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魔力を渡せることに気づいたらハーレムができました  作者: くろぬこ


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【第02話】奴隷少女を買う

 五十万セシリルの戦奴隷を、どうして倍額の性奴隷としてデニスが売ろうとしたのかを、俺は即座に理解した。

 部屋に入って来た彼女の第一印象は、銀狼人の少女。

 前世の記憶で例えるなら、狼耳を生やしたダークエルフだろうか。

 

 褐色肌に銀髪で、外ハネしたウルフカットのショートヘア。

 目元が狼人と納得できるような鋭い瞳だが、顔は人間の男性が好みそうな整った顔だ。

 

「リント。座りなさい」

「はい。失礼します」

 

 ぶかぶかの奴隷服で荒い生地のせいか、胸元の膨らみは分かりづらい。

 胸は小さめなのかもしれない。

 

「狼人の血は多少流れてるのか、一般的な女性よりも力はあります。迷宮に潜った経験もありますが、先ほど紹介した獣人の男性に比べると、やはり力は劣ります」

 

 本人の前で力は劣ると言うのは、さすがにどうかと思う。

 しかし奴隷商人のデニスが、そう言い切るのも納得ができる。

 双子の兄である獣人の狼人を見た直後だと、ガタイの良かった彼に比べて彼女は細く見えた。

 正直な第一印象は、迷宮に連れて行く戦奴隷としては……いささか頼りない。

 

 半額にする明確な理由が、戦奴隷としての期待値が男の獣人の半分ということを、奴隷商人がしっかりと俺に伝えようとする。

 デニスの説明を聞いた上で、俺が彼女を買うかの判断をしろという意味だと受け取ったが……。

 

 正直、アリだ……。

 俺が最初から性奴隷を買う目的で、この奴隷商会を訪問してたなら即座に買ってただろう。

 しかし、今日は戦奴隷を買いに来たのだ。

 俺をダンジョンで守ってくれる、戦力になる戦奴隷を……。

 

「め、迷宮に潜っても戦えます。よろしく、お願いします」

 

 緊張してるのがハッキリと分かるくらいに、口を一文字に結んでいる。

 まだ売るための準備中だったとの話を聞いてたので、彼女にとって俺は初めて面接をする相手なのだろう。

 戦奴隷でありながら性奴隷を兼任するにも関わらず、ヤル気があるのは好印象だ。

 

「家事もできます」

 

 今の借家は、四人で住んでた。

 今後のことを考えると、部屋を掃除したりの家事もしながら、迷宮に潜る生活を一人で兼業するのは大変だ。

 まだ将来のことは明確でないが、あの家に住み続けるなら家事をできる人は欲しい。

 

 彼女にも一通りの質問をした後、奴隷商人のデニスが狼少女のリントを連れて部屋を退室した。

 応接室に一人残された俺は、しばらく悩んだ。

 こんなに悩むのなら、マジックバッグを一つだけ売るのではなく、全部売れば良かったかと今更ながら後悔もしたが。

 

「マルク様。お決まりになりましたでしょうか?」

 

 すぐに返答ができず、俺はテーブルを睨みながら頭を抱えそうになった。

 ソファーに深く腰掛けたデニスが口を開く。

 

「実は、この後……。貴族のかたが来るらしく、当館を訪問した使者から連絡がありまして。若い子を見たいとの話ですから、先ほどの二人も紹介することになります」

 

 デニスの語る話に、俺は顔を上げる。

 

「私の経験上、百万セシリルという値段で、若くて安い性奴隷を売ることは珍しいです……。安いと言っても、平民の方が簡単に出せる金額ではありません。しかし貴族であれば、兄妹を二人とも買う可能性は高いです。商人ギルドの紹介がなければ、平民の方に紹介する子達ではありませんので」

 

 テーブルに置かれたティーカップを口元に寄せると、デニスが静かに紅茶を飲む。

 すでに、次の商談相手が順番待ちをしている。

 俺が今日、戦奴隷を買うつもりなら今すぐ決断をして、どちらかを買うしかない。

 

