11-8.別行動 ~お宅訪問編~
今回、同時に別々の場所で進行している事態……という訳で。
後半は珍しくぺーちゃん視点でお送り致します。
その朝は、村の裏手にある森から清々しい風が吹いていた。
朝露が日の光に煌き、何とも爽やかな1日の始まりを演出している。
そんな、朝に。
メイちゃんと他のみんなは絶賛別行動中です☆
リューク様の様子見を兼ねて、いきなり押し掛けることにはなるもののリューク様達の朝稽古に参加させてもらおうと出かけるヴェニ君達。
……ミヒャルトとスペードがなんか不穏な気配を滾らせていたような気がしたけど、気のせいかな? 修行への意気が高まってただけかな……?
なんだかちょっぴり不安になる面構えで、幼馴染達は手に馴染んだ獲物を片手に出ていきました。
メイはお留守番を厳命されてたけど、うん。
素直に従うなんて、約束はしてない。
宿屋の女将さんの証言からヴェニ君にバレたりしないように、私はそっと窓から脱走しました。
最初の目標はセムレイヤ様1柱!
我らがストーカー同盟No.2である神様に、なんで最近メイちゃんにお話ししに来ないのか、事情を聞いてみないといけません。
一応、寝床の場所は調べがついてるし。
ヴェニ君達がリューク様その他に接触している間に、リューク様のお部屋……にある、セムレイヤ様の寝床をお訪ねしてみようと思います。
……図らずしも、リューク様のお部屋訪問!
ちょっと主目的とは逸れるんだけど、そう思うとテンション上がっちゃう!
今まで我慢してたけど、犯罪臭漂うけど!
これは仕方ないことなんです。
うんうん、仕方ないない不可効力!
だってセムレイヤ様の現世での寝床が、リューク様のお部屋にあるから!
よーし、リューク様のお部屋に忍び込んじゃうぞー!
メイちゃんは良心的なストーカー|(を目指している)ので、リューク様の私物やら何やらに手を出すつもりはありません。窃盗はめっ!
今後も良心的にその方針を貫くつもりだよ!
なので、お部屋に入り込むくらいは勘弁してほしいと思う。
何だったら、ちょっと見るだけでセムレイヤ様を呼び出せたら場所を変更しても良いし。
ただただちょー……っと、リューク様が普段どんなお部屋で寝起きしてるのか、とか。どんなインテリアなのか、とか。
そういうのがほんのちょっぴり気になるだけだけ。
眺めて満足しちゃいたいだけ!
ほら、メイちゃんってば知的好奇心旺盛なお年頃なので! まだまだ10歳なので! まだ、ぎりぎりまだ! 多分犯罪には抵触しない……!かな!!多分。
ぎりぎり子供の悪戯で万事が許されるお年頃だよ、お子様万歳!!
……っと、いけないいけない。
ちょっとテンション上がり過ぎました。
落ち着け、落ち着けメイちゃん……!
冷静な思考と判断力が、犯ざ……作戦を成功させる重要な第一歩です!
セムレイヤ様とのお話は、なるべく簡潔に済ませる!
それでお部屋には未練残さず、ちゃっちゃとバイバイする!
じゃないとボロが出そうです。我ながら自制に自信がない。
無意識にリューク様のお部屋を漁りだす前に、ちゃんと場所は移動しよう。
ついでに修行しているリューク様達を俯瞰できる場所に移動して、朝の修行風景を見物しちゃいたいところです。
……セムレイヤ様、見学に穴場の場所とか知ってるかな?
さあ、セムレイヤ様に異常な事態が起きてないか、確認しちゃうぞー!
メイちゃんは意気揚々、わくわくしながらリューク様のご実家に潜入を決行しました。
一応、お家の間取りは知ってる。
前世の『ゲーム』で大体はわかるけど、『ゲーム』と現実はやっぱり違うから。
大まかな間取りは同じでも、実際の家となると削ぎ落とされていた実生活上必要な機能が備わる分、家の中身も色々と変わります。
その辺、去年の内に下調べはしてあったりする。
事前の用意は大事だよね!
例え実際に使う予定がなかったとしても、セムレイヤ様と情報の擦り合わせしておいて良かった!
「……っと、こんなところにも鳴子が。危ない危ない」
だけど忍びこんでみて、ちょっと驚き。
……うん、仕掛けたのはラムセス師匠かな?
