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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
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11-6.想定外の雲行き

なんか書いている内に、小林も想定していなかったイベントが発生しつつあります。




「《 聖なる血に胸染める鳥よ 》」


 トーラス先生の、凛とした声が響きます。

 裂帛の気合いが込められたそれは、いつもの老齢(とし)を感じさせるものとは全然違う。

 若い訳でもないけど、不思議な張りがあって、独特の雰囲気がある。

 これが『呪文』……獣人のメイちゃんには、縁遠い技術。

 今までに聞いたことがない訳でもないけど、やっぱり熟練の達人の詠唱はナニかが違うみたいに感じる。

 きっとトーラス先生(ゲームキャラ)の呪文だからこそ。

 それは物凄く堂に入った響きを宿していた。


「《 慰めの歌をうたえ【Erithacus rubecula】 》」


 詠唱の結びを鍵に、トーラス先生の杖から赤銅色の光が噴き出す。

 光は細かく千切れ、鳥の形状(かたち)を取って空から飛来した。

 私達の目の前には、3頭の狼と8羽の梟。

 森には狼以外の魔物もいる。

 その中でも狼と同時に現れる組合せでは、梟が1番多い。

 地を駆ける俊敏な獣と、空から襲ってくる夜の狩人。

 今は昼だけど、頭上にも注意しないといけないってなると厄介です。

 特に空からの攻撃は、反撃のタイミングが難しい。

 遠く上空まで逃げられると、追撃は届かない。

 だから必然的に、飛距離のある攻撃手段を持った……ヴェニ君とトーラス先生が中心になって対応している。

 そっちをお任せする代わりに、メイちゃん達は狼の相手だよ!


 トーラス先生の放った小鳥型の光が、梟を抑え込む。

 頭上の心配がいらない間に、私とスペードが同時に飛び出した。

 順番に回しているフォロー役は、今はミヒャルトの担当で。

 接近戦狙いの私達が狼と接触する瞬間、横合いから回り込んでいたミヒャルトが謎の粉末を狼の顔面めがけて投げつけた。


「ぎゃいんっ」

 

 うわぁ、顔面ヒット……!

 モロに命中した、途端に。

 ……被害に遭った狼が鼻面押さえて転がり悶えだしたんだけど。


「おいおい、何投げつけたってんだ……?」

「前に君で実験したやつ。狼の鼻殺し」

「あれかー……ありゃ苦しみ悶えるのも仕方ね・え・なっ」


 魔物と獣は、全然違うけど。

 『狼』という類似点から自分を重ねちゃったのか、それとも『実験』の詳細を思い出したのか、スペードが戦慄している。

 それでも、その間にも。

 自分に跳びかかって来た狼の牙を構えた山刀で弾き、狼が後退するよりも先に回し蹴りが狼を吹っ飛ばして地面に叩きつける!

 流石はスペード、身のこなしが鮮やか!

 私も負けていられないよね……!

 

 私の方にも、狼が襲い来る。

 大丈夫、落ち着いて対処すれば、こんな狼なんでもない。

 羊さんの底力、見せちゃうよ!

 私が一閃させた槍は、間合いが広い。

 その分、避けるとなると大きな動きを要する。

 狼が跳び退るのと同時に、こちらから眼前へと踊り出て……

 狼の顔面に、蹄キックをお見舞いだよ!

 

 蹄の裏から、何かが砕ける感触がした。

 メイは痛くないから、痛い思いをしたのは狼の方じゃないかな。

 とどめは槍の更なる一閃。

 絶命を確認してから、ミヒャルトが行動不能にした最後の1頭に向か……ったんだけど、その狼はもう動いていなかった。

 脳天に、ボウガンの矢が突き立っている。

 ヴェニ君のお仕事だ!

 

 我らが師匠は空の敵に専念している筈なのに、機会と隙は見逃さない。

 殺れると思ったら誰よりも早くボウガンの一撃がお見舞いされて、メイ達より遙かに沢山の撃墜数を稼いじゃってる!

