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24 ダークエルフの女

 エルフらしき女は、カルロに捕らえられて大人しくしていた。手首は後ろで縛られ、腕も肩からがっちりと固定されるように縛られていた。そこから伸びる縄はカルロが握っていて、グイグイ引っ張っている。


「おいっ、お前は何者だ? なぜ我々を攻撃した?」

「……」


 女は下を向いたまま、答えない。


「カルロさん、どうします?」

「そうだな、何とかして吐かせたいところだ。ヨナ、土魔法でこいつを埋めてもらえるか?」

「ええっ、そ、そこまでしなくても……」

「なっ、ま、魔法だ、と?」


 女が急に声を出した。『魔法』という言葉に反応したようだ。


「お前たち、魔法を使えるのか? さっき短刀を落としたのも魔法なのか?」

「おい、質問をしているのはこっちだ」


 カルロが女の顎を掴んで、こちらに顔を向けさせた。ヨナが女の顔と目が合ったとき、女の顔がおどろいたような表情に変わった。


 ヨナはふと、この人知り合いなのかなとも思ったが、エルフに知り合いなどいない。ただ、女にはヨナのことに思い当たる節があるようだ。


「お、お前は、あの時の魔法使い……」

「ん? あの時のって? 僕たち会ったことないですよね?」


「……そうか、分かった。降参する。まずは、攻撃してしまってすまなかった。私はノクリアと言う。ダークエルフだ。エストーレ王国に雇われて密偵をやっている。ちゃんと話をするから、一旦手を放してくれないか。」


 ノクリアはすべて観念した、というような態度になった。カルロはノクリアの力が抜けたのを感じたのか、手を放して、持っていた縄を近くの木の幹に括りつけた。ノクリアは木を背にして、完全に固定されてしまった。


 縄が痛いのか、少しもぞもぞと動いていたが、すぐに落ち着いたようだ。


 しばらくするとウィステリアとサーシャが戻ってきた。


「あんたが、覗き魔ね! って、女じゃないのよ。し、しかもその耳。エ、エルフなの? な、なんでエルフがこんなところにいるのよ」

「はいはい、ウィステリアちゃん、落ち着いてくださーい」


 サーシャが、前のめりになっているウィステリアを抱き止めるように抑えた。


「まあ、聞いてくれ、この女、ノクリアと言うらしい。ダークエルフ族で、エストーレ王国で密偵をやっているそうだ。俺たちの知りたい情報を教えてくれるらしいぞ」


「ふーん、ダークエルフ族ね。エストーレ王国にゾール紙の製造方法を教えた人たちじゃない? 何でそんなダークエルフが王国の密偵なんてやってるの? 王国に対する裏切りじゃない?」


「何を言う。私の主人は王族だ。今は、その王族が憂き目にあっているのだぞ。決して裏切りなどしていない。憎むべきは龍神教だ」

「なるほど、それもそうか」


 サーシャはふむふむと分かったような素振りをしているが、実はよく分かっていなかった。


「それで、まず、お前が何者かもっとちゃんと話せ」


 ノクリアは、ヨナたち全員を見回したあと、話し始めた。


「今の私の主人はエマ王女だ」

「え、エマ王女って、誰?」

「エストーレ王国の国王の娘だ。王位継承権は二番目だ」

「ふーん、歴としたお姫様って訳ね」

「ああ、そうだ」

「それで、そのエマ王女とやらに仕えているお前は、何をしていたんだ?」

「それは…」


 ノクリアはこちらの質問に淡々と答え続けた。要約すると、こうなる。エマ王女は今王宮に軟禁されているらしい。そのエマ王女は弟であるエクレルのことをすごく心配していて、どうしても探し出したいと。


 そうしたいが、王宮内にいては、龍神教の目があって、情報収集に限界がある。ついては、ダークエルフの里に脱出して匿って欲しいと。


 時おり、手首が痛いのか、姿勢を変えようともぞもぞと動いているが、素直にこちらの質問に答えている。一通り聞き終わった後、しばらく沈黙があった。恐らく、みんな同じ感想を持った、ような気がする。


「……なんだ、その……」

「言うな、言いたいことは分かっている」

「えっと、何というか、まぁ、私的な目的だな」


 カルロがみんなの思いを代弁してくれた。


「う、うるさい。エマ様は、エクレル様のことを心の底から心配されている。またあの方は、龍神教に対して、何か楔を入れたいとお考えの上で、こちらに合流する予定なのだ」

「ほう、ダークエルフの里に行くと何かいいことがあるのか?」


「……ある」

「それは、なんだ?」

「……それは、ちょっと言えない」

「おい、お前、全て喋るって言ったよな」


 カルロが縛った縄を木から解いて、その縄を上の方の木の枝に吊るして下に引っ張った。ノクリアはそのままの状態で引き上げられ、完全に木に吊るされるような形になった。


 その際、彼女が羽織っていた外套がはだけて落ちそうになり、その下の露出の多い服が露わになった。そのため、何というか、何とも言えない妖艶な姿になってしまった。ちょっと目のやり場に困る格好だ。


