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異世界のんびり刑務官~異世界で無双?そんなの俺は求めてない。ただ安定した生活がしたいだけなんだ!  作者: 楊楊
プロローグ

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8/22

8 厄介な囚人 2

 深夜、俺はトラッシュの居室を訪ねた。


「旦那。起きてくださいよ」

「・・・何だ?」

「昼間は失礼しました。まずはこれを・・・」


 俺はトラッシュに安物のワインを手渡した。


「ほう・・・分かってるじゃねえか」

「昼間はすみませんでした。一緒にいるジジイがうるさいもんでねえ」

「ところで何のようだ?」

「実は捌いてほしい女がいましてね・・・」


 俺は訳知り顔で言う。


「どんな女だ?」

「それなりの身分で、気の強い女です。ベッドの上ではネコのようになるんですよ」

「おい!!もしかして・・・」

「多分、旦那も知っている女ですよ・・・」

「お前、何者だ?」

「しがない刑務官ですよ。でもちょっと小遣い稼ぎをしたくてね」


 トラッシュは完全にリオネッサ将軍のことだと勘違いしている。

 まあ、そう仕向けたのは俺だけどな。


「流石に会ったばかりの奴には・・・」

「そうですか・・・だったらこちらをどうぞ」


 今度はトラッシュにそこそこいい火酒を手渡す。


「これでどうですか?この話に乗ってくれたら、それ相応の扱いを保証します。それに()()()の許可はもらっていますしね」


 まあ、()()()が誰なのか、俺にも分からないが・・・


 しばらく考えたトラッシュは言う。


「じゃあ、明日の晩に英雄通りの「スレイバー」という酒場を訪ねてみな。「スラッシュ」の代理で来たと言えば、通してくれるだろうさ・・・」


 トラッシュの偽名がスラッシュって・・・


 そこからは酔いの回ったトラッシュから、上機嫌で聞くに堪えない話を延々と聞かされた。


「この前攫った女は、ケツにでっかいホクロがあってな。あれで一気に冷めて、馬車から蹴り落としたんだ・・・」


 多分、直近に被害に遭った男爵令嬢のことを言っているのだろう。

 捜査資料にそのようなことが記載されていた。


「一番興奮したのは、ヤリながらエルフの長耳を切り落とすことだ。恐怖に怯え、泣き叫んでいるのは興奮するし、何より締まりが違うんだ・・・まあそれからスラッシュと呼ばれるように・・・」


 本当に聞くに堪えない話だ。

 俺はトラッシュの火酒に眠り薬をこっそりと入れる。


「まあ旦那、飲んでください」

「悪いな・・・」


 すぐにトラッシュは、いびきをかいて眠りに落ちた。



 ★★★


 別室で待機していたルートナー伯爵にトラッシュとの会話を録音した魔道具を手渡す。

 別室にはルートナー伯爵だけでなく、捜査局の人間も数人待機していた。


 なぜかって?

 俺は捜査に協力していたからだ。


 ルートナー伯爵が言う。


「センパイはこちらの方面にも才能があるようじゃな。儂から捜査局に推薦してやろうか?」

「それはやめてください。安定した生活ができなくなります」

「才能の無駄遣いとはこのことじゃ・・・あの時、センパイのような部下がいれば、今頃儂は宰相に・・・」


 ルートナー伯爵に捜査局の捜査員が報告する。


「裏付け捜査の結果、ほぼ間違いありません。ご協力感謝いたします」


 捜査局の関係者たちは去って行った。



 次の日は久しぶりに平穏だった。

 酒の所為か、薬の所為かは分からないが、日中ずっとトラッシュは寝ていたしな。もしかしたら、薬の分量を間違えたのかもしれないけど・・・


 その日の夜も同じようにトラッシュの相手をした。

 酒を飲ませ、酒に眠り薬を混ぜる。少しトラッシュの相手をしたらすぐに寝た。


 そして3日後、上司がやって来た。


「お疲れ様です。管理官」

「頑張っているようだね?そんな君に休暇をやろう。今日の夜は久しぶりに実家にでも帰ってあげなさい」

「心遣い感謝します」

「だが、翌朝はきちんと出勤するように。遅刻は許されないからね。この意味は分かるね?」


 今日の夜は、ここから離れていろ。但し、翌朝はきちんとやることはやれという意味だろう。


 俺は上司の指示に従った。

 実家には帰らず、貴族学校の同期の家に泊まったけどな。


 次の日、出勤していつも通り朝の見回りを行う。

 どういうわけか、上司もルートナー伯爵も捜査局の関係者も待機していた。聞いたところ、監査だという。


 いつもの三人に異常はなかったが、トラッシュの居室をノックしても返事はなかった。

 鍵を開けて中に入る。トラッシュは床に泡を吹いて倒れていた。


「た、大変です!!すぐに治療師を!!」


 慌てた様子で上司とルートナー伯爵がやって来る。


「こ、これは・・・」

「もう息がない。どんな治療師でも助けることはできんな」

「仕方ありませんね・・・センパイ、発見報告書を早急に作成し、提出するように。私は刑務局長に報告に行く。後の処理は任せたよ」


 手際よく、捜査局の人間が居室に入って来る。

 もうここまでくれば分かるだろう。トラッシュは処理されたというわけだ。



 ここからは小耳に挟んだ話だ。

 トラッシュの実家ガベージ侯爵家は、有力貴族でその権力を使って捜査妨害を繰り返していたようだ。そのため、ずっと容疑者としてトラッシュをマークしていた捜査局だが、手が出せずに被害者が増えていくばかりだったそうだ。

 そんな状況で、被害に遭ったのが男爵令嬢だった。流石に貴族が被害者だとガベージ侯爵家でも、もみ消せなかったようだ。


 拘束後も犯行を否認し続けていたトラッシュだったが、俺が供述を引き出したことで、事件は解決する。

 つながりのあった人身売買組織も一網打尽にしたそうだ。それで実家のガベージ侯爵家もトラッシュを諦めたようで、「名誉ある死を」との意向を伝えたという。

 トラッシュの居室から発見された遺書(まあ捏造されたのだろうけど)には、犯行を仄めかす内容が記載されていた。



 犯罪者とはいえ、法律を無視して、勝手に殺していいのか?

 人権はないのか?


 そんなことを思わないでもない。

 ただ、俺は平穏な日常が戻ってきたことに、喜びでいっぱいだった。

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