 更には全体の状況を俯瞰しながら、時に手の足りていない場所に矢を打ちこんで牽制したり隙を作ったり。

 ヴェニ君の場の支配力は半端ないと思う。

 流石、チートキャラ……。


 こっちは空の戦いに手を出せないので、地上の敵を殲滅したら後は出来ることもそんなにない。

 ぼんやりトーラス先生やヴェニ君の活躍を見守るか、そこらへんに転がっている石を適当に投げて投石で梟を討ち取るか。

 だけど投石紐を使っても、ヴェニ君とトーラス先生にお任せした方が早くて確実で。

 こっちが尖った石を吟味している間に、梟は地に落ちる。

 私達の目の前にいた狼達の小集団は、あっという間に破滅へとエスコートされていった。

 後、やることと言ったら。


「クリスちゃん、お願い!」

「きゅわわ~!」


 狼や梟の死骸を集めて、クリスちゃんのブレスで焼いてもらうことくらいです。

 わあ、燃えてる燃えてる。よく燃える。

 魔物の死骸は、みるみる内に焼きつくされていきました。


 魔物の死骸を残せば、新たな魔物が増えるだけ。

 だから魔物の死骸を目にしたら、それなりの処理をすることが暗黙の了解になっています。

 魔物の研究をしている人の所に持って行ったら売れるけど、そうそういつも街まで無事に持って帰れるとは限らないし。

 それに持って帰るにしても、運べる量には限りがあるし。

 本当は救術の使える神官さんなり何なりに浄化してもらうのが、処理としては一番確実らしいけど。

 それでも救術使いの手が足りない時は、燃やして灰を地中深くに埋めたりするのが定番かな。

 どうしても、ど~うしても処理できない時は仕方がないから放置だけどね! でも放置すると魔物がほぼ確実に増量するので、後からの報告になっちゃっても近くの自治体に報告は必須です。

 報告を聞いて現地の人達が処理に行くってこともあるから、なるべく早めに報告はしなくちゃいけないんだよね。

 

 そんな感じで、魔物の処理って結構面倒なんだけど。

 私達のところには、去年からクリスちゃんがいるから!

 私達も一から火を起こす必要がなくなって面倒省けて万々歳!

 クリスちゃんは竜、つまりは神の眷族です。

 そのブレスでなら他に延焼させることもなく、狙った魔物の死骸だけを無に帰すまで焼き尽すことが出来る。

 うん、なんかね? どうもクリスちゃんのブレスって、燃やしたいものを取捨選択できるっぽい。それが神の業ってやつなのかな、地味に凄いよね。

 ちなみにヴェニ君達にとってクリスちゃんは目下のところ『謎の生物』だけど、聖獣疑惑のお陰でちょっとの不思議は見逃してもらってる感じかな。

 どっちにしろ最終的にはクリスちゃんに処理してもらった方が楽って点では同じ気持ちみたい。


 

 森に入ってから、早数時間。

 もうすぐ日暮れという頃合い。

 数時間の間、ひたすら狼と戦って、戦って、戦った私達。

 それを目的として森に来た筈だったんだけど……

 戦えば戦う程に、私達には戸惑いが隠せなくなってきました。


「やっぱり、おかしいよね」

「……まあ、予想は外れたな」


 処理能力が飽和しちゃうくらい沢山の狼と戦うことを想定して、今回森に入った私達。

 だけど今さっき相手にした狼は3頭で、追従している他の魔物もそんなに多くない。

 狼魔物との戦いは、私達の予想とは異なる展開を見せました。

 てっきり、物量まかせの消耗戦を強いられると思ってたんだけど、ねー?

 数が多いことは、多い。

 だけど、いっぺんに全部と!……って感じにはならなかった。

 なんというか、小出しって言えば良いのかな?