リューク様を守るって使命上、防犯設備に気を使うのは当然だろうけど。
罠、とはまた違うけど……対侵入者用の仕掛けがあちこちにあって一苦労です。
村の子供が遊びに来たりして引っ掛かることを想定してか、幸いにも殺傷力のあるものは無いのが救いかな!
でも鳴子の数が多すぎて、うっかり鳴らしやしないか冷や冷やする。
鍛えておいて良かった、潜伏技術!
ヴェニ君との追いかけっこに費やしたあの1年は、しっかりとメイちゃんの血となり肉となっていた模様。
あの1年……ヴェニ君の勘の鋭さ相手に磨いた技術の下地あれこれがなければ、リューク様のお家に50mくらい近付いたあたりでラムセス師匠に存在を捕捉されていた気がする。
積み重ねって大事だね。
そして経験ってやつは、いつかは活きるもののようです。
リューク様達が修行の場に使っている裏庭からは、様子を察知しにくい逆側の茂みから、こそこそ侵入。
お家の中の人に気付かれないよう、2階にあるリューク様のお部屋目指して木に登る。
あまり派手に動いたら音がするから、そーっとそー……っと。
「わあ☆ こんなところにも鳴子ついてるー……ラムセス師匠、本当に本気だねぇ」
鳴子が鳴らないよう、だけど無力化はしないよう。
その加減ってちょっぴり難しい。
慎重に慎重に、ゆっくりと苦労しながらリューク様のお部屋の窓まで到着したのは、潜入を開始してから15分も経っていた。
窓のお外に張り付いていたら目立つ。
誰かに見咎められない内に、ひょいっとリューク様のお部屋に侵入……わあ、ここがリューク様のお部屋。
田舎の子供の部屋なんて、どこも似たような感じかもしれない。
だけど、それでも。
私は感動して、目をお皿みたいにしてリューク様のお部屋を眺める。
わあー……『ゲーム』のお部屋そのまんま!
木製の小さなベッドに、書き物机と小さな椅子。
ハンガーラックには青い肩掛けカバン。
小さな衣装箪笥に彫り込まれた、蔦模様も『ゲーム』とおんなじ!
わあ! わあ! 『リューク様のお部屋』だあ!!
画面の中に見た覚えのある風景と、全く同じ場所。
勿論、『ゲーム』の中にはなかったモノも幾つかあったりする。
例えば机の上には作成途中の木彫りの帆船。リューク様の自作かな? リューク様ってこういうモノを作ったりするんだ……。窓際には小さな鉢植えがあって、小さな白い花が風に揺れている。花弁がふわふわひらひらしていて可愛い! 白いお花、好きなのかな。床に投げ出された子供用のブーツは『ゲーム』の初期装備に似ていたけど、『ゲーム』と違って補修の跡が目立つ。大事に履いてるんだなぁって一目でわかるよ。箪笥の上にはハンカチとタルト皿が飾られて……タルト皿? あれ、なんでタルト皿。(ここまで思考速度0.03秒)
首を傾げながら、きょろきょろと他にも画面の中との差異を見つけては関心を寄せる。
……っと、本題! 本題忘れちゃ駄目だよ、メイちゃん!