 性奴隷である彼女も紹介するなら、商談相手の貴族は男性なのだろう。

 初めて会ったばかりの少女ではあるが、ここで俺が買わなければ他の男に抱かれると考えたら、少し気分が悪いな。

 顔も知らぬ貴族のベッドで、生まれたままの姿で男を迎えるリントを想像してしまい、すぐに後悔した。


「異種族の場合、子供はできません。リントは戦奴隷としての価値は低いですが、愛人を欲しがる貴族であればすぐに買い手が見つかるでしょう」


 子供ができない愛人ほど、男にとって都合の良い女性はいないだろう。

 性欲の強い貴族なら、毎晩でも彼女を寝室に呼び出して抱くかもしれない。

 そんなことを想像して、脳内で男獣人と女亜人をのせた天秤が、片方に大きく傾きだした。


 彼女は戦奴隷としては、あまり役に立てないかもしれないが。

 前世の三十年と、この異世界に転生してからの二十年、彼女すらいなかった俺に。

 ようやく寂しい夜を、ベッドで一緒に過ごしてくれるかもしれない女性だ……。


 十六歳といえば、前世では高校生か。

 ろくに楽しい思い出がない、灰色の青春時代だった記憶がよみがえる。

 

「き、決めました……」

「分かりました。では、契約についてのお話をしましょうか」






   *   *   *






 この選択で、本当に良かったのだろうか?


 後悔、先に立たずとは言うが。

 冷静になってみれば、奴隷商人が貴族の情報とかペラペラと喋るだろうかと疑問に思ったり。

 実は貴族の話は嘘で、百万セシリルを持った(かも)がネギを背負ってきたから、金を払うように会話で上手く誘導されたのたかもしれないとか、いろいろ考えてしまうが……。

 

「わっ。すごい……。大きな、お家……」

 

 気付けば家の前に到着しており、俺の後を大人しくついてきた少女が驚きの声をあげる。

 まあ四人で住んでたから、一人で住む家よりはでかいだろうね。

 

「鍛冶師の弟子達が一緒に住んでた古い家を、リフォームした後に借りたんだよ」

 

 玄関扉の鍵を開けて、後ろへ振り返る。

 布袋一つを胸元で抱きしめて、――ツギハギだらけの貫頭衣――奴隷服を着ただけの身軽な格好をした少女が、家とは違う方向を見てた。

 

「古いかまどだ。お風呂へ入る時に使うから、それも後で教えるよ」

「お風呂、ですか?」

 

 銀色の狼耳をピンと立てると、興味津々の顔と狼耳がこちらへ向く。

 パーティーに加わった女性のリディアがいたせいか、彼女の要望を取り入れたこの家が決まるまで、いろいろ揉めた苦労の記憶を思い出す。

 

「うん。ちょっと臭うからね、今日は入った方が良いと思うよ」

「……え?」

 

 リントが慌てた様子で、自分の腕などの臭いを嗅ぎ始める。

 

「まずは夕食と、お風呂の入れ方から教えるよ。ついて来て」

「は、はいっ」

 

 彼女の性格が素直なのは、奴隷の両親から生まれた生粋の奴隷だからなのだろう。

 奴隷商会で聞いた話を思い出しながら、簡単な家事を教えることから始めた。

 野菜の切り方など、簡単な料理は問題無くできそうだ。

 二人で作った料理をテーブルに並べていく。

 

「ほら、座って」

「ほ、本当に。一緒に食事をしても、良いのですか?」


 不安そうな顔で、テーブル席にリントが座る。

 俺の皿だけしかテーブルに置かなかったので、リントの皿もテーブルに置いてあげた。


「奴隷商会だと。ご主人様の残り物を食べるとか、教えられてた?」

「……はい」


 このあたりの奴隷事情は、事前に幼馴染のテトから聞いてて良かったと思った。

 つい昨日まで四人で食べてたから、その感覚で食材を用意して夕食を作り始め、気付いた時には一人で食べきれない量になってた。

 自分の失敗を誤魔化すついでに、彼女にも手伝ってもらおう。


「今日はリントが来てくれたから、特別だからね。いつもは、この量じゃないけど……。リントが頑張ってくれたら、ご褒美として。また、たくさん作る時があるかもね」

「はい。頑張ります!」

 

