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異世界のんびり刑務官~異世界で無双?そんなの俺は求めてない。ただ安定した生活がしたいだけなんだ!  作者: 楊楊
プロローグ

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4 お料理改革

 昼食が始まる。

 ちゃっかり、フィオナの面会者で、猫獣人のミケが席に着いている。コイツも俺たちの班が面倒を見ていた貴族学校の後輩だ。フィオナと同じ班だったことがきっかけで、今でも交流がある。因みに平民だが、実家がクロネコ商会という大規模商会を営んでいるので、高額納税者枠で貴族学校に入学を認められた。本人曰く、将来の伝手を作るためだという。


 毎回思うのだが、面会者が被収容者と食事するなんて、ゆるゆる過ぎる。


 毒殺されたらどうするんだ!?


 それはそれでいいらしい。

 面倒なことになるよりは、ひっそりと死んでくれたほうが・・・という論理だ。


 それはさておき、厚かましいミケが話始める。


「今日のメニューは何かニャ?」

「ミケったら、新作の魚料理だって知って、今日来たんでしょ?」

「そうじゃないニャ。フィオナにもセンパイにも会いたかったニャ」


「ミケ、今回の新メニューをリサーチして来たのは分かっているんだぞ。先週来た時、クマーラさんに仕切りに聞いていただろう?」


「センパイは相変わらず鋭いニャ。是非とも私と結婚してクロネコ商会を盛り立てるニャ」


「遠慮しておくよ。クロネコ商会はオンボーロ帝国で5本の指に数えられる大商会だけど、公務員には勝てないよ。安定感が違うからな。クロネコ商会が潰れることはあっても、オンボーロ帝国が崩壊することなんて、俺たちが生きている間は絶対ないだろうしな」


「センパイはいつも、それだニャ・・・」


 しばらくして、料理が運ばれてくる。

 熊獣人で、料理人のクマーラさんが運んで来た。


「新メニューのシタビラメのムニエルだよ。これもセンパイのアイデアさ。こんな魚がここまで旨くなるなんて、信じられなかったよ」


「流石はセンパイだニャ!!」

「センパイは凄いです!!」


 全然、凄くない。

 前世の知識を使っただけだ。帝都アルトモではシタビラメの評価は低い。前世では高級魚だったけどな。

 それを知った俺は、格安で買えるシタビラメに目を付けたというわけだ。


「シタビラメがこの味・・・すぐにクロネコ商会でシタビラメを買い占めるニャ!!クマーラさん、すぐにデザートも持って来てほしいニャ。食べたらすぐに市場に行かないといけないニャ」


「分かったよ。相変わらず、忙しないね・・・」


 大急ぎで料理を平らげ、去って行くミケ。

 生温かい目で、一同が見つめる。


 リオネッサ将軍が言う。


「それにしても、クマーラは腕を上げたな。最初は酷かったからな・・・」

「将軍様、腕は良かったんだよ。ただ、やる気を無くしてただけさ」

「どっちでもいいが、それもこれもセンパイの手柄だな」

「それはアタイも同意するよ」


 俺もそう思う。

 最初は本当に酷かったからな・・・



 ★★★


 話は少し遡る。あれは俺がここに赴任した半年前だ。

 俺の信条は「何も変えない」「バンザイ!!前例踏襲」で、自他ともに認める生粋の事なかれ主義者だ。しかし、そんな俺でも改革を決意せざる得ない状況に陥っていた。あまりにもクマーラさんの作った料理が不味いからだ。


 フィオナ嬢も閣下も閉口していた。

 唯一リオネッサ将軍だけは擁護していた。


「戦場では食えるだけでも有難い。この料理は戦場を思い出すな・・・」


 全然褒めてないけどな。


 まあ、クマーラさんにも同情の余地はある。

 クマーラさんは亡くなった旦那さんと一緒に帝都でそこそこ有名なレストランを営んでいたそうだ。しかし、旦那さんが亡くなってすぐに悪徳商人に騙され、命よりも大切な店を奪われた。また、嫌がらせでどこのレストランにも雇ってもらえなかったそうだ。仕方なく欠員が出た「嘆きの塔」の料理人になったのだった。


 一流の料理人からしたら、満足な食材も使えず、貴族とはいえ囚人の食事を作るなんて、プライドが許さないだろう。それは十分に分かる。しかし、それでも許せないくらいに料理が不味かった。

 原因ははっきりしていた。やる気を完全に失っていたからだ。

 勤務中に酒は飲むし、遅刻は常習犯だ。料理も適当に食材を切って焼くか、鍋で煮るかだ。酩酊状態で料理をするので、塩すらも入れ忘れることもあった。もう料理なんて呼べる代物ではなかった。


 料理人とはいえ、文句を言えば、トラブルになると思った俺は3日は我慢した。

 しかし、それが限界だった。


「クマーラさん!!少しはまともな料理を作ってください。流石にこれは・・・」

「うるさいねえ!!私は大貴族や皇族まで食べに来るレストランの料理人だったんだよ。それが今では、こんなゴミみたいな食材で、罪人の飯を作らされるなんて、屈辱だよ」

「罪人ではありません。まだ刑が確定してませんし、それに彼女たちは高貴な・・・」


 クマーラさんは酒瓶を投げ付けてきた。

 何とか、躱すことができた。これも「マルチタレント」のジョブのお蔭かもしれない。

 それはさておき、クマーラさんをどうしようか悩む。上司に勤務態度不良で解雇するようにお願いしたが、断られた。


「君の意見も十分に理解できる。だが、君はここにまともで、やる気に溢れた料理人が来ると思うかね?」


 絶対に来ないだろうな・・・


「君の将来の夢は?」

「はい!!料理人になって、囚人に美味しい料理を食べさせてあげたいです!!」


 そんな奴は地球にもこの世界にもいないだろう。いたら確実に頭がおかしい奴だ。


「ということで、私は君からは何の報告も受けてない。そういうことでいいね?」

「は、はい・・・」


 この上司も俺と同じ生粋の事なかれ主義者だからな・・・


 これが刑務官になって初めて経験する試練だった。

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