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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
10さい:『序章』 破壊の足音を聞きながら
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11-1.平和な果たし合い

最終章、はじめました。



 麗らかな日差しの下に、ひらひらと蝶が舞います。

 あの翅の動き1つでも世界は変わるって言ったの、誰だったかな?

 まあ、今生のメイちゃんには、もう調べようもないことだけど。

 ぼんやりと空を舞う蝶を見て、溜息ひとつ。

 なんでこんなことになっちゃったのかな……。


「お姉ちゃん! 今日こそ僕達が勝つからねっ」

「ま、負けない……! お姉ちゃんには負けないもん!」


 ……うん、本当にどうしてこうなっちゃったんだろ?


 私の目の前には、ちっこい子達がわきゃっと並んでいます。

 うん、どっから見ても我が家のちびっ子ちゃん達ですね。

 偽物にすり替ってたり、しないよね?

 あー……でもこんな可愛い偽物はないだろーなぁ。


 みなさん、こんにちは。

 白い羊獣人のメイちゃんです。

 今年で、10歳になりました!

 そんなメイちゃんは、今現在。


 何故か弟妹に挑まれ中です。


 それも、これで13回目だったりします。

 わあ☆ 13回だって!

 ……不吉だね。


「それじゃ、毎度のことだが改めてルール確認しとくぞ」

「よろしくお願いします、ヴェニさん」(ぺこり)

「お、お願いします……」(ぺこり)

「……おい、こいつらヤケに礼儀正しいな? マジでメイの弟妹か?」

「ヴェニ君、その疑いは酷い!」

「んじゃ、さくさく確認しとくか」

「しかもスルーされた!」


 ご丁寧に果たし状まで用意してきましたよ、チビちゃん達。

 まだ4歳ながら、意外にユウ君が達筆で驚きました。

 獣人の子は乳幼児期の成長が早いけど、これは成長早過ぎだと思うの。 

 メイだって、ヴェニ君に挑んだのは5歳の時です。

 アレはアレで早熟な気もするけど、でもメイには前世の記憶がある分、精神面では成長早くってもおかしくないと思うんだよ。

 たった1歳の違いだけど、幼少期の1歳ってとっても大きい気がします。

 うん、ユウ君もエリちゃんも、まだ武器を持つのは早いんじゃないかなー?

 武器といっても、2人が持ってるのは玩具みたいなものだけど。


 ユウ君は手に、木の棒を丁寧に削って磨いて艶を出した、小さな叉股を握っています。

 誰かに向けたら危ないので、棒の先っぽはそれぞれ綿を詰めた布でカバー。

 ちゃんと持ち主の年齢や体型にも配慮して、取り回しに不便のないよう細工済み。

 ちなみに私が作りました。


 一方エリちゃんは、手に玩具の弓を握っています。

 竹ひごで作った代物ですが、簡素な作りの割に意外に貫通力があります。

 だけどちびっ子に貫通力のある弓矢なんて危ないので、矢の一本一本、鏃の部分は綿を詰めた布で覆ってあります。

 当たると地味に痛い、レベルで済むように調整済みだよ!

 ちなみにこれも私が作りました。

 

 うん、私ったら何作ってるんだろうね?

 いくら可愛い弟妹にねだられたからって、それで自分が攻撃されてたら世話がありません。


「おう、ほら、てめぇらー。そろそろ始めんぞ」

「ヴェニくーん……なんだかすっごく、楽しそうだね」

「……まぁな?」


 10歳の、それも修行なんてしちゃってるようなメイちゃんと、4歳のちびっ子達じゃハンデはどうしても必要なので。

 メイは身体のどこかに双子ちゃんの武器に接触されたら即負けということになりました。

 それが判定し易いように、ちびっ子達の武器には布部分にインクを含ませてあります。

 こうなるとメイちゃん、ハンデ取られ過ぎじゃないかな!?

 そうも思うけど、むしろちびっ子の攻撃なんぞ避けれて当然だろってヴェニ君に言われると、文句も出せません。


「ハッ……俺だって追い回されて挑まれまくったんだ。メイ、てめぇだって自分のしたこと棚に上げんじゃねぇぞ? 挑まれたからには、誠実に応えねぇと……だよなぁ?」

「うわー……ヴェニ君、その顔めっちゃ意地悪いよ。女の子にモテないよ」

「うっせぇ、余計な世話だ」


 メイちゃんの可愛い弟妹は、特にユウ君が頭良くって。

 公平性を期す為、なんてちっちゃい子なのにとても立派な主張を掲げ、何をどうやったのかヴェニ君を審判(レフェリー)として引きずり出してきました。

 引きずり出した、とは言っても。

 どう見ても明らかにヴェニ君ってばニヤニヤ面白そうに笑ってるんだけどね!!

