇ、隊長が切れたぞ」悲鳴があがり始める。タイガに殴られそうになった男が
「ギライト、これを言い出したのは、ギライトです」
それを聞きタイガはもの凄い表情で辺りを見回し、ギライトを捜した。ギライトは「王様助けてください」と叫びながら、カドリアの方に走り出す。それに気付いたタイガがもの凄いスピードでギライトの前に立ちはだかった。
「おまえか!」
怒りの言葉を発しタイガがギライトに迫る。ギライトはその場にへたり込むと「王様、お助け下さい」と繰り返している。
「タイガ、許してやってくれないか。」
カドリアがゆっくりと言葉を掛けた。その言葉にタイガの動きが止まる。
「今は一人でも戦力が欲しい。タイガ、ここは堪えてくれ」
カドリアが再度言葉を掛けると、
「王命とあれば」
とカドリアに頭を下げた。
「てめえら、さっさと並べ」
怒りが収まらないようにタイガがぶっきらぼうに命令する。これ以上機嫌を損ねたら大変だ。精鋭隊のメンバーは急いで隊列を組む。精鋭隊は10名の小隊が10隊集まり編成されている。各小隊に小隊長が居る。その小隊長が人数を確かめタイガに報告する。精鋭隊は全員そろっていた。
「逃げ出した奴は居ないか。それは褒めてやろう。」
タイガがそう言うとギライトが、
「そんなへなちょこ居るわけないだろう。それを隊長があんな言い方するから、一つ顔に泥を塗ってやろうと皆で示し合わせたのさ」
そうだ、そうだという声があちこちで聞こえる。その声にいらっとしたタイガが
「うるせぇ。王様からお言葉がある。黙って聞け。」
怒鳴ると、カドリアに「お言葉を」と促した。カドリアが前に出るとさすがの精鋭隊も静まった。カドリアは静かに息を吸い込むと大声で演説を始めた。
「10倍の敵とあたると分かっていてもこの戦意で現れる。さすがは我が軍最高の荒くれ達だ。タイガが手こずるのも頷ける。世界最強の騎馬隊となる者たちよ。私を信じろ。勝利を疑うな。さすればこの戦いはすでに勝っている。君たちが最強と称されるための闘いはここから始まる。伝説の幕開けだ。戦神アルティスは勇気ある者にのみ手を差し伸べる。
ここに勇無き者は居ない。戦神は絶えず我々の頭上におられる。さあ、行こう。勝利への行進を始めよう。いざ、出陣」
それに対して、精鋭隊から熱烈な歓声が起こり、戦意はすこぶる高まった。騎馬隊は勢い良く動き出した。