うっかり気を逸らしていた時分に気付いて、慌ててセムレイヤ様を探す。
……いや、うん。
探すまでもなかった。
『メイファリナ、落ち着きましたか?』
「うん……メイに気付いてたんなら、すぐに声をかけてほしかったかな」
『声はかけましたが、貴女の耳には入っていないようでしたよ?』
「ええー……」
『ふふ、おはようございます。メイファリナ』
「うん。セムレイヤ様、おはよー」
セムレイヤ様は探すまでもなく。
いつの間にか、メイちゃんのめっちゃ目の前にいました……。
もっと早く気付こう、自分。
ちなみにセムレイヤ様の寝床は、リューク様のベッドの隣。
床の上に堂々と鎮座した、ふかふかクッション(花柄)だった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
早朝から修行が日課だなんて、御苦労なことだね。
猫の獣人だからか、ミヒャルトがちょっと眠そうにしながら呟く。
ミヒャルトは少し朝に弱い。
弱いがちゃんと起きる辺り、意思の強さが出ている。
それでも朝の内はちょっとぼんやりしているのが常だが……
標的の修行場を前にして、いきなりしゃんとした。
眠気に、戦意が勝ったっぽい。
ミヒャルトは割と好戦的だから、『敵』を前にすると意思の力で本能を捩じ伏せる。目覚めもすっきり覚醒だ。
「此処が、馬の骨の家……」
「ああ。憎いあん畜生の家だな」
「お前らちょっとは本音隠せ」
頷き合う俺とミヒャルトに、師匠が呆れた目を向ける。
「ヴェニ君、正直なのが僕の美徳だよ。この僕の性格で、虚言まで駆使するようになったら誰の手にも負えなくなると思う」
「自覚があんのは結構だが、その自己認識どうなんだ」
「言われてみりゃ、ミヒャルトって嘘はあんま言わねぇよな。へ理屈こねたり、紛らわしい言い方に置き換えたりはすっけど」
「その場しのぎの嘘って嫌いなんだよね。辻褄が合わなくなったり、状況が変わったりしたらすぐバレるから。一生涯騙し通せる保証なんてどこにもないでしょう? 事実が露見した時のリスクを考えると、早々滅多な事じゃ嘘なんて吐けないよ」
「リスク計算して嘘を言わねぇガキとか……」
ヴェニ君が心底嫌そうな顔をする。
けどミヒャルトはどこ吹く風だな。うん。
俺らが今日、この場所に足を向けた理由、ヴェニ君はやっぱ察してたっぽい。
メイちゃんと別行動してまで、俺らがどうして此処に来たのか。
それは……まあ、言わなくったってわかるよな。やっぱり。
「取敢えず今日は、まずは様子見のつもりで来ただけだよ」
「そうそう。まずはあん畜生がどの程度のものか……力量を測りにきただけだぜ、ヴェニ君。だから心配しないでくれよ」
「まずは相手の実力を把握しておかないと、今後の算段も立てようがないからね」
「お前ら、余所様んとこで不穏な計画立ててんじゃねえ」
「そうは言うけど、俺らより強いか弱いか……そこだけでも調べとかねえと。大事な要素だろ、な?」
「勿論、その通りだよ。だけど本当に、今日は馬の骨とやらがどれだけの強さなのか見るだけだから。ヴェニ君、僕達が何か粗相するかも、なんて……心配しなくて良いんだよ?」
「心配すんに決まってんだろうが、ど阿呆! んなこと言っても、好機と見りゃお前らはどさくさに紛れて相手の骨の一本も折りかねねえ」
「もうちょっと弟子を信用しなよ、ヴェニ君」
「あーあ、俺らってマジで信用ねえよなー」
「信用してほしけりゃ、日頃の行いもうちっと改めろ」
じっとりした目で見てはくっけど、驚きはヴェニ君に無かった。
俺らがどういうつもりで、此処に来たのか……ヴェニ君は言わなくっても気付くのに、なんでメイちゃんは気付かねえんだろうな?
ヴェニ君が聡いのか、メイちゃんが鈍いのか……後者か、やっぱ。
「少しは手応えのあるヤツだと、こっちも手加減しねぇで良いんだけどな」
「馬鹿だね、スペード。手応えがあったら手強い敵になるかもしれないじゃないか」
「それもそうだな」
「この色ボケ馬鹿どもが……目に余ったら、殴るから覚悟しとけ」
「「えー……」」
思わず不満の声を上げたら、早速ミヒャルトと2人で殴られた。
頭を押さえて蹲る俺らを疲れたような顔で一瞥して。
ヴェニ君はさっさか先に行っちまう。
「――トーラス先生!」
「んむ? おお、ヴェニか。おはよう」
「おはよーございます」
勝手にヴェニ君が覗き込んだ先は、広めの庭。
田舎は土地が広いってホントなんかな。
ちょっとした空き地並の広さがあるけど、柵に囲まれて庭だってわかる。
固く地面の踏み固められたそこの片隅に、いろんな武器が積まれていて。
他にも案山子みてぇなのとか、矢の的とか色々あって。
なんか筋肉のすっげぇオッサンと、昨日メイちゃんに紹介されたトーラス先生って爺ちゃんがいる。
「あれ、昨日の……」
そんで木刀を手にしたリュークって野郎がいた。
きょとんと罪のねえような顔しやがって。
此奴がどんな奴なのか、俺は知らん。
知らん、が……どうやってメイちゃん誑かしやがったこの野郎!?
