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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
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11-13.神変鬼毒

今回はグロい表現ちょっぴり多目でお送りいたします。

えぐいのが苦手な方は注意ですよー!



 ミヒャルトが用意した、謎の毒。

 これが本当に効くのか、メイにはわからない。


「魔物が強ければ強いほど、速攻性を持つよ。だけど目に見えて効果が出るには30分くらいの時間が欲しい。魔物の体内に入れれば入れただけ効果が早まるから最初に多量を摂取させて、後は効果が出るまで毒を塗った武器で攻撃を続ける。傷口に塗り込んでも効果が出ることは実証済みだから」

「その30分って時間の根拠は?」

「ヴェニ君? あの時、死ぬかも知れないって目に遭ってから……僕が何もしなかったとでも? 時間はあったんだ。また同じことがないよう対策を取る……その果てに出来たのが、この毒だよ。効果の程を測るのに、色々な魔物で何度も実験と観察を重ねた」

「お前、その執念と能力を他に向ければ人類の発展に大いに貢献しただろーに……」

「ある意味で、これも貢献になるんじゃない? 魔物退治の有効な一歩にしてみせるから」


 あ、はは、はー……実験と、観察ですかー。

 そっかそっか、ミヒャルトってばメイちゃん達の知らないところで、そんなに熱心に毒物の研究してたんだねー……。

 そんなところに学者さんであるパパさんの血を感じるけど、熱意を向けるべき方向性がはっきり言って危険人物まっしぐら。

 ミヒャルト、これで真っ当な人生歩めるのかな……(たま)に心配になるよ。


「信じていいんだな?」

「弟子のことくらい信じてよ」

「……まあ、『こういう方面』だと、信じるしかねえだけの実績があるからなぁ、お前。本音を言えば信じたくねーんだけどな……」


 取敢えず、物は試しです。

 どんな効果が出るのか見たことないし、ミヒャルトも教えてくれないからわからないし。

 戦いに絶対はないっていうから、過信し過ぎるのも良くないけど。

 でも気休め程度に試して駄目ってこともないよね。

 本当に効果があったら儲けもの、くらいのつもりで私達はミヒャルトの毒を受け取りました。

 ……皮膚接触くらいは問題ないらしいけど、傷口から体内に入ったら本気でヤバいらしいんで、扱いには気を使ったけど。


 メイだけは使わなかったけどね?

 だってメイの戦い方って……槍の刃は、あまり使わないからさ。

 代わりにヴェニ君とエステラちゃんが多用します。

 エステラちゃんはちょっと離れたところの樹上にスタンバイ。

 流れ矢には絶対に当たるなと、重い忠告を受けました。

 ヴェニ君は援護射撃の大部分はエステラちゃんに任せつつ接近戦で、でも隙があったらボウガンも使うという方針で。

 ……そしてボウガンを使う時には、ミヒャルトの毒瓶が狼の口に入る様に狙う予定だよ。

 どんな効果が出るのか……ミヒャルトが自信を持って推すだけに、逆に結果がすごくこわい。

 スペードとミヒャルトは持っている武器の刃に、薄く毒を塗布して……


 そうして、私達の決戦準備は整いました。


 雪辱戦のスタートです。




 私達はボス狼に真正面……からでは、なく。

 示し合せて樹上から襲いかかりました。

 奇襲、上等!!


「スペード、攪乱しろ! ミヒャルト、その援護! メイは……額の槍の下は、目玉だ。……つまり頭蓋骨なんかの装甲はねえ。あそこを狙え!」


 前、立ち向かった時は。

 ボス狼の毛皮に阻まれ、碌な手応えも得られることなく。

 でも今回は違う結果にしてみせる。

 今の私の立ち位置は、上手いことに狼の首の後ろを確保しています。

 飛び降りた時、位置取りに成功した結果だよ!

 まだ赤ちゃんで動きの鈍いクリスちゃんは、私の肩にしがみ付いて激しい振動に耐えている。

 それでも機会があれば、やれると思ったら。

 その都度、私が攻撃しているあたりに炎を吐くように言い含める。

 自動で攻撃する火炎放射機(生体)を装備しているような心強さがあるよね!


 一方でスペードは着地にしくじってボス狼の背から落ちてしまったんだけど。

 気にすることなく、スペードはボス狼の足下を狙って攻撃を繰り返している。

 ヴェニ君の方は狼の背を取ったものの、自ら滑り下りました。

 狼の口に、毒を打ち込む為に。

 角度的な問題で確実性を求めた結果、ということだと思う。

 そして器用さと身軽さなら私達の中で1番のミヒャルト。

 彼はまんまと狼の背に踏み留まり、ボス狼の尻尾の付け根を狙ってエグイ攻撃を繰り返しています。

 うん、そこ、メチャメチャ痛いと思うんだ!

