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魔力を渡せることに気づいたらハーレムができました  作者: くろぬこ


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【第05話】答え合わせ

 目を開けたら、薄いピンク色が混じった暗闇だった……。

 俺は目を開けてるはずなのに、かなり暗い。

 

 部屋に窓はあるが、ガラス窓じゃなくて木製窓だから、外が明るいのかも分からない。

 夜に飛べない鳥達が餌を探す鳴き声が聞こえたら、朝になったと判断できるが。

 おそらく、まだ夜は明けてないのだろう。

 

「スー……スー……」

 

 耳元で吐息が聞こえる。

 魔石灯が切れかけてるせいか淡いピンク色だった部屋は、ほぼ暗闇だ。

 早く俺が起き過ぎてリントは隣で眠ってるようだが、暗くて顔がはっきりと見えない。


 俺の胸元に、彼女の腕がのってるのに気づいた。

 魔石灯が完全に切れる前に魔力だけ流したいと思い、ゆっくりと慎重にベッドから起きようと試みたが……。

 

「……ご主人様?」

 

 いきなり彼女の手に肩をつかまれ、リントの寝ぼけたような声が聞こえた。

 

「ごめん。起こしたか?」

 

 暗闇の中で手首に触れた後、探るように彼女の掌を握る。

 リントの手を握った状態で、仰向けに寝ていた身体を横に倒した。

 

 暗闇で彼女のシルエットしか見えないが、枕にのせた頭を横へ移動させて、彼女の気配がする場所まで顔を近づける。

 お互いの鼻先が当たったのを確認すると、そこから唇を重ねるのには苦労しなかった。


「んっ……。んっ」


 昨晩は数えきれないほどのキスを繰り返し、貪るように唇を重ねたおかげか。

 俺が唇を甘噛みするようなキスをすれば、リントもお返しのキスを返してくれた。

 しばらくキスを楽しんでいたが、やっぱり相手の顔が見えないと寂しい。

 

「リント。暗くて顔が見えない……。ランプの魔石灯を取ってくれるか?」

「はい。ご主人様」

 

 キスをしてる間に目が覚めたのか、今度はしっかりとした声で返事をしたリントが、ベッドから立ち上がる。

 彼女のシルエットが暗闇の中で動き、ほとんど切れかけた魔石灯をランプから取り出した。

 

「……ご主人様?」

 

 手に持った魔石灯を俺の方に近付けたが、考え事をしてた俺はすぐに返答ができなかった。

 

「リント……。魔力を流し込めるか?」

「え? ……やってみます」


 暗闇の中で、リントのシルエットが魔石灯を両手で包み込む仕草をしたのは分かった。

 しばらくすると、彼女が包み込んだ掌の中から淡いピンク色の光が漏れ始める。


「ご主人様。光りました」

「うん。良かったね」

 

 ピンク色の光に照らされ、ようやくリントの顔をはっきりと見ることができた。

 自身の手で魔力を使えたのがよっぽど嬉しかったのか、リントが満面の笑みを浮かべている。

 腰から生えた狼尻尾を嬉しそうに振りながら、ランプに魔石灯を入れる彼女の行動を、俺は注意深く観察していた。

 

「リント。おいで」

 

 掛け布団を持ち上げて、空間を作る。

 彼女がどうするのか様子を見ていたが、リントは迷うことなくベッドに入って来た。

 なにが嬉しいのやら、ニヤけ顔のリントが俺の胸元に潜り込んでくると、鼻先を俺の胸元にこすりつける。

 

 もしかして……俺が、警戒し過ぎなのか?

 奴隷商人のデニスとリントの二人で、知らないフリをして俺を騙そうとしてるのかと疑ってたけど……。

 銀髪のショートヘアの上に生えた狼耳を指先で弄ぶと、リントがくすぐったそうな笑みを浮かべた。

 

「リント。一つ聞きたいことが、あるんだけど……。俺の魔力を、リントが使えるのに気付いたのはいつ?」

「……え?」

 

 彼女の身体が小刻みにビクッと跳ね、大きく見開いた目が俺をじっと見つめる。

 この数日で起きた不思議な出来事について、答え合わせをするために本人から直接聞くことにしたのだが……。

 なぜ、そんなに怯えた顔をしてる?

