第288話 来客
「ごめんなさいね。ランファはいるかい?」
タブレットの設定が終わって配信テストで芍薬さんのライブ配信を3人で見ていると入口から声が。
深層のここまで到達できる人は熊本だといないはず。
というか、この声、聞き覚えがあるな。
ランファが立ち上がり、店舗の方に向かう。
「また珍しいやつが来たのう。鹿の女将か」
「……あ、鹿ってあいつか!」
「親方?旦那?知り合いですか?」
知り合いも何も昔よく遊んだやつだよ。
俺とティム君も店舗の方に向かうと玄関に緑の着物を着た女性が立っていた。
「おや?久しぶりだね?腹出たんじゃない?」
「久しぶりに会ってそれはねぇんじゃね?まぁ最近美味いもん食べてるからな」
「酒は飲んでないのにビール腹。こいつはもう少し運動させた方がええな。1回世界樹の葉でも集めさせてこようかの?」
「うるさい、アル中。自分で育ててるだろ」
このやり取り、懐かしいねー。
学生時代ぶりだから7,8年振りか?
あの時も運動せい!って言われたなー。
「ええっと……親方、紹介して貰ってもいいですか?」
「ん?あ、そうかそうか。ティムはまだあったこと無かったか。女将、こやつはティム。トミーの知り合いから紹介されて面倒を見とる」
「トミー!また懐かしい名前だね!私の名前はロク。しがない宿の女将さ」
「や、宿の女将??あ、ティムです!親方のところで薬師の勉強させてもらってます!」
「ホホホ。元気な子じゃないか!いい弟子持ったね」
笑い声を上げる女性―ロク―。
ティム君は元気な子だからね。
ほんと、ランファの弟子とは思えないよ。
「……おい、ロク。しれっと嘘を教えるなよ。お前宿の女将じゃないだろ」
「なんだいあーさん。宿の女将じゃないか。ちゃんと客はもてなしてるし」
「へ?宿の女将じゃない??」
ほらー、ティム君がはてなマーク浮かべてるー。
こいつ、しれっと嘘つくんだよな。
前もコイツブレス系がないドラゴンだからーって言われて倒しに行ったら思いっきり遠距離から火の玉吐かれたからな!
ブレスは吐かないけど、火の玉は出さないとは言ってないとか後で言ってたけど許してないからな!
「ランファも訂正しろよ。こいつは宿の女将じゃないって」
「やれやれ。ちょっとからかっただけじゃない。あーさんはノリが悪いなー」
うるせー。
若い子が勘違いするから訂正してるんです。
「ゴホン。確かに説明不足じゃったな。ティムよ、ロクは死者を極楽浄土に導くとされる聖獣の1匹じゃ。死者が集まる場所を統治しておるから知り合いからは女将、と呼ばれとる」
「死者を導く聖なる鹿、その鹿達の王、『樹鹿王』ロクス・シロンファン。よろしくねー」