 そのタイミングも、スペードの攻撃と合わせているのでボス狼としては不快なことこの上ないんじゃないかな。

 私はボス狼の首元の毛にしがみついた手を離すと、一気に首から頭へと駆け上がる。

 障害物こみの傾斜は、得意だから!

 だってメイちゃん、羊さんだからー!

 偶蹄類のバランス感覚、目に物見せてやる。


 駆け上がる途中で、大きな衝撃。

 振り落とされない為に、ボス狼の耳を掴む。

 何があったのか、状況は把握していた。

 ヴェニ君だ。

 ヴェニ君がボス狼の鼻(粘膜)に、矢を打ち込んでいた。

 獣人ならみんな知ってる。鼻は敏感で繊細な部位だ。

 だけどそれにしたって、狼の怯み方は尋常じゃない。


「ヴェっニ、くーん! 何したのー!?」


 答えは、明瞭。


「矢に辛子塗っといたんだが……効くんだな」

「そりゃ痛い!!」


 だけどお陰で、ボス狼は大口を無防備に開けている。

 勿論、暴れながらなんだけど。

 そこを見逃すヴェニ君じゃない。


 我らがお師匠様の放った、毒瓶は。

 しっかりとした軌道を描いて……狼の奈落みたいな口の奥に、姿を消した。

 どこかで、ガラスの割れるような音が響く。

 確実な、1。


 いまから30分、持ちこたえろ。

 

 ううん、勿論。

 その30分が来る前に討ち取れちゃうなら、それはそれで良いんだけど。


 