 

「ご、ごめんなさい……。ご主人様の魔力を、勝手に使って……」

 

 ごめんなさい、か……。

 まずは、そこからだな。

 だぶんだけど……。

 俺とリントの認識が、かみ合ってない気がする。

 

「俺は怒ってないよ。でも、ちょっと分からないことがあってさ……。リントに教えて欲しいんだよ」

 

 俺は慎重に言葉を選びながら、穴だらけのパズルにハマるピースを求めて、リントに質問をする。

 まず俺が、一番に知りたいこと。

 それは、リントが自分に魔力があると気付いたタイミングだ。


 記憶を思い出すように、ポツリポツリとリントが話し始め、俺は耳を傾けた。

 なんとなく予想はしていたことだが、やはりというか……。

 俺が初めてリントを抱いた日に、身体に違和感を覚えたらしい。

 

「それで。起きてすぐに確認したのか?」

「はい……。夜が明けてから、すぐに外へ出ました」

 

 その辺に落ちてる木の棒を握りしめて、リントが確認の作業をしてみたところ。

 

「その時に、自分に魔力があることを気付いたのか?」

「はい。振り下ろしたら、勢いが強過ぎて。地面に当たって、木の棒が割れました」

「振ったのは、一回?」

「二回です……。最初は信じられなくて。別の木の棒を拾って、もう一回。試しました」

 

 なるほど……。

 あの日は、魔力を使って三体のダイアウルフを斬ったから。

 合計で五回か……。

 

 五階層のダイアウルフを一撃で屠れる力か……。

 奴隷商会で買うはずだった、リントの兄である獣人が手に入ったくらいで考えておけば、今は良いかな?

 

「魔力があるのに気づいたのは、すごいけど……。魔力を使った魔闘気(オーラ)は、独学じゃないよね? どこで知ったの?」

 

 どうしてもリントに聞きたかった二つ目の質問が、これだ。

 

「父です……。私の母は亜人でしたが、魔力を使った魔闘気(オーラ)が使えたそうです。だから優秀な獣人の戦士だった父と子供を作らせて、双子の私達が産まれました……。でも、難産だったそうで。私達が産まれた後に、すぐ亡くなったそうです」

「そ、そうなんだ……」

 

 予想してなかった、ちょっと重い話が出てきて返答に困ってしまう。

 

「私も兄も、魔闘気(オーラ)が使えることを期待して、いろんな訓練を奴隷商会でさせられましたが……。駄目でした。戦奴隷を希望したのですが、デニス様からは性奴隷以外の価値は無いと言われました」

 

 当時の記憶を思い出したのか、しばらく沈黙の間ができる。

 

「でも……」

「でも?」

「ご主人様から魔力をもらった時に……。魔闘気(オーラ)が使える戦奴隷だったら、ご主人様が絶対に捨てないとデニス様が話してたのを思い出して……。だから……すごく、嬉しくて」

 

 たしかに魔闘気(オーラ)が使える戦奴隷がいたら、まず捨てるご主人様はいないだろうな。

 もし奴隷商人のデニスが知ってたら、もっと金を持ってる貴族に高値で売りつけただろうし……。

 

「それなのに。モンスターと戦ったら、すぐ空になって……。ご主人様に、奴隷商会に戻されるかもと思って」

 

 なるほど。

 奴隷商会に売り戻されると不安になってたタイミングで、俺がリントの服とか買ったりしたから、あの時は安心したわけか。

 むしろ、可愛い下着まで買ってもらえて……。

 だから昨日の夜は、すごく積極的だったのかな?

 また魔力も注いでもらえたから、朝からすごい機嫌が良かったということか。

 

「リント。最期に、もう一個だけ質問するよ」

 

 顔を上げたリントの瞳を、俺は覗き込むようにして顔を近づける。

 

俺の魔力(・・・・)を、使ったんだな?」

「はい。ご主人様の魔力を使いました……。ごめんなさい」


 俺の中で最重要事項であるリント側の認識を、しっかりと確認する。

 

「大丈夫、怒ってないよ。でも加減が分からないと、魔力切れを起こして倒れたりするから。これからは使うタイミングを相談しながら、迷宮探索しないとな……。昨日みたいに、一回だけ戦って帰るのは嫌だろ?」

「嫌です……。ご主人様のお役に立ちたいです」

 

 彼女の答えを聞いて、いろんなことを知れた俺は笑みを深める。

 だがしかし……とあることに気付いた瞬間、悪い笑みがすぐに引っ込んだ。

 

「んー……。これって、まずいよな?」

「……ご主人様?」

 

 上目遣いで俺を見つめていたリントが、首を傾げる。

 

「リント。魔力が使えることを喋ったのは、俺だけか? 奴隷商人のデニスとか、家族とか。それ以外の人で、喋った人はいないよな?」

「いません……。どうかしたのですか?」

 

 よし、ギリセーフか?