 おそらくリントは、頑張れば沢山ご飯が食べれると思ったに違いない。

 今日は特別な日と勘違いした狼少女が、細身な身体に似合わぬ量を残さずしっかり食べてくれた。






   *   *   *






「お風呂は、どうだった?」

「はい。すごく、身体がポカポカします」


 どこか心あらずな表情で、俺に手を引かれながらリントがついて来る。

 部屋の扉を開けた時に、ベッドが見えたからだろうか。

 俺の手を握る彼女の手が、少し強くなった気がする。

 彼女の手を離すと、部屋の扉を閉めた。

 

 俺は青白い光を放つ魔石灯を部屋のランプから外し、淡いピンク色を放つ魔石灯に入れ替える。

 幼馴染のデュランと恋人のリディアが置き土産として残していた物で、倉庫の隅でホコリを被って置石になる予定だったが。

 まさか俺が、使う日が来るとはな……。


 どこか怪しげなピンク色の淡い光を放つ部屋に変わる。

 自分で部屋の雰囲気を変えたのに、すごくドキドキしてきた。

 緊張した様子で、無言で立ってる狼少女に声を掛ける。


「リント。それを脱いで、ベッドに……横になってくれるか?」

「……はい」


 リントが風呂上りに巻いた一枚布を剥がす。

 生まれたままの姿になった褐色肌の少女が、俺のベッドに寝転がった。

 実は俺の声も緊張で上擦っていたが、呼吸を整えながら自分も腰に巻いてた布を外す。


 ベッドに足をのせると、普段は気にしないベッドのきしむ音が、大きく聞こえるような気がした。

 緊張した様子で両手を胸元で握り締め、直立不動で仰向けに寝転がったリントの上に移動する。

 

 お風呂でリントの身体を洗ってる時に確認したが、胸は慎ましやかだ。

 俺が顔を近づけると、やはり怖いのかリントが目をギュッと閉じる。

 

 逃げる素振りはないので、了承の意味と受け取って唇を重ねたが。

 勢い余って、歯が当たってしまった。

 

「ご、ごめん……。痛かった?」

「だ、大丈夫です」

 

 彼女もビックリしたのか、目を大きく見開いて俺の顔を見ていた。

 

「実は……。俺も、初めてなんだ」

「そう、なのですか?」

 

 前世では、エロ動画やエロ漫画はたくさん見てきたが。

 夜の実践経験は本当に初めてだ。

 最初のキスが失敗した時点で、下手に誤魔化しても仕方ないので、正直に話しておく。


「加減が分からないから。無理そうだったら、無理って言うんだぞ。すぐやめるから」

「……はい。……ありがとうございます」


 少しだけ不安が和らいだのか、リントが薄く笑ってくれた。

 なるべく最初の一回目は、彼女にとって良い思い出として残って欲しい。

 覚悟が決まったのか、リントが握りしめていた両手を広げ、ゆっくりと枕元に置いた。

 恥ずかしそうな表情をしながらも、褐色肌の無防備な胸元を俺に見せてくれる。


 もう一度、大きく深呼吸する。

 さっきから心臓がバクバクして、胸が少し痛い。

 今度は、ゆっくりと慎重に唇を重ねた。

 ぎこちないキスだが、回数を重ねれば上手くなるだろう。


 枕元に置かれた彼女の掌に、俺の手を重ねた。

 ちょっと気持ち悪いかもと思いつつ、前世から憧れていた恋人握りに挑戦する。

 お互いの手の間に指を絡めると、彼女が強く握り返してくれた。

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