第289話 樹鹿王
「し、死者を導く鹿ですか……」
「そそ。『樹鹿王』とか呼ばれてるけどそこまで偉いもんじゃないから。ラフに行こうよラフに」
「と、仰ってますよ、ランファさん」
「閻魔大王と同等じゃろ。あの世が色々別れとるだけでやってることはそれと同様じゃ」
「そこ、ちゃちゃ入れない。ラフに行こうとしてるのに怯えちゃうじゃない」
怯えるって……まぁ圧はあるよな。
顔、でかいし……って!拳骨で殴るな拳骨で!
地味に骨化してるからめり込むんだよ!
「いてて……勝手に思考を読むなよ。今はプライバシー保護の権利があるんだぞ!」
「ふん!人の法律だろ?亜人は関係ないの。そもそも人の思考を読むのが仕事だから」
「樹鹿王って旦那がアンデッド相手に使ってるスキルですよね?ロク様から貰ったんですか?」
「そうそう。あーさん、アンデッド相手にも素手で殴りつけてたからね。可哀想になって……あの頃は可愛げがあって……グスッ……」
おう、勝手に美化するんじゃないよ。
そもそもお前と会ったのはトミーと飯食ってる時にヨダレ垂らしながら突っ込んできたからだろ。
ロクとの出会いは学生時代まで遡る。
バイト代が入ったからキャンプ用スパイスを試しに使って見るか、と思ってトミーのところまで遊びに来た時だ。
鹿の姿で迷宮の壁破りながら近づいてくる姿はマジで怖かった……
そもそも草食動物のはずの鹿がモリモリ肉食べる姿もおかしいけど、途中から食いづらいって人間の姿になるのも驚きだった。
あの時はランファとかにも会ってないしね。
人型と言えば1つ目巨人のトミーだけだったし。
「なので、こいつは食い意地がはった鹿です。黄昏に輝く双角、安らかな死を呼ぶ牝鹿、世界樹の番人、なんて呼ばれてるやつでは無いぞ」
「違うから。あの時はお腹がすいてただけだから。後、その通り名は全部一応私だからね?ちゃんと仕事してるから!」
「ロクはエイクス・ユルニスと呼ばれる北欧の神獣、鹿の部族じゃ。世界樹の葉を食べてその栄養を世界にばらまいておる。世界樹の根が死者の国まで繋がっておるから神より死者を導く力を手に入れてたりするんじゃ。『樹鹿王』もその長の通り名じゃ。ギリシャにも近しい部族がおるじゃろ?」
「あ!確かに!金の角を持った鹿がたまにいましたね!トミーさんたちが酒のツマミで罠にかけてました!爪が青銅だから可食部が少ないとか愚痴ってましたねー」
「それは別の種族だから。てかそれギリシャ神の作った鹿じゃない?食べて大丈夫なの?神に怒られない?」
うん、確かケリュネイヤの鹿ってやつだよな?
俺も詳しくないけどヘラクレスとかが関わってる神話に出てくる鹿。
……そんなもんツマミにしてるのか、キュプロークス。
てか、巨人のツマミになるってことは鹿もデカイよな。
ジビエ、興味あるから今度会った時に聞いてみよ。