 森の中、頻繁に狼とはエンカウントする。

 エンカウントするんだけど。

 それは大多数、ではなく決まって『小集団』規模に留まる範囲内。

 何なのかな、これ。

 狼さん達、班行動でもしてるのかな。

 1頭だけの単独でっていう狼もいないけど、10頭を超す数に一度に遭遇することもない。

 他の魔物を率いているパターンも多いけど、それだって過剰な量とは言い難い。

 それに他の魔物を率いているのは決まって狼の頭数が少なめの群れで、追従している魔物と狼を合計して15頭を超えることは絶対になかった。


「めぅー……あの狼、何のつもりなんだろ? 何か思惑でもあるのかなぁ」

「はあ? 魔物に思惑? そんな大層な頭があんのかよ、あいつら」

「見くびるのは危険ですぞ。魔物は往々にして知能が低いとされておりますが……時として、例外はあるものですじゃ。特に力を蓄え、強くなった個体には程度の差こそあれ、知能らしきものが見られる例もありますぞ」

「「「「…………」」」」

「……あのボス狼、確かに強くはありそうだけど」

「けど力を蓄えてってのはどうだろーな。俺らが見つけてから、人間にさんざっぱら追い立てられて弱体化してる可能性もあるぜ」


 あの狼達は、なんでこんなことをしてるんだろう。

 まるで戦力を均一化して、周囲にばら撒いているみたい。


「もしかして、偵察隊……?」


 物量の大きさは、とても強い相手だろうと『個』を押し潰す。

 だけど群れの強みを放棄してでも、周囲に分散させなきゃいけない状況に、相手はある……?

 周囲の状況を測る為に、手分けをしているんじゃないか。

 私の推測は、そんなところだけど。

 他のみんなもそれぞれ、自分なりの推量でこの状況の不審さを怪しんでいた。

 だから必然的に、私達の歩みは慎重なものになる。

 一方で、放置していくことへの懸念から、小集団を見る度に一つ一つの群れを潰し歩く。

 集団が小分けにされているお陰で、相手の数に押し潰されないで済む。

 攻略の難易度は、必然的に下がっていた。


 本当は下っ端の小集団なんて放置して間を擦り抜け突き進んで、守りが手薄になっている可能性のある、ボスをいきなり狙っても良いんだろうけれど。

 ボス狼と戦っている時に、援軍として周囲にばら撒かれていた小さい群れに戻ってこられても堪らない。

 トーラス先生という、追加戦力がいたこともあって。

 私達は可能な範囲で狼を減らしながら、押し進みました。

 だけどこの分じゃ、小班の数を減らすだけでも手間取ることも確かで。

 狼の殲滅は、とても1日じゃ終わらなさそうな気配を見せていた。

 

 いくら潰しても、いくら潰しても。

 それでも小集団と森の中で行き合って、尽きることがない。

 どんな密度で森の中に散開してるのかな。

 数を減らすのも一苦労。

 大規模な集団といっぺんにやるのも大変だけど、小出しにされるのも大変。

 だけど撤退する猶予がある分、やっぱり小出しにされた方がマシかも。

 大規模集団が相手だったら、どっちかが力尽きるまで逃げる余裕はなさそうだから。

 余裕がなかったらこんな、日が暮れてきたから戻ろうなんて意見もきっと出てこなかったよね。


「想定外の事態なのは確かだし。ここは一度撤退して、準備し直すことも念頭に置いておいた方が良いんじゃない?」

「そーだな。もうすぐ日も暮れるぜ、ヴェニ君」

「折角、近くに宿を取ったんだし。通える範囲に拠点があるのに、わざわざ野宿する必要もないんじゃない?」

「一度、村に戻ろーぜ」


 「いっぺんに沢山」と「少数に何度も」とじゃ必要な準備も変わって来る。

 なんとなく、頭の隅っこに何か引っかかるモノがあったけど。

 ……うん、なんか、この状況。

 胸の中で何かもやもやするものがあるんだけど。

 そのもやもやを、追及するより先に夜がくる。

 夕方まで頑張ったけど、暗くなったら危険度も増すのは確実。

 特に梟が危険。夜に梟はマジ危険。

 なので、今日は出直すことにしました。

 対策を立て直して、また明日以降に挑戦するよ!

 

「やっぱりこの調子じゃ、今日だけで終わんないね」

「……仕方ねえ。日を改めるか」

「配下を削るだけで、どれだけの時間を費やすことになるのかな」

「何日かかるんだよ……」


 げんなりした様子の若干名。

 足取りも疲労で重くなるというものです。

 それでも一晩の休息を求めて、私達は村に戻りました。

 ……うん、村に戻ったん、だけどね。


 森から出たところで、声が届いた。

 耳から脳天を直接揺さぶるような、メイちゃんが絶対に聞き逃すことのない、記憶に焼き付いた少年の声が。


「――トーラス先生ー!」


 声が聞こえた瞬間。

 メイちゃんの肩がぎくっとして、背筋がしゅっと伸びた。

 だらだらだらっと流れるものは、きっと冷汗だよね……!