俺が、俺らが、散々さんっざん、それこそちっせぇ頃からこつこつこつこつアプローチかけまくってるってのに、見事に全スルーしまくりなあのメイちゃんの!
こう言っちゃなんだが、いつだってずっと別の何かに夢中って感じで、俺らのわかんねえことにばっか気持ち向けてて、こっちの気持ちには全然全くこれっぽっちも気付いちゃいねえ、あのメイちゃんの!
その興味関心をどうやって引きやがったのかと……
これが、恨み骨髄。
逆恨みだろうがなんだろうが、憎らしいことにゃ違いねえ。
この腹立ちのままに、あのお綺麗に整った面を殴りてえな。おい。
「――……はっ殺気!?」
あ、筋肉のオッサンが身構えた。
どうも俺らの嫉妬と執念と怨念の入り乱れた気持ちに気付いたっぽい。そりゃ気付くわな、一端の武人なら。
俺らもまだまだ未熟者だし。憎悪マシマシだったし。
武人のオッサンは俺らが殺気を放つ理由がわかんねえのか、難しい顔をしてんぜ。そりゃ理由もわかんねえだろうな、初対面だし。
っつうか、理由がわかったら凄いぞ。
「……トーラス老、この者達は」
「ほっほっほ、昨夜話したじゃろう? 森の調査に来た賞金稼ぎの若者たちじゃよ」
「若いとは聞いていたが……まだ子供ではないか」
「同行した儂じゃから言うが、中々どうして大した腕じゃぞ。子供じゃと言うて舐めて良い実力ではないわ」
「そうか。……で、なんだこの殺気は」
「そんな、殺気だなんて……悲しい誤解です」
「ん?」
「初めまして、お早うございます。僕の名前はミヒャルト、賞金稼ぎの端くれとして活動させていただいています」
「ああ……私の名はラムセスだ。それで、誤解とは?」
「お恥かしながら、僕らはまだまだ未熟で……勘違いされても仕方ありませんが、滾る戦意が好戦的に過ぎるものとなってしまったみたいです」
「戦意、とは? そもそも、どういったつもりでこの場に来たのか」
「実は、そこのリュークさん?が早朝から此方で修行をされていると聞いて……僕らもまだ修行中の身ですから。同年代で実践的な武芸に励まれている方と試合う機会もあまりありませんし。手合わせがてら修行する機会を共に出来れば、と思ったんです。僕らの戦い方はほとんど我流に近いので、ちゃんとした修練を積んでいる方の修行を見て勉強させていただきたいと……ちょっと、それで気が昂り過ぎたみたいです。僕らは普段から賞金稼ぎとして魔物や犯罪者を相手にする機会が多いものですから、戦意が高まるとどうしても気配が物騒になってしまうんですよ」
ぺらっとすらっと、息継も自然なタイミングでミヒャルトは言いきった。
うん、嘘は言ってねえよな。嘘は。
ちゃんとあの馬の骨と戦ってみてぇって明言してるもんな。
言い方を変えただけで、目的は別に摩り替ってもねえし。
ホント、ミヒャルトはこう言う時に上手い言い回しをするなって感心するぜ。同じ歳だってのに、俺にはああもぺらぺら上手くは喋れそうにないし。
「同世代の方と手合わせる。貴重な機会をいただきたいのですが、どうでしょうか」
そう言ってにこっと微笑む、ミヒャルトの顔は。
家の近所のおばちゃん共を軒並み騙しきった、外行き用の特大猫をしっかり深く被りきった、めっちゃくちゃ善良そうな顔をしていた。
その本性を知ってるだけに、俺は寒気が止まらねえけどな!
ヴェニ君も疲れたような顔で、視線を地面に落としている。
申し出を受けるも断るも、判断はラムセスっつうオッサンに何故か託された。
馬の骨はなんか目ぇ輝かせてわくわく期待した面してやがったけど。
ミヒャルト曰く戦意(=殺気)に対する判断を、どう処理したもんか。
ミヒャルトの申し出にオッサンが是と頷いたのは、5分の熟考の後だった。
ミーヤちゃんの外面はハイレベル。