 エステラちゃんの援護射撃は、『援護』に留まらなかった。

 思った以上に実力あんな、とヴェニ君が少し嬉しそうに口端を吊り上げる。

 ヴェニ君手持ちの毒瓶は全て狼の口に投棄され、今はボウガン自体を投げ捨てて前に出ていた。

 肉弾戦だ。

 いつも前に出がちな弟子の私達の為に、後方に控えて援護に徹してくれていた。

 そんな師匠のヴェニ君が、前面に出てくる。

 彼が本領の分野で戦う姿を見るのは、いつ以来になるんだろう。

 その姿、勉強の意味でも目に焼き付けたい。

 ……だけど、目に焼きつけるだけの余裕がない。

 既にミヒャルトも狼の背からは振り落とされた。

 いま、その狼の上に陣取っているのは私一人。

 頭上を確保して、目を狙う。

 (たま)に私の肩にしがみついたクリスちゃんが、炎の息でボス狼の目玉を炙りさえ、した。

 この位置はボス狼が暴れる度に振り落とされそうになるけど。

 位置的な問題で、ボス狼の牙を警戒する必要だけはない。

 それは、こんな乱暴な時間の中では特別有難かった。

 弱体化してたんじゃなかったっけ、この狼。

 小さくなってるんだから、その分戦いやすくなってる筈だよね。

 そう問いかけたくなるくらい、手負いのボス狼は私達に楽をさせてはくれない。

 安易な戦い方を望めば、此方の身体が引き千切られる。

 必死に嵐に耐えるような、そんな猛攻をやり過ごす中で。

 ミヒャルトが叫んだ。


「――後、10分」


 もうミヒャルトが必要だといった時間の、半分以上が過ぎていたのか。

 全然気付かなかったから、純粋な驚きに胸を満たす。

 だけどタイムリミットが訪れて、確実にボス狼が死ぬって保証はどこにもない。

 だからやっぱり、私達は戦うべきだ。

 狼の顔面は、足場に出来る場所が狭い。

 そこに陣取って目を狙うも、隙あらば顔面を木や岩に叩きつけて私のことを押し潰そうとしてくる。

 その度に、狼の首元に退避してるけど。

 むしろ狼の自爆ダメージの方が絶対に蓄積してるけど。

 首元に退いて回避した、あと。

 また首元を駆け上がって顔を狙わないとなって。

 そう思って見上げた時。


 ふと、狼の耳が目に入った。


 …………そういや、ミヒャルトの用意した毒って体内に入れてやればやっただけ、効果が出るのも早まる……んだった、よね。

 腰のポーチには、自分は使わないからと預かったは良い物の仕舞い込んだ……ガラス瓶。

 その中では赤紫色を内包した、ドス黒い液体がたぷたぷと揺れている。

 私は、狼の首を駆け上った。


 上手く行けば、儲けもの。

 その程度のつもりでやっていることだし。

 効果の有無に関わらず、試すだけ試して悪いこともないよね。


 私はボス狼の額にまっすぐ向かい、散々攻撃の的にした目印に……かつて愛用していた、槍へと手を伸ばす。

 目印だから、って突き立てたままにしていたけど。

 最後に、もう一仕事。

 ずっとずっとメイの為に頑張ってくれた槍だけど、最後にもう1回力を貸してほしい。


 私は深く刺さっていた槍を、力いっぱいに引き抜いて。

 その反動で、本当の目的地へと身を寄せた。


 私はボス狼の耳に取り付き、大きく槍を振り被る。

 今使っている槍じゃなくて、かつて愛用していたこの槍を。

 念には念を入れよって、言うし。

 ミヒャルトは傷口に塗っても効果があるって言ったから。

 私は、ボス狼の大きな耳の中に、全力で槍を突き入れた。

 がりがりがりっと、側面をえぐって深く傷つけるように引っ掛けながら。


 ボス狼の、怨嗟に満ちた怒りの叫びが上がる。


 そして。私は。



 ダイレクトに、耳へと毒液を直接注ぎ込んだ。



 毒液を全て流し込んだ後、微量を内部に残したガラス瓶も狼の耳の中に、投げ捨てて。

 逆流して溢れてこない様に、自分の羽織っていたケープを丸めて耳の奥へと叩き込む。

 惜しくない惜しくない、惜しまない!

 お気に入りのケープだったけど……自分でやったことだもん、惜しまないよ!

 それよりも、毒が流れ出さないことの方が大事だ。しっかり塞ごう。


 そして私の注いだ毒は……タイミングから言って追い打ち、になったらしい。



 変化の訪れは、いきなりだった。





 ぼこ、り

 ぼこ、ぼこ、ぼこ……

 ぐしゅ、

 ぐしゅぐしゅぐしゅ……ごぷっ ごびゅきゅ


 大凡(おおよそ)、生物から自然発生して良い様な音じゃなかった。

 それが、メイのすぐ側から。

 …………分厚い毛皮の下、狼の皮膚の奥の奥。

 その肉体の、内部から。

 

 蠢き、ぐちゃぐちゃと掻き回されるような音が。


 響いて、きた。


 ううん、響いただけじゃない。

 動いた。

 動いたんだ。

 皮の下から、肉塊が飛び跳ねるような。

 異様な感覚が走った。

 まるでスーパーボールが革袋の中で飛び跳ねるような。

 飛び跳ねついで皮を突き破ろうとしては、内部に跳ね返っていくような。


 異常な光景だった。


『き、き、か、きゅ……AAAAAAAAAAAAAAAAA$#、“aaaっ』


 狼の喉から、キリキリと鉄屑を引搔くような音がする。

 音、じゃないか……叫び。叫びだ。

 でもそれは、イキモノの声じゃなかった。


 あ、こりゃヤバい。

 なんか駄目だと、何かの始まりを悟る。

 このままここにいて、巻き添え喰らったら嫌だなって思ったので。

 メイは、慌てて狼の首から飛び退った。

 高い背の上から飛び降りて、他の仲間達がいる場所まで一気に退避……って、他のみんなも既に避難済み!?

 いつの間に作ったのか、間に合わせの様な防塁の向こうに三つの頭がピコピコ揺れる。

 来い来い早く来いって、皆が呼んでる。

 メイちゃんは全力ダッシュで、ミヒャルトとスペードの間に飛び込んだ。

 ちょっと遠いところの木からするすると降りて、援護射撃していたエステラちゃんも駆け寄って来る。

 もう援護射撃の、ううんそれ以外も含めて攻撃の必要はなさそうだと。

 それが見て取れるくらいの異変が、ボス狼に起きていたから。 

 

 この結果を知ってたっぽいっていうか、まさにこうなるだろうと知っていた筈のミヒャルト。

 皆の疑問に満ちた視線が、猫耳美少年に殺到です。

 

「ミヒャルト、アレ何? ナニが起きてんの?」

「どうやら無事に効果が出たね。予測より5分近く早いよ」

「いや、だからアレ何が起きてんだよ。それ俺が欲しい答えじゃねーよ。一体何呑ませたんだよアレ」

「他の魔物の血だけど?」

「へえ、あーそう……はいっ!? ナニのませたって!?」


 一瞬流したスペードだけど、ミヒャルトのその言葉は流せなかったみたい。

 うん、メイだって流せない。

 思わず訊き返して驚愕に身を震わすくらい。

 そのくらい、ミヒャルトの言葉は聞き捨てならなかった。


 今のって、つまりミヒャルトが用意した毒の正体……だよね?