 だって。

 だって、忘れる筈もない。

 あの声は……!


 人知れず緊張に身を固くする私のことには、気付かずに。

 トーラス先生が顔をほころばせて声に応える。

 先生の、愛弟子の声に。


「おお、リューク! どうしたんじゃ、もうすぐ日も暮れる時間じゃぞ」

「先生を迎えに来たんだ。今日いきなり、森に行くなんて言うから。クラテスさんが、最近は森に狼の魔物が増えて危ないって言ってたし。先生も1人で森には行くなって……あれ?」

 

 薄闇の這い出す、夕暮れ時。

 元から薄暗い森の付近は、影はより一層濃くなる。

 その陰に、私達の姿は紛れていたのかもしれない。

 トーラス先生に駆け寄ってきたリューク様は、近くまで来てトーラス先生が1人じゃないことに気付いたみたいで。

 もしかしたらリューク様は、トーラス先生が1人で森に入ったと思っていたのかもしれない。それで、心配して迎えに来たんじゃないかな。

 だけどリューク様の予想は外れて、先生は1人じゃなかった。

 それも、一緒にいるのはリューク様の知らない顔ばかり。

 住民はみんな顔見知りな村の中、珍しい『知らない人間』を見つけて。

 リューク様は首を傾げて、不思議そうな顔をしている。


 そしてメイちゃんは。

 そんなリューク様の視界に入らないように、こそこそとトーラス先生のもっさりローブの影に隠れました。

 とっても頑張って身を縮めるよ!

 リューク様がトーラス先生に急接近したら、易々と遭遇の危険度が天元突破しそうな隠れ場所だけど! 

 だけど他に隠れられそうな場所がなかったから、仕方ないのー!

 森の茂みに隠れようとしたら、まず間違いなくヴェニ君に見咎められて詰問されちゃうから……!

 今でも引きを潜める私を、ヴェニ君達が怪訝そうに見下ろしてたけどね?


「先生、そっちの人達は?」

「……ああ、うむ。この者共は、賞金稼ぎの……使い、でのぅ。森に魔物が増えた件で、討伐の事前調査に来ておる」

「討伐の調査! トーラス先生とラムセス師匠だけじゃ手が回らない、とは聞いていたけど……俺とあまり歳も変わらなさそうなのに、凄いんだね」


 リューク様の目が、称賛の色を乗せてヴェニ君を見る。

 この中でトーラス先生を除いて最年長は、ヴェニ君だから。

 きっとヴェニ君をリーダーだと思ったんだろうね。

 うん、間違ってない。


「それで少々、縁があってのぅ。儂が森の案内をしておったんじゃ」

「言ってくれれば、俺が案内したのに……。先生よりも、俺の方が森の中には詳しいんじゃないかと思うんだけど」

「そ、それもそうかもしれんがのぅ。今の森は危険じゃと言うとろう? 子供にはとても頼めんわい」


「森に潜ってる俺らも子供だけどなー。ははは」

「黙れ、馬鹿犬」

「他人様の会話に入り込むなんて非常識だよ」


 ほんのちょっぴり言葉を選びつつ、トーラス先生が何かを誤魔化そうとしている空気を読んだんだと思う。

 そういうのを考えなしに発言したスペードの両脇に、左右からヴェニ君とミヒャルトの肘が吸い込まれました。わあ、良いの入ったね。

 そしてついで、といった風に。

 ヴェニ君とミヒャルトの目が、チラリと身を隠すメイちゃんを見た。

 ……あ、うん。

 これ、『前に私がやらかした男の子』が誰か、言外に言ってるようなもんだよね…………2人も、察したようです。

 察されたからには、心おきなく気配を殺して隠れるよ!


