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38 二つの可能性

「一つは召喚者の魔力切れが考えられます」


 『龍の爪痕』の東門の上。物見のために作った見晴らしのいい場所。アラマンとリュクスの二人で、支援魔法で辛うじて目視できるくらい遠くにいる、ドラゴンと思われる魔獣の様子を伺いながら、今後の対策について話している。


「もう少し詳しく教えて下さい」

「はい。サコス、今召喚魔法を使っている者の話では、召喚した魔獣の制御には自分の魔力を多く使うと言っていました。今あのドラゴンは動いていませんから、今の彼にあれを動かすほどの魔力が残ってない可能性が考えられます」


 魔力切れ。アラマンも最初その可能性が頭に浮かんでいた。だが、腑に落ちない点もある。


「魔力切れを起こしたら、召喚された魔獣はどうなるのですか?」

「基本的には消滅してました。でも、ロクミル草の魔力でしばらくは動くことができたように思います」

「それでも長くは保たないと」

「そうですね。ドラゴンの場合、どの程度保つかは分かりませんか……」


 リュクスの言う通りだ。ロクミル草の効果があるとしてもどれだけ保つかは不明だ。推測になるが、昨晩のあの時に召喚されたとすれば、呼び出されてから、かれこれ数刻は経過している。ましてやドラゴンはあれだけの大きさだ。消滅するまでの時間は、魔獣より短いと考えるのが普通だろう。そうなると別の可能性の方が信憑性があると言える。


「もう一つの可能性は何ですか?」

「はい、もう一つは術者が意識を失っている可能性です」


 アラマンは、その可能性には思い至らなかった。


「意識を失っても、召喚された魔獣は維持できるのか?」

「はい、できます。基本的には、召喚された魔獣は自意識を殆ど持ち合わせてはいません。術者の魔力によってのみ動きます。サコスは一度魔獣を召喚したあと、意識を失ったことがあるのです。私が気が付いて彼を起こしたのですが、その間魔獣はピクリとも動いていなかったように思います。今、サコスが召喚した時の衝撃で意識を失っていたとしたら、あれを動かせない状態にある可能性は十分に考えられます」


 意識がない、ということは、術者が魔獣を制御できる状態にないとも言い換えられる。


「意識がない。だけではなく、第三者に拘束されている、と言う可能性も考えられますか?」

「可能性だけなら考えられますが、それだけのことをする者があの近くにいるという可能性は低いと思います」


 確かに、あんな場所に近づく酔狂な人間などいるはずもない。そう考えると意識を失っている可能性の方が理にかなっている。


 雨が降ってきた。益々視界が悪くなる。アラマンは、リュクスの支援魔法でかろうじて確認できるドラゴンの姿を見ていることしか出来ない。


「どちらにしてもしばらく、このまま様子を見ることしかなさそうですね」

「はい、このまま何も起こらなければいいのですが」










 それは、衝撃とともに突然目の前に現れた。ロズド隊の三人は、目の前に出現した大きな魔獣に度肝を抜かれて立ち尽くしていた。いや、立ち尽くしていることしかできなかった。


「ははっ、ロズド。見えるか? あれは何だ? もう大抵のことには驚かないと思っていたが、どうだ? 私は今凄いびっくりしてるぞ。怖くて、膝が震えて、足が動かないぞ。 ははっ。私たちはもう終わりかな……。逃げても無駄だろうな。もう、死ぬのかな。アコーニット様はこいつを始末しろ、という命令だったのかな? おいっ、何とか言ってくれ。おいっ! ロズド!」


 ロズドは黙ったまま、目の前に現れた魔獣を見ている。見ているのか、何も見ていないのかは、後ろにいるナーシスには分からない。横を見るとパッカスが、魔獣を見上げたまま固まっている。無理もない。ここまでの巨大な魔獣が目の前にいるのだ。なす術もなく、ただ見つめることしか出来ないのだ。


「ああ……あれっ? 夢ならすぐに覚めるはずなのに覚めないな。おかしいな。今日の訓練でカーラのやつに話してやるか。見たこともないような巨大な魔獣を見たって。ふふっ、でも夢だから馬鹿にされて終わりかな……」

「おーい! パッカス。気持ちは分かるが帰ってこーい! おい、現実だぞ。これは現実だ。だから帰ってからカーラに自慢してやるといい」


 ナーシスは、ここではないどこかに飛んでいってしまったパッカスの意識を必死で取り戻そうと躍起になっていた。


「おい、ロズド。お前も何とか言ってくれ! 何をぼーっとしてるんだ。あんなでかい魔獣を見上げていても何も出来ないぞ。……ん?」


 よく見ると、先程からロズドは魔獣を『見上げて』いない。横のパッカスは、天井を見上げるように魔獣を眺めている。少なくともロズドは上ではなく、目の前を見つめている。


「おい、ナーシス。あれ、何だ?」


 ロズドがようやく口を開いた。どうやら、魔獣を見ていたのではなく、何か別のものを見ていたようだ。ロズドが指差す方を見ると、一人の人間が木にもたれるように倒れていた。もたれていると言うよりも、気を失っているだけのようだ。


「あれは、エルフじゃないか?」


 ここはエルフの里だ。エルフがいても不思議でない。この魔獣の出現に巻き込まれたのか。もしかしたら、死んでいるかも知れない。いや、死んでいた方が幸せかも知れない。この現実など知らない方が幸せに決まっている。


 ロズドがエルフに近づいていこうとすると、突然右手から何者かが襲ってきた。


「ロズド! 避けろ」


 間一髪でナーシスが投げた短剣が、それに刺さり、ロズドは攻撃をかわすことが出来た。


「あっぶねー。こいつ、魔獣か。見たことねぇやつだな」


 一体の大きな魔獣だった。四足歩行の動物を禍々しく進化させたような姿をしており、大きさはあの大柄なロズド二人分くらいある。頭には一本の鋭い角を持っている。かなり大きい。しかも、先程の攻撃からすると、動きの俊敏さは相当なものだ。急に現実的な危機が出現して、ナーシスは我に返ることができた。あのでかい魔獣は死んでも嫌だが、この角の魔獣であれば相手にできる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] サコスが意識を失っている可能性が高い気がします! さすがの黒の騎士団もこれは叶わないと全員が察してしまった( ゜Д゜)
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