氷解
次に国を引き継いだのは、彼の父ドルドラス2世である。彼の父は臆病な人で戦いを好まぬ人であった。もしも、父が一般市民であれば、「彼は良い男だよ」と多くの者に慕われ静かな一生を過ごせたであろう。しかし、国王に静かな一生を過ごす権利など無い。ここに生まれたのが父の不幸であった。しかし、その性格ゆえの姿勢がカドリアのもう一つの疑問に答えることになる。カドリアのもう一つの疑問とは、
「大国がこちらから攻めなければ戦争は起こらないのではないか?」
というものであった。その答えはすぐに出た。ドルドラス1世を失い、新しい王に変わったドルドラス国を周辺国は注意深く探った。しかし、なかなか軍事行動を起こさない大国に隣国のランド王国が攻撃を仕掛けてきたのである。これを聞き、父は非常に恐れた。
「誰を向かわせればいいかなぁ?」
父は一人息子のカドリアに尋ねた。臆病な父には自分が戦場に立つという発想は無い。すぐにカドリアは、「私が行きます」と立ち上がった。父は、「頼む」と自分の息子に頭を下げる。それに一瞥もくれずにカドリアは軍を整えると出陣した。出陣に際してカドリアは、
「敵の攻撃は我が国を軽んじているためである。そのため蹂躙しなければならない。敵を人と思うな。奴らの恐怖に引き攣った首を城門に並べ、二度と攻めようなどと思わないように殲滅する。情け容赦一切無用。それでは出発する。」
「オー」
鬨の声を上げながら軍が進みだす。
彼は馬上で日頃の疑問のことを考えていた。この先の戦はもう勝っている。今回のランドの攻撃は探りである。ドルドラスの新しい王がどのような男なのかを探るためにランドは攻撃を仕掛けてきた。「腰抜けであれば攻め取ろう」そんな思惑が透けて見える。しかし、軍を率いるのはカドリアである。彼は甘くない。これを完膚なきまでに叩く。残忍ならば残忍なほど良い。周辺国はこれに恐れ暫らくは攻撃を控えるだろう。
胸くそが悪いがやるしかない。彼は心に決めた。そんなことより、
「攻めなくてもやはり戦争は起きるのか?どうしたらいいかな?」
彼は馬に揺られながら考え続けた。そして突然答えを見つけた。いや、天命だ。これだ。これが答えだ!すべての疑問が氷解してゆき、・・・そして確信する。彼は馬上で笑い出した。
「簡単なことだった。俺が世界を獲ればいい」