 え、他の魔物の……血?

 魔物に、魔物の血肉を摂らせる?

 その発想はなかった……!

 うわぁ。

 なんとも「うわぁ」なお答えに、流石のメイちゃんもドン引いた。

 だけどミヒャルトは得意げになるでもなく、つまらない薀蓄でも語るみたいに、『毒』の正体を喋り出す。

 その間にも、『毒』を呑ませられたボス狼はとんでもないことになってたんだけど。

 あの、ボス狼さんの背中から2本の腕と狒々の顔が生えたり引っ込んだり前足がいきなり違うモノに変容したり尻尾が千切れたり魚が生えたり引っ込んだりと、お忙しいことになってらっしゃいますけど。

 それら全部の気持ち悪い異常を、さらっと無視して。

 ミヒャルトは語った。


「あの狼に呑ませた毒は、異なる18種類の魔物の血を極限まで濃縮してからブレンドしたものなんだ。人間は勿論、どんな生物が舐めても死ぬよ。それは魔物も、ね……」

「なんかさらっと言ってやがるが、割と頭のおかしいこと言ってる自覚はあっか?」

「前にあの狼と遭遇した時、スペードが危うく魔物堕ち仕掛けたからさ。その時に思ったんだ」

「……なにを?」

「うちの馬鹿犬が魔物になるとこだったんだ。この落とし前はきっちり付けてもらわないと、ってね」

「ミヒャルト……それ、お前なりの友情の形なのか? え、俺の為とか言う?」

「言わないよ、スペード。ただ個人的に僕の腹が立っただけ。因果応報って言葉、素敵だよね」

「目には目をでこんな惨状引き起こすか、普通!?」

「魔物の血肉を取り込んだ者は、同一の魔物になる。だったら魔物が他の魔物の血肉を取り込んだらどうなるとか、考えてみたことない?」

「ねーよ! だって魔物は魔物を襲わねぇじゃねえか。自然観測は到底不可能だろ」

「自然に起こり得ないなら、人為的に起こしてやれば観測できる」

「……その結果が、あれかよ?」

「そう。色々試してわかったんだけど、魔物に取り込ませても血肉の元となった魔物へ変容させようって流れは起きるみたいなんだ。だけど肉体は既に他の魔物になっている。そこで起きるのが、アレ」


 ミヒャルトはすいっと優雅な白い指で、絶賛とんでもないことになっている最中のボス(だったもの)を差します。

 なんとなく、不気味で静かな口調で淡々と語る。

 その冷静な語り口調が、なんか怖い。


「魔物の研究家にも意見を聞いてみたんだけど、魔物って血肉を取り込んだ者の魔力が高ければ高いほど、魔物への変貌は早くなるんだって。取り込んだ血肉は宿主の魔力を糧に成長し、育ちながら内側から侵食していく。……だったら、魔力を沢山蓄えこんだ強い魔物に他の魔物の血肉を呑ませたら?


答えは、急成長した他の魔物と元から肉体を支配している魔物の間で、支配権争いが起きる……ということかな。


 椅子が一個しかない椅子取りゲームを連想してもらえば良いよ。ただし椅子を巡って絶対に椅子が欲しい魔物たちの間で殺し合いが始まる」

「えっと? つまりミヒャルトの言葉を要約すると……いま、あの魔物の内部で飲み込んだ血肉に由来する18の魔物と、ボス狼の間で肉体の支配権争いが起きている……ってこと?」

「流石はメイちゃん、理解力が高いよね。そう、しかも自分の肉体にする分の血肉を巡って互いに食い合ってるんだよ」

「えぐい! ミヒャルト、それすっっっごく、えぐいよ!?」


 それってさ、ミヒャルト……つまり魔物の内部がいま蠱毒状態になってるってことでは……。


「けどそれってさ、最終的に殺し合いにケリついたらより強力な魔物が爆誕するってことじゃねーの……?」

「ふふ。何の為に僕が18もの魔物の血を混ぜ合わせたと? 魔物の数を減らせば、殺し合いの規模も小さくなる。結果として肉体争いの勝者も出てしまう。その時にはスペードの言った通りの結果にもなるよ。だからそうならないように、調整したんじゃないか」

「……っつうと?」

「より魔物の争いが激化して、全部共倒れになるように殺し合いの面子を増やしたんじゃないか。加えて言うと、19もの魔物が内部で争えば肉体の方が耐えきれず、やがて自壊する」


 ほら、あんな風に。

 ミヒャルトがそう言って、もう何の魔物とも言えなくなった形状の魔物へと顎をしゃくる。

 そこには……変質を繰り返して、何の形も取れなくなったのか。

 どろどろの半分液状化したナニかが……ってえぐいえぐいえぐい!!