 そうこうしている間に。

 メイの存在にはまだ気付かないまま。

 何事か考え込んでいる様子で、リューク様が言いました。


「……同じ年頃の子達が、平然と潜ってるのに駄目なんですか」

「う、うぅん……一応、彼らは玄人じゃからの。賞金稼ぎとして、既に十分な経験を積んでおる、と儂は聞いておる」

「俺も、先生や師匠にずっと鍛えられてきたし。足手まといにはならないと思うんだけど」


 あれ?

 なんか、雲行きが、あ、あやしい……ような?

 ちょっとだけ。

 ちょ……っと、だけ。 

 そ~っとトーラス先生のローブから、見つからないように顔を出してリューク様を見上げてみる。

 リューク様は、少し拗ねているような顔をしていた。

 うん、拗ね顔かわいい。

 ……って、それどころじゃないよ!


 なんか一瞬、目が合った。


 …………気がした。

 

 そんな気がした瞬間に、亀より素早く首を引っ込めたから、本当に目が合ったのかどうか確証はないけどね!?

 でもどうしよう。

 なんか失敗した気がする。

 錯覚! ここに子羊ちゃんがいるのは目の錯覚だよ、リューク様!


「先生、その探索……俺も一緒に行っちゃ駄目かな」


 そしてリューク様が、突然投下した爆弾発言に。

 メイは思わずきゅっと身を縮めて息を止めた。

 トーラス先生のローブに縋りついて、無意識に首をぶるぶる横に振る。

 やだやだだめだめ。

 願ってもない観察の好k……って、だからだめだめ!

 そんなことになったら、メイちゃんも一緒に森を探索しちゃうんだよ!?

 それどんな生殺s……じゃない、違う、だからメイちゃんが見つかっちゃうのは駄目なんだって!

 顔を合せることになったら、将来の夢(ストーカー)に支障が出ちゃうから!

 下手したら御破算になっちゃうから!

 

 メイちゃんは、私は、大混乱で。

 どうやってその事態を上手に避けたモノかと困り果てながら、トーラス先生のローブをぐいぐい引っ張っていた。

 自分は上手に隠れられているって。

 さっきの咄嗟の一瞬で、しかも焦って動転していたのに。

 本当に上手に隠れられているのかと、自分のことを疑いもしないで。


 そんな、私のいる辺りを。


 トーラス先生の正面側、から。

 リューク様がじっと見ていたことなんて。


 …………当然ながら、裏っ側にいるメイちゃんにわかる筈もなかったよね。

 

 ついでに先生のローブの端っこから、うっかりメイちゃんの白いふわふわ髪の毛がはみ出ていたとか。

 そんなこと、全然気付きもしなかったよ……。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「なあ、ミヒャルト」

「なんだい、スペード」

「俺の気のせいかも、しれねぇんだけど、さあ」

「うん」

「………………『リューク』って名前、聞き覚え……ねえ?」

「……うん。あるよね」


「気のせいじゃ、ねぇんならさ…………修行ん時、たま~にメイちゃんがそんな感じの名前、口走ってなかったか?」

「奇遇だね、スペード。僕もそんな気がするよ?」


「「………………」」


「どうする?」

「どうするって……決まってる、よね? スペードも協力するよね」

「当然だろ。これは、俺ら2人の脅威だろ」

「だよね。ふふ……ふふふふふ? ………………どうしてくれよう」

「殺しだきゃダメだぞ、ミヒャルト。俺らが賞金首になっちまう」

「……見縊らないでよね、スペード。僕がただ、殺して満足するような男だと?」

「…………ミヒャルト、お前ホント……敵に回すと恐ろしい男だぜ」


 どうしようどうしよう、リューク様に見つからずに済むには、どうしたら良いかな!?……なんて。

 トーラス先生の背中で、1人メイちゃんが焦っている時に。

 なんか端っこの方で幼馴染達による、黒い密談が横行していた……とか。

 そんなこと知る由もない、メイちゃん(10)でした……。

 ……というかこの密談くらいは気付いた方が良かった気がする。


 





『Erithacus rubecula』ヨーロッパコマドリの学名

 磔刑に掛けられたキリストに慰めの歌を贈っただか茨の刺を抜こうとしただとかで、キリストの血で胸を赤く染めたという民話があるそうな。それってある意味、返り血?

 小林には残念ながら呪文とか考えるセンスがなさそうなので、動物にまつわる逸話を適当に引用しました。

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