 縄が食い込んで痛いのだろうか、ノクリアは身を捩らせて抗おうとしている。ちなみに、彼女は『全て喋る』とは言っていない。


「ちょ、ちょっと、カルロさん。何か、やり過ぎじゃないですか?」


 ヨナが一応、カルロを制してみた。ウィステリアも何か恥ずかしそうにしている。


「何言ってるんだ。この態勢は思いの外きつい。このまま痛めつけるにはもってこいだろ」

「そ、そうですが……」

「あ、あの、は、話す。話すから。このままちゃんと話します……」

「ん? そうか」


 それを聞いたカルロは、さっと縄を木の枝から離して、ノクリアを下に降ろした。いや、落とした。そして、手首は縛ったままで、また木の幹に括り付けた。


 ノクリアは心なしか少し落ち込んでいるように見える。無理もない。あの後、痛めつけられていたかと思うと、怖かったのだろう。


「何で、素直に吐かない? 素直に吐けば、何もしないぞ」

「い、いや、さっきのも悪くなかっ……」

「ん? どうした? 早く質問に答えろ」

「ん、あ、ああ。すまなかった。さっきの質問に答えてしまうと、里の教えに背くので少し躊躇しただけだ」

「そうか、それはすまなかったな。で?」


 カルロは、ノクリアの事情にはお構いなしで、ある意味残酷だ。ノクリアの目が少しトロンとしてきたように思える。意識が朦朧としているのではないかと心配になる。


「あ、ああ。えっと、エマ王女がうちの里に来る理由だったな。それはロクミル草だ」

「ロクミル草?」


 全員の声が一致した。


「ロクミル草が、どうしたのよ?」


 ウィステリアが質問を投げかける。サーシャはというと、よく見ると、上の空で、話を聞いている振りをしていた。あの目を見たら分かる。あれは、アラマン先生の話が長過ぎて、つまらなさそうにしている時のフロワと同じ目だ。


「ゾール紙の原料がロクミル草なのだ」

「だから、何だと言うんだ?」

「やはりな、お前たちはゾール紙の事も原料のことも知っている。それはエクレル王子から聞いた話ではないのか?」

「おいっ、いい加減にしろよ。質問してるのはこっちだ」


 カルロは再び、縄を上の木の枝に括りつけようとした。


「か、カルロさん、話が前に進みませんから、そのままで聞きましょうよ」

「ちっ」

「えっ?」


 ノクリアが舌打ちしたように聞こえたが、気のせいだろうか。


「ヨナは優しすぎるぞ」

「そうよ、ヨナは優しいのよ」

「まあまあ、みんな落ち着いて話を聞きましょう。えっと、ロクミル草とゾール紙のことについては、ここに来る前に立ち寄った場所の人に聞いたんですよ。それで、なぜロクミル草が目的なんですか?」


 カルロに代わり、ヨナがノクリアに質問をする。


「ダークエルフの里では、密かにゾール紙を大量生産している」


 思ったよりも物騒な話だったので少し驚いた。


「おいおいおい、それは物騒な話だな。誰の指示で作っている?」

「もちろんエマ王女だ」

「そのお姫様は、戦争でもしようとしているのか?」

「いや、あくまで龍神教に対する抑止力だ。今は国王勢力の兵力はほぼゼロに近い。兵力がないなら、代わりのものを作るしかない」


「なるほどな。ダークエルフの里も、それを分かって手を貸しているのか」

「もちろんだ。我々は今のエストーレ王国がなければ、もしかしたら滅ぼされていたかも知れないからな。王国には恩がある」


 奇しくもエマ王女とエクレルは、同じ目的で動いていたということになる。エクレルは自力で、ゾール紙を作るためのロクミル草を探して『龍の爪痕』に、エマ王女はダークエルフの密偵を使って、密かにゾール紙を作っていた。


 王国に兵力がないというのは本当なのだろう。今の王国は龍神教に完全に抑えられているとみて間違いなさそうだ。


「細かい話は後でじっくり聞くとして。大体は分かった。それで、今お前は何をしていたのだ?」

「私は、エマ王女の脱出経路の確認をしていたところだ」

「それで、首尾はどうだった?」

「ほぼ問題ない、と思って王国に戻る途中に、お前たちを見かけた」


 王女の脱出経路にヨナたちがいて、それを排除しようと思ったのか。何となく話が見えてきた。


「それで、恥を忍んで頼みがある」

「断る」

「はぅっ、なんで? いきなり否定しなくても」


 と言いながら、ノクリアは少し嬉しそうだ。何か変な声を出していたが大丈夫だろうか。ヨナはノクリアにちょっと休ませてあげた方がいいのではと思い始めた。


「俺たちに何の得がある?」

「まだ、何も言ってないぞ」

「『エマ王女の脱出を助けてくれ』だろ?」

「そ、そうだが、お前たちにもメリットはある」

「それは何だ」


 何か、ノクリアはカルロと話しているのを楽しんでいるように見える。


「お前たちは、龍神教と相反する立ち位置にいる。そうではないか? もしエストーレ王国を龍神教の手から取り戻すことができたら、お前たちは平和に暮らせる。違うか?」

「さあな」


「頼む! 実は仮に脱出することはできても、もし騎士団に察知されたときは、こちらにそれを撒くだけの力がないのだ。お前たちの実力があれば、問題ない。頼む。いや、お願いします。どうか私たちに、エマ王女に力を貸して頂けませんか?」




次の投稿は8/29(月)の12時になります。

楽しみにお待ちいただければ幸いです。

次回は続きのお話と登場人物、設定集も投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヨナたちとしても、エクレルさんのためにもエマ王女(王族側)と協力する流れですね!!(*'ω'*) 白の騎士団はほぼ壊滅できたわけだし、なんとかこちらはこちらでエマ王女を救い出して、クーデタ…
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