 エステラちゃんとか泡吹きそうになってるから! 見てられないってばかりにヴェニ君の背中にしがみ付いてるから!

 エステラちゃんばかりか、人とは感性の異なるだろう竜のクリスちゃんまで怯えて毛羽立ってるから! ぐるぐる唸ってメイの懐に隠れようとしてる姿は本気で怖がってるようにしか見えない。

 それを言ったら同じ女の子なのにしっかりバッチリ見て卒倒もしないメイちゃんは何かって感じもするけれど!


 かつて狼っぽい形状をしていた、手強かった私達の敵。

 ボス狼は、いつの間にか息絶えていました。

 その死の瞬間すら、私達には掴ませないままに。

 けどね、うん。

 けど思うの……強敵だったのに、こんなに呆気なく。

 しかもこんな非道な殺し方で良かったのかな、って。

 ……いや、魔物に非道も何も考える必要ないんだけどね?

 なんか、釈然としなかった。


「狙った魔物一体一体に合わせて作る必要があるから、いきなり準備もなしに使えるモノじゃないけど……有効性は、確かだよね」


 ふふふ、と。

 軽やかな笑い声を立てて、ミヒャルトが爽やかに笑う。

 その、晴々とした笑顔を怖いと感じるのは気のせいだろうか……。

 ミヒャルト、君ちょっと……敵に容赦無さすぎじゃない?



 後に、このミヒャルト特製の対魔物用危険物には『神変鬼毒』という名前が付けられました。

 なんかどっかで聞いた名前です。

 ……それって伝説の、人間にはドーピング剤と化すけど鬼には猛毒って代物じゃなかったっけ。

 元祖、伝説の毒物とはかなり効用が異なると思うんだけど。

 それでも字面だけ見ると、魔物の正体を知ってるメイちゃんとしては「巧いこと言ったなぁ」って思ったのでした。




神変鬼毒

 ミヒャルト作

 魔物の血肉を摂取すれば、その魔物に変じてしまう。

 では、魔物が別の魔物を摂取すれば?

 そんな発想の下に作られた猛毒。

 その正体は異なる複数の魔物の血を濃縮し、ブレンドしたもの。

 今回は18種類の魔物の血を使用。


 時間をかけて実験と観察を重ねた結果、魔物が魔物の血を摂取してもより強い魔物が肉体を支配して終わることが観測された。

 だが、複数の魔物の血が同時に混在すれば?

 その時、器の支配権をめぐって肉体の内部で魔物の殺し合いが始まる。

 より強い魔物が勝つにしても、他の全ての魔物を制すのに時間がかかるのは必定。決着がつかず殺し合いが長引く量を慎重に分析し、内部での争いに肉体が耐えきれず崩壊する結果を導くには魔物によって最適な血のブレンド比率が異なるという。

 神々の魂の争いに耐えきれずに自壊した肉体は、傍目にそれは酷い物だという。

 元々魔物の血肉は宿主の魔力が強い程に浸食が早まる。

 宿主の魔力を喰らい、それをエネルギーに成長して肉体を奪い、最終的に自分のものとする。

 その習性を逆手に取って考えれば、多くの魔力を蓄えた強い魔物であればあるだけ摂取した毒(魔物の血)の急激な成長を招くこととなり、内部の侵食への対応が間に合わなくなっていく。

 まさに魔物を殺す為の毒といえよう。

 しかしブレンドの比率見極めに失敗して内部争いに早々の決着が着くようであれば、他の魔物の欠片を取り込んでより強力な魔物へと成長する危険性がある。


 ちなみに魔物と魔物の間には絶対的なランク分けともいえる階級が密かに存在し(神々の時代の名残)、ランクが下の魔物はランクが上の魔物には絶対に逆らわない。

 よって体内に血肉を混入させても、そこにランク差が存在すれば争うことなく肉体の支配権を持つ魔物はどれかが確定する。

 故にこの毒を正常に作用させる為には、狙った魔物とほぼ同ランクの魔物に的を絞って血肉を集める必要がある。(同ランクの魔物なら決着がつくまで延々争うので自壊する確率がより高まる)


 ミヒャルトが作り出した毒はまさに画期的かと思われたが、魔物の血を濃縮することに手間とコストがかかり過ぎること、そして毒を与える魔物によって成分を調整しなければならないという汎用性の無さがネックになって普及はしなかった模様。



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