 

「いま喋った話は、俺以外には絶対に喋るな。魔力が使えるようになったのは、たまたまで……。母親の力が急に目覚めたことにしよう」

「え? ……はい、分かりました」

 

 どうやらリントは理解してないので、俺の状況を説明する必要がありそうだ。

 

「リントは、魔力が無かったのに。俺に抱かれて、俺の魔力が使えるようになったよね?」

「はい。そうです……」

「じゃあさ。たとえばリントみたいに、魔力が欲しくて欲しくてたまらないって女性がいたとして。俺が魔力を渡せるとその女性が知ったら、何をすると思う?」

「……あっ」

 

 ようやく気付いたのか、リントが大きく目を見開いた。

 

「たとえば……。昨日、会った女性のカリンとモニカに話したら、たぶん……」

「だ、駄目ですっ。ご主人様、駄目です!」

 

 分かりやすく動揺するリントを見て、思わず悪い笑みが漏れてしまった。

 

「そうだよな。魔力を持って無いカリンとかに話したら。たぶん、そこから他の女性にも話が広がって、大変なことになるよな……。魔力もリントに渡せなくなるかもね?」

「あっ、あっ……」

 

 言葉にならないのか、リントの口がパクパクしてる。

 リントの反応が可愛くて、つい悪戯心が芽生えた俺は彼女の唇を、自分の唇でふさいでしまった。


「んっ……。ご主人様?」


 恋人のような口づけをした後、ゆっくりと唇を離す。

 突然にキスをされて、目をパチパチとさせたリントの頭を撫でる。

 

「俺が他の女性に、夢中になって。これからリントを抱かなくなっても良いなら、喋っても良いけどさ」

「駄目です」

 

 眉を吊り上げたリントが、珍しく怒ったような顔をした。

 

「だよな……。今日はカリンとモニカに会う約束しちゃったから。朝ご飯を食べながら、口裏合わせをしようか? みんなに言って良いことと、俺達だけの秘密にすることを教えるから」

「はい。お願いします」

 

 ちょうど良いタイミングで、外から鳥の鳴く声が聞こえ始めた。

 

「迷宮へ出掛けるまでに俺の方でも、ちょっと考えてることを整理するから。朝ご飯を先に作ってくれ」

「はい。ご主人様」

「あっ、リント。ちょっと、こっち来て」

 

 ベッドから降りようとしたリントを手招く。

 二人とも下着を履いただけの状態だが、気にすることなくリントを抱きしめた。

 昨晩のおさらいをするように、舌も絡めたディープキスをする。

 今度はリントも、しっかりと濃厚なキスを返してくれた。


「おはよう、リント」

「おはようございます、ご主人様」

「魔力が無くても。俺は絶対に、リントは手離さないけどね」

「……あ、ありがとうございます」

 

 少し困ったような顔をしたリントだったが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。

 腰から生えた狼尻尾を激しく振りながら、軽快な足取りで朝の準備を始めたリントの背中を見送る。

 ようやく答え合わせができて、頭の中にあったモヤモヤがスッキリできた俺は、あくびをしながら腕を伸ばした。






   *   *   *






「あっ、お兄さん!」

 

 五階層の広間に到着すると、若い女性が手を振ってるのに気付く。

 赤髪のカリンが嬉しそうに、俺達の方へ駆け寄って来る。


「あっ。リントちゃん。今日はツギハギの服じゃなくて、可愛い服に」

「ウーッ!」

「なんでぇ!?」

 

 リントに抱き着かんばかりの勢いで走って来たカリンが、急ブレーキをかけた。

 まるで泥棒猫を見つけたかのような反応で、リントが威嚇をしている。

 今朝のたとえ話に、カリンを登場させたせいだろうか?

 

「カリン。何をしたの?」

「まだ何もしてないよ!」

「……まだ?」

 

 三角帽子をかぶった魔法使いの少女が、半目を閉じてジトーッと見つめている。

 

「そういえば、昨日。リントさんみたいな可愛い戦奴隷は、いくらで買えるとか私に聞いてたわよね? ……リントさんを狙ってるの?」

「ウーッ!」

「ち、違うよ、リントちゃん! 誤解だからね?」

 

 身内から予想外のキラーパスが飛んで来て、カリンが焦った顔をしてる。

 

「今日は、私の依頼を受けてくれてありがとうございます。昨日の探索で、カリンと二人では心細いことを学びましたので。マルクさんが協力してくれると、とても助かります」

「こっちも二人での迷宮攻略は、さすがにキツイと予想してたから。むしろ誘ってくれて、俺が礼を言いたいくらいだよ」

「リントさん。今日から、よろしくお願いしますね」

「ウー。あっ、よろしくお願いします」

 

 マナポーションを分けてくれたモニカに対しては、好感度が高いのだろうか?

 すぐに威嚇をやめて、リントが頭をペコリとさげる。

 

「リントちゃん。今日から一緒に頑張ろうね」

「ウーッ!」

「なんでぇ!?」

 

 半分くらい俺のせいでもあるので、ちょっとリントは気合いが入り過ぎてるせいかもと謝罪しつつ、二人が仲良くなるよう間を取り持つ。

 素直過ぎるリントにも、これから共に迷宮へ潜る仲間には威嚇しないよう注意して、五階層の奥へ足を進めた。

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