 むしろ率先して、私と弟妹の果し合いを取り持ってます。

 あれ絶対、メイが「師匠になってー!」って1年間追い回したことの意趣返しだよ。

 これも因果応報って言うのか……なんなんだろ。

 

「おい、羊チビ。これも修行の一環と思え? 遥か格下の相手に手加減すんのだって、絶妙な技術を要するんだぜ」

「尤もらしく言っても、メイ騙されないからね」


 取敢えず、ヴェニ君のニヤニヤ笑いがむかっとしたので。

 腹立ちまぎれに、嫌がらせめいたことを言ってみる。


「……暇になったら、ヴェニ君の部屋でミヒャルトやスペードと『宝探し』してやる。ベッドの下とか、確認してやる……!」

「おいマジ止めろ!?」


 試しに思いついたことへの、ヴェニ君の過剰反応。

 これは……冗談のつもりだったけど、もしかして?

 ……うん、今度2人を誘ってマジで決行しようと思います。


「お姉ちゃん、気を散らさないで……本気でやって」

「あう、ユウ君に怒られた」

「今日こそ勝って、約束守ってもらうからね!」


 意気軒昂、真剣に。

 安全策は取ってあるとはいえ、武器を実姉に向ける双子ちゃん。

 この状況、傍目には何だかメイが嫌われてるみたいだけど。

 でも別に姉弟喧嘩をしている訳でもないし、メイが嫌われてる訳でもない。

 本当だよ?

 ただ、双子ちゃんの意思に、メイが反対してるだけ。

 それはヴェニ君だって同じ癖に、双子からの挑戦を止めもしない。

 そこは(メイ)が勝てば良いだけだろ、って。

 メイに丸投げだよ、あの師匠!


「僕達が勝ったら、明日から僕達も連れて行ってもらうんだから!」

「……エリちゃん達だけ置いてけぼりは、や!」

「エリちゃん……そんなはっきり言っちゃうくらい、寂しかったの?」

「べ、べつにクリスちゃんは連れてってるのにって、ずるいってだけだもん! お姉ちゃんとっちゃ、や……な、何でもないもん!」


 内気なエリちゃんは、気付いているかな。

 図星をつかれた時だけ、焦って口数が多くなるんだよね。

 それに比べてユウ君は素直だから、はっきり言っちゃうんだけど。


「僕らより赤ちゃんなのに、クリスは連れてって僕らはダメなんてヤダ。クリスばっかり一緒なんてずるい!」


 ぷうっと頬を膨らませ、ユウ君が拗ねてるよ。

 やだ、可愛い!

 エリちゃんもそわそわ、うろうろ。

 ちらちら私を見ては、むぅっと口をへの字に曲げる。

 

 9歳の時、クリスちゃんをお家に連れ帰って。

 なんとかパパとママを説得して。

 一緒にクリスちゃんと暮らすようになって、最初の頃はユウ君もエリちゃんもクリスちゃんに興味津々で。

 あの頃は友好的だったのに、なー……。

 それが徐々に険悪ムードに直走り始めた原因は、1つ。


 クリスちゃんが、メイの肩から全然降りようとしないことです。


 最初は腕の中で抱っこを要求してたけど、それだとメイが何も出来なくなるから。

 クリスちゃんと協議した結果、最終的に彼女の定位置はメイの肩ってことになりました。

 以来、起きている時は常に肩車状態。

 それが妙にしっくりきて、近頃は何の違和感無く肩に乗せています。

 それってつまり、四六時中メイとクリスちゃんは一緒ってこと。


 それに、弟妹が嫉妬を爆発させました。


 わーぉ、メイちゃん愛されてる!

 あまりの可愛さに、身悶えしそうになりました。

 そんなことしたら、きっともっと拗ねるから我慢したけどね!


 ずっと一緒ってことは、学校にも賞金稼ぎのバイトにも一緒、ってこと。

 今まで双子がどんなにせがんでも、絶対に連れて行かなかった場所にクリスちゃんだ連れて行く。

 それが弟妹に言わせると、「不公平」ってことなんだけど。

 でもクリスちゃんは赤ちゃんでも(ドラゴン)です。

 ステータス値をこの世界で見ることはできないけど……セムレイヤ様の保証もあったし、現時点でクリスちゃんが危ない場所に連れて行っても問題ないくらいの強度を持っていることは確かで。

 だけどそんなこと、まだ小さな双子ちゃんにわかる筈もない。

 今までは危ない場所だから、小さい2人は連れていけないって言っていたバイトにまで連れて行ってるしね。

 双子ちゃんが納得できない気持ちもわかる。

 この前、ユウ君がクリスちゃんに「この新参者の分際で……!」とか言ってました。

 そんな言葉、一体どこで覚えてくるんだろ。


 このことがきっかけで、反抗期(?)が始まりました。

 クリスちゃんに焼き餅を焼いてるみたいで、もう双子ちゃんは賞金稼ぎのバイトに連れてっての一点張り。

 そんなの、可愛い2人が怪我をするかもしれないのに。

 メイに承服できるはずがありません!

 実際、4歳児を連れていくのは無理なんだし。

 だけど言葉でいくら言っても、2人は納得しない。

 ついには危険に対応できれば問題ないよね!なんて言いだして。

 何故か、連れて行くか否かの是非を、メイとの決闘で測る……なんて話になっていた。

 だから、無理なものは無理なんだってばー!

 そんなメイの言葉も、虚しく聞き流されちゃったよ……。


「いくよ、お姉ちゃん!」

「エリも……!」


 そうして飛び出してくる、ちびっ子達。

 2人の武器が命中したら問答無用で負けになっちゃう。

 例え、どれだけ威力が大したことなくっても!

 2人がどんなに可愛くても、可愛いからこそ負けてあげられない。

 大人げなかろうがなんだろうが構わない。

 だってメイ、子供だし!

 最初っから、飛ばしていきます……!

 勿論、双子ちゃんには怪我させないように!


「めっ」


 2人の武器が命中したら、メイの負け。

 だったらつまり、攻撃される前に武器を奪っちゃえば良いんです!

 双子ちゃんの敗北条件は、動けなくなるか参ったと言うまで。

 2人が動けて、納得しない内は何度でも挑めてしまう。

 だから、メイは。


「お姉ちゃんの本気、見せてあげる!」


 2人を動けなくさせないと!


 え? 手段?

 特に選んだりはしないかな!

 とにかく2人に恨まれなければ、それで良い。


 メイは懐から、『ひみつへいき』を取り出しました。


 今日の『ひみつへいき』は、ママの作ったパウンドケーキ!

 トッピングはユウ君の大好きなホワイトチョコと、エリちゃんの大好きなラズベリー。仄かに香る甘い匂いが、獣人の鼻を直撃します。

 取敢えずそれを、ユウ君が武器を突き出してきた進行方向にそっと差し出してみます。


「これ、ユウ君の分」

「っ!」

「そしてこっちが、エリちゃんの分」

「!?」


 2人の動きに注視して、武器の狙いを遮るように。

 両手を常に動かし、手に持ったパウンドケーキで狙いを遮る。

 2人は手出ししようにも出来ないようで、じりじりと焦燥感を滲ませ始めました。

 迂闊に攻撃すると、今日のおやつが無と消えます。

 そこでそっと、2人に囁くの。


「ユウ君、エリちゃん……ここで引いてくれたら、お姉ちゃんの分のおやつも2人にあげちゃう」

「「!!」」


 子供はみんな、成長の余地がある。

 それってつまり、常に成長期。

 ひらたく言うと、いつだって腹ぺこです。

 3時のおやつは欠かせない!

 メイちゃんはバイト代があるので、買おうと思えばお菓子が買える。

 だけど幼児の2人には、ママの作ったおやつが全て。

 4歳児にお小遣いはありません。

 

「さあ、どうするの? ここでおやつは諦めちゃう!?」

「く……っ僕らは、ここまでか」

「お、おねえちゃぁん! おなかすいたよぅ……!」

「よし、メイちゃんびくとりー! 2人とも、武器はお道具箱に片付けてから、おてて洗ってテーブルに集合だよ!」

「「はぁい……」」


 双子ちゃんは膝をつき、ヴェニ君は呆れた顔で溜息を吐きました。

 何となく、私達にどうしようもないものを見る目が注がれてる気がします。


「お前ら、馬鹿か」


 ヴェニ君のそんな、お言葉に。

 メイちゃんは何も答えることが出来ませんでした。

 良いじゃん!

 まだまだ双子ちゃんもメイちゃんもお子様なんだし!

 平和ってことで良いと思う!



 だけどこうやって平和な日々を甘受していられたのも、こんな穏やかな春の日までだった……という話。

 近付く、初夏。

 セムレイヤ様と約束した、運命の日がすぐそこに迫っていました。





ちなみに後日。

 メイちゃんとペーちゃんとミーヤちゃんはヴェニ君の部屋を漁り、ベッドの下から『騎士を主人公にした王道英雄物語』と、『子供向けの冒険小説』、『にゃんこのぬいぐるみ』を発掘しました。

 そういう趣味が、とっても恥ずかしいお年頃。

 ヴェニ君15歳(思春期)